第17話 夜襲





ーー リンデール王国 対オルガス帝国最前線の砦 コニール兵長 ーー





「おいおい……オルガスの砦よう、昨日より明かりの数が多くないか? 第一騎士団がいないことに気付かれたんじゃねえか? 」


「確かに昨日よりも帝国の砦に灯る明かりが多いな……第一騎士団がいないことがバレた可能性は高いかもな。5日前の小競り合いとその前の戦闘で姿を見せなかったからな。ギルセリオ団長は亜人奴隷を解放させるとか、亜人軍の残党狩りをやめるように王に直談判するって意気込んで出発していったけどこっちはそれどころじゃないってんだよな」


第一騎士団は3週間前に王都から王都防衛軍に組み込むとの命令があり、ギルセリオ団長以下騎士100人と従士以下1000人が2週間前にこの最前線の砦から離れてしまった。

同僚のケルメルの言う通り、そのことに気付かれたかもな。そしてこれを好機とみてオルガス帝国は大攻勢を掛けるつもりなのかもしれない。


この砦には第一王子の子飼いの第二騎士団と2万の兵士がまだ残されているが、第一騎士団がいなくなったことで皆が不安になっていた。常に国境近くの海岸で魔物狩りをしているような狂人ばかりだが、彼らの武力は王国一、いや世界一と言っても過言ではないからだ。


なんといっても団長はAランクな上に、正騎士全員がBランクなのだから。

正直こんな騎士団は聞いたことがない。

王子が何度も口説いていたが、第一騎士団は代々政治に関わらない騎士団で有名だ。

やはり王族付きの騎士団になることを断ったそうだ。

第二騎士団もBランクが10名もいるし強いんだけど、やっぱ第一騎士団と比べると見劣りするよな。


オルガスの奴らもそれはわかっていて、第一騎士団がいる間はなかなか大攻勢は掛けてこなかった。

ここ数十年は第一騎士団がいない時しか大攻勢を掛けてきていないそうだ。

だから第一騎士団がいないことが知られれば、オルガスの奴らは攻めてくるかも知れないのでこの事は伏せられていた。けど、5日前とその前の小競り合いで第一騎士団がいないことがバレたのかもしれないな。


「第一騎士団か……相変わらずだな。なんでそこまで魔物に肩入れすんだろうな。教会の教えじゃエルフも獣人も竜人でさえ、魔王軍が攻めてきた時に魔王側に付いた種族だ。あんな魔族に味方した奴らなんか奴隷になって当然だろ。しかも勇光軍とかいう反乱軍を結成して、未だに王国に歯向かってる奴らもいる」


「ギルセリオ家は特殊なんだよ。教会の教えに常に逆らっているしな。だから第一騎士団に悟られないよう、ほかの砦より遅れて獣人のメスが来たんだろ。でもまあギルセリオ団長がいないおかげで、オーク繁殖施設に放り込む前に俺たちも楽しめたんだ。獣臭かったけど、こんな最前線じゃあんなのでもスッキリはしたんだから文句言うなって」


「確かに臭かったけどスッキリはしたな。ぎゃーぎゃー鳴いてうるさかったけどな。まあその点は第一騎士団がいなかったことには感謝だな。いたら王命でも逆らって獣人を逃してたかもな」


確かにあの団長ならやりかねないな。

それにしても団長の亜人擁護は筋金入りだ。確か3代前の団長が教会から破門を突きつけられ、逆に教皇に対して破門を突きつけたのは有名な話だ。教会は異端審問を行うとか言っていたけど、王国は魔王との戦いでギルセリオ家に多大な恩があるらしく仲裁に入りことなきを得たらしい。


まあだから増長したんだろうな。でもそれをいさめようとしても、ギルセリオ団長には誰も敵わないんだよな。

あのミスリルの大剣から繰り出される竜巻の刃はとんでもない代物だ。なにしろ3発くらい撃っただけでオルガス帝国の魔力障壁車を壊滅させるほどだ。

第一騎士団がいればムーアン大陸に侵攻しても勝てそうなんだけど、王国は西に逃げた亜人軍の残党を掃討するまで侵攻しないらしい。

まあ西の果てにいて力を蓄えてるらしいから、王都が手薄になったところに後方撹乱されたら堪らないのはわかる。

だから第2王子が2ヶ月前に王都から大戦力で討伐しに行ったらしいんだけど、どうなったんだろうな?

ここまで情報が回って来ないんだよな。


そんな第一騎士団だけど、本来なら王都を守る騎士団なのに歴代の王に疎まれて最前線送りだ。

俺たちはそれで助かっているが、亜人は王国の恩人だとか馬鹿なこと言って亜人擁護なんかしなきゃ王都で楽できるのにな。


本人に言ったら殺される。いや実際殺された騎士がいるからヘタなことは言えないけど、やっぱりギルセリオ家には亜人の血が入ってるのかもな。

そんな穢れた血が入っていても第一騎士団を任されるのは、過去の功績と民衆からの人気にオルガス帝国という敵とあの武力があるから王国は生かしてるだけなんだろう。


「オークは新兵のランクを上げるのに必須だからな。獣人のメスを与えるのは予想外だったけど、近々戦力増強の予定でもあるのかもしれない。もしかしたら第2王子が亜人軍の討伐に成功したのかも。今後帝国に逆侵攻する計画があるのかもな」


「げっ! マジかよ……野戦とか死ぬ確率高いじゃないか。そういうのは第一騎士団だけやってくれればいいんだけどな。俺は砦で引きこもって遠くから魔銃を撃ってたいぜ」


「王国の援助で国を再興したくせに、王国の技術を盗んで大陸を征服した国だからな。いずれは討伐しないといけない国だろ帝国は。できれば戦争なんかしたくないけ……」


ドーーーン!


「うおっ! 」


「な、なんだ! 凄い揺れ……」


俺が暗闇の中、双眼鏡を覗き遠くにある帝国の砦を見ながら話していると、いきなり後方から大きな音がした。

そしてそれと同時に砦の壁全体が揺れ、俺たちはバランスを崩し尻餅をついた。


「魔導砲の暴発か!? いや、こんな夜中に魔導砲をいじるバカなんかいないか」


「王国方面から爆発音がしたよな。ちょっと見てくる!……え? 」


「なっ! ド、ドラゴン!? 」


「鎧を着たドラゴン!? ま、まさか暴嵐竜!? いや、あり得ない! ここは大陸の東だぞ! 暴嵐竜は西にいるはず! それに内陸に来るなんて聞いたことない! 」


俺が西の歩哨所に行こうとすると突然頭上をドラゴンが通り過ぎた。

暗くてよくわからなかったが、松明に照らされたその胴体には鎧が確かに装着されていた。

鎧を着たドラゴンなんて一頭しかいない。けど、そのドラゴンは大陸の西の端にいて、過去一度も内陸まで来たことがない。

でもそれならあのドラゴンはなんだ?

まさかさっきの爆発音はあのドラゴンが?


「お、おい! 敵襲の信号弾だ! 西門からだぞ! 」


「あのドラゴンのことじゃないのか!? と、とにかく行こう! この砦の装備ならドラゴンだって追い返せるはずだ! 負傷者の救助をしよう! 」


俺は怖かったけどこの砦は最前線だ。対空魔導砲も大量に配備されている。砲手がきっとドラゴンを追い返してくれるはずた。

俺たちはまずは負傷者の救助をしないと。


そして上空を旋回するドラゴンに対空砲が放たれるのを横目に、俺たちは東門へとやってきた。


「門が! 」


「門が吹き飛んでいる……まさかさっきの爆発音は門が吹き飛んだ音だったのか? ドラゴンのブレスか!? この砦の門は鋼鉄製だぞ!? なんて威力だ……」


西門にたどり着くと、そこにはベッコリとへこんだ門扉が複数の兵を下敷きにして広場に転がっていた。


あり得ない……壁から50mは離れてる。あの鋼鉄製の門がヘコんだうえにここまで飛ばされるなんて……


《 魔物だ! 魔物がやってくるぞ! 鳥の魔物と巨大なオークだ! 》


《 砲兵! 西だ! 西を狙え! ヴェール大陸から魔物が侵攻してきたぞ! 》


「え? なんで? ヴェール大陸は西に……ここまでくるには王都が……俺の故郷を通らないと……」


「コニール! やばい! とにかく魔物の侵入を防がないと! 魔銃を……あぎっ! 」


「ケ……ケルメル? あ……ああ……」


俺に語りかけていたケルメルの頭が突然無くなった……

そしてその背後には鋭い爪を赤く染め、腕に鱗を生やす竜人のオスの姿があった。

その竜人は残されたケルメルの胴体を掴み、まるで物のように城壁の外へと投げ捨てた。


「フンッ! 人族よ、同胞の仇だ。驕り高ぶりかつての仲間であった我らを排斥した報いを受けるがいい! 」


「ヒッ!? う、うわああぁぁぁ! 」


俺は竜人を前にして恐怖のあまり、手に持っていた魔銃を撃ち込んだ。


バシュッ! バシュッ! バシュッ!


パシーン パシーン パシーン


「そんなおもちゃなど我らには効かない。レジストってやつだな。お前は両腕を切り落としてから、生きたまま落としてやろう」


「ヒッ!や、やめ……ぎゃあああ! 」


い、痛い……腕が……あ……頭を掴んで……や、やめ……お、落ちる! 落ちるー!


俺は両腕を切り飛ばされ頭を鷲掴みにされ、魔物がいる西門へと投げ落とされた。

地上に落ちている間、最後に見えたのは大量の鎧を着たオークが口を開けて待ち構えている光景だった。


喰われる……


そこで俺の意識は途絶えた……








ーー リンデール王国 対オルガス帝国最前線の砦 佐藤 光希 ーー






「チッ! 『水弾』! 火を消せ! 燃やすのは食糧と装備を回収してからだ! 」


俺は砦内の松明を振り回すオーガに水弾を飛ばし昏倒させ、周囲の魔物に燃え移った火を消すように指示をした。


西の砦を攻略した当日の深夜。

俺たちは光魔王軍は7軍に分かれてリンデール王国内にある全ての砦へ同時侵攻した。

俺とシルフィが魔族とエルフと竜人の混成軍5千を率いて最前線のこの砦を担当し、蘭と凛・セルシアと夏海でそれぞれ6千の混成軍を率い別の砦へと攻め入っている。

その他はゼルムとエフィル、リムとミラとユリがそれぞれ6千を率い残りの砦を。

吸血鬼とサキュバスとダークエルフの混成部隊は、各砦のオーク繁殖施設を急襲しているところだ。


「さて、東はオルガスとかいう帝国の砦だ。逃げ場はないから楽だな」


「夜襲で抵抗も散発的だし、魔導砲を早々に潰したからあとは掃討戦ね。あ、紫音から繁殖施設の制圧と救出完了の報告が来たわ。コウ、行ってあげて」


「わかった。俺は各砦にそのまま転移で回って被害者の女性たちを回収するから、シルフィはここを頼む。勢い余って魔族たちがオルガスの砦に行かないように見張っててくれ。言うことを聞かなかったらドーラで吹き飛ばしていい」


「わかったわ。あそこにはオーク施設っぽいのが無いものね。王国を滅ぼしてからね」


「ああ、どこかにまとめてあるのかもな。リンデールみたいに獣人を苗床にしていなきゃいいけどな。吸血鬼たちに数人攫っておくように言っておくか。じゃあ行ってくる」


「んっ……行ってらっしゃいコウ」


俺はシルフィにキスをして、ドーラの背から砦の王国側に隣接されているオーク繁殖施設へと向かった。


そこでは300人ほどの獣人の女性猿ぐつわをされ、眠り茸の粉で寝かされていた。

その横には20人ほどの獣人の男もいたが、どれも四肢を欠損している様子だった。


「紫音に桜、ご苦労様。これで全員か? 」


「光希様! はい。これで全員です」


「……ヨユーだった」


「そうか。四肢を欠損している獣人の男たちはまさかとは思うが……」


「はい……施設の兵に四肢を切られて、自分の腕や足がオークに食べられるのを見せられたようです」


「……暇つぶしに笑いながらやられたと言っていた」


暇つぶしで獣人で遊んだのか。ここまで残酷になれるのはもう手遅れかもしれないな。

教会と王国の罪は重いが、この後の教育で元に戻るのかこれ?

大人は駄目だな。子供を徹底的に教育させないとな。いや、これからの人族にそんな余裕はないか。


教会は教皇以下司教は皆殺しにして、司祭以下は死ぬまで各大陸を回らせるか。

シスターだけ残しておけばいいだろう。

面倒だから教会の奴らはもう全員隷属させよう。


「とりあえず西の砦にゲートを繋ぐから、連れて行って介抱してやってくれ。最後にまとめて治療するから。俺はほかの砦を回ってくる。『ゲート』 」


「はい。すぐに運びます」


「……わかった。戻ったらご褒美のちゅーを所望」


「またキッチンでな。それじゃああとは頼む」


俺はそう言ってセルシアと夏海がいる砦へと転移をした。

俺が転移をすると砦は掃討戦に移っており、セルシアと夏海が大きな声で指示をしながら空を飛び回っていた。

俺は邪魔をしたら悪いので二人には声を掛けず、オーク繁殖施設へと向かい獣人女性200人と子供を含む男12人をゲートで後方の砦へと移動させた。


次に凛と蘭のいる砦へと向かうと、王都に一番近いその砦は燃え盛っていた。

俺は蘭と凛に心話を繋いだ。


《 凛、蘭。食糧と装備は回収したのか? 》


《 あ、ダーリン! 全部回収して今は火葬してるとこよ 》


《 はい! 一人残らずお亡くなりになったので火葬中です! 》


《 そうか、なら俺が獣人女性たちを回収したらメテオで派手に壊してやれ 》


《 はい! 主様! 》


《 ダーリン、コイツら人間じゃないわ! 獣人の四肢を目の前でオークに食べさせてたのよ! 虫以下の存在よ! 》


《 ほかのとこもそうだったよ。ここまで残酷になれるのとはな……俺は獣人女性たちを回収するからあとは頼む 》


《 任せて! 全て消し炭にしてあげるわ! 》


俺は心話を切ってオーク繁殖施設へと向かった。


そしてほかの施設と同じように獣人女性たちをゲートで後方に送り、リムたちのいる砦へと向かうのだった。


やはり砦を同時侵攻してよかった。

こんな地獄を獣人たちは毎日見せられてたとはな。

しかしこの調子だと3千人近くに時戻しをしなきゃならなくなりそうだ。


リンデールの奴らはほんとにロクなことしねぇな。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る