第78話 攻略された方舟
大世界砂漠フィールドの攻略を開始して10日目。
俺たちは最後となる砂漠フィールドでもうほとんど作業といった感じで魔物を狩っていた。
そしてもうそろそろボスが出るかなと、スフィンクスとデザートミノタウロスの群れを上空から包囲殲滅していた。すると突然俺たちの前に100匹ほどのレッドスコーピオンを引き連れたデビルスコーピオンが現れた。
「オイオイ、突然目の前に現れるとかこんなの今まで無かったぞ? リム! 結界を張って退け! 悪魔の霧が出るぞ! 」
「ハッ! 総員退避! 」
「光一! お前も一旦退け! 距離をとって仕切り直す! 」
「わかった! グリ美、移動するぞ! 『転移』 」
「クオン! 距離を取れ! シルフィは霧が出たら吹き飛ばしてくれ! 」
「わかったわ! 」
「クオッ! 」
《 ギギギギギ…… 》
俺は皆に突然真下に現れたボスの軍団から一旦距離を置くよう指示をしたが、全員が退避を始めたところでデビルスコーピオンが酸と猛毒の霧を尾から噴き出した。
「チッ! ずいぶんと今回は早いな。シルフィ! 」
「まかせて! シルフよ! 霧を吹き飛ばして! 『シルフの暴風』 」
思ったより早く霧を噴き出したデビルスコーピオンだったが、シルフィがすぐさま精霊魔法によって霧を後方に吹き飛ばした。
さすがに体長が10mもあるレッドスコーピオンは吹き飛ばされてひっくり返る程度だったが、そのレッドスコーピオンを踏み潰しながらデビルスコーピオンが俺たちの方へ突進してきたことで、うまくボスだけを引き離すことができた。
いきなり目の前に現れるとはな……この悪魔の霧と呼ばれる霧の毒は結界で難なく防げるが酸の方は強力で、霧の中に入ると中級結界だと2~3分しか耐えられないんだ。
いつもなら追い詰められた時に吹き出すんだが、今回は奇襲のつもりか? 最後のフィールドだからって難易度いきなり上げるなよな。意地の悪い創造神だな。
「さすがにちょっと焦ったわ。いつも通り離れたところに現れると思ってたのに……」
「そうね、今回は私たちは手を出さないつもりだったけど、そうもいかなかったわね」
「神様も意地わりーよなー」
「セルトもデビルスコーピオンもずっと現れるパターンが同じでしたからね。今回の現れ方は奇襲のような形になりましたね」
「蘭もびっくりしました」
「最後のフィールドだからな。ドッキリというより試練のつもりなんだろう。ボスは離れた所に現れるって先入観を植え付けてから、一番厄介なのを目の前に出現させるとはな。意地の悪い……」
これが軍だったらかなりの犠牲を出してたぞ? あと少しって皆が思っているところで全滅させにくるとはな。悪魔系のダンジョンかっての!
「光希! ボスは俺がやる! 手を出さないでくれ! 」
「ああ、約束だからな。全力でやってこい! そいつを倒したらゲームクリアだ」
「ああ! 速攻で倒してくる! グリ美、サンキューな。後方にいてくれ。『転移』 」
「キュオッ! 」
「逞しくなったな」
グリ美を置いてデビルスコーピオンの前に転移していく光一を見て、俺はふとそう思った。
最初会った時、夏美を失った時、そして山岳と砂漠で鍛えられたいまの光一。たった数ヶ月の間にみるみると強くなっていった。もちろん俺が与えた魔法のおかげもある。だが、どんなに凄い魔法を持っていても使いこなせるかどうかは別の話だ。光一は凄まじいスピードで魔法の熟練度を上げていった。
それはやはり強くなりたいという想いと、大切な人な人を二度と失いたくないという想いが強かったからなんだと思う。
光一はほんとに俺と同じ道を歩んでるな……一部マッチポンプだけど。
「光一さんカッコ良くなったわよね。でもダーリンにはまだまだ及ばないけど」
「ふふっ、そうね。甘さが消えたわね。いつか勇者になれるんじゃないかしら」
「まあ最初よりは強くなったよな! あたしほどじゃないけどなっ! 」
「いま光一さんと戦えば勝てるか微妙ですね。雷矢と風刃の牽制が上手くなりましたし」
「うふふ、昔の主様に似てきました」
「そうだな。俺は光一を見てくるからレッドスコーピオンを頼む『飛翔』 」
俺は恋人たちとリムたちにひっくり返ったり他の者と絡まったりしているレッドスコーピオンを任せ、光一の後を追った。
後方では凛がさっそく氷河期を発動してレッドスコーピオンの動きを止め、そこへリムたちが急降下攻撃を仕掛け急所である背の中央を的確に突いて処理していっていた。
リムにミラやユリも強くなったな。もともとAランクだったのもあるが、この世界に来て魔力と物攻に素早さなどがSランクになった。以蔵たちとも競いつつも仲良くやってるようだしな。
どうもサキュバスが親衛隊で、ダークエルフが御庭番衆という役割を担うことで合意したらしい。
和と洋がごちゃ混ぜで何がしたいのかよくわからんけど。
「『氷結地獄』 まずは尻尾だ! オラッ! 」
《 ギキーーッ! 》
「『空気圧壊』 『天雷』 次はハサミ! 」
《ギギッ! 》
「『転移』 これで背中は無防備だ! 喰らえっ! 『冥界の黒炎』 」
《 ギギギギギ……ギ……》
「ハァハァ…… 一昨日よりうまく倒せたな」
俺が光一に追いつくと、もう既にデビルスコーピオンとの戦いは終わりを迎えるところだった。
凍らせて動きを止めて一番厄介な尾を切断し、氷を砕きハサミを振り払おうとするデビルスコーピオンに空気圧壊を掛けてハサミを降ろさせ、そしてハサミを斬り飛ばしてから弱点である背に剣を突き刺し冥界の黒炎か。もう5戦目だからだいぶスムーズに倒せるようになったな。
初めて光一がデビルスコーピオンと戦った時は、猛毒をモロに受けて後手後手だったからな。
「おお〜もうデビルスコーピオンは敵じゃないな」
「なんだ見てたのか。まだまだだよ。光希に情報をもらっていたにも関わらず初見の時には後手後手だったしな。何回も戦ったのに昨日のセルトも手こずったし」
「一人で戦うわけじゃないしな。軍もいるしボスさえ倒せるようになったならもう大丈夫だろう。大世界の再攻略も問題なくできるさ」
「100年後だろ? 俺の魔力で寿命が150年だっけ? 身体が動くか心配だな」
「大丈夫だ。うちの会社の社員は死なせてくださいと本人が言うまで永遠に死ねないからな」
お前が死ぬとまた俺に仕事が回って来そうだしな。死にたいと言っても死なせないかもしれん。
「なんだよその生き地獄……ん? 永遠? まさか!? 」
「そのまさかだ。ほらよっ! 」
俺はアイテムボックスから50個ほどのビチピチュの実の入った布袋を取り出し光一へと投げ渡した。
方舟支社に餌用に置いていく10個も必要だから、これで在庫がもう70個ほどしか無くなってしまった。思えば色々と放出したからな。また帰ったら取りに行って貯めておかないと。
「うわっと! これはお袋に食べさせたあの!? しかもこ、こんなに……」
「元の世界に帰っても俺はいつでもここに来れるからその時に魔法で若返らせてやるつもりだが、俺も何があるか分からないからな。俺が10年経っても現れなかったらそれを食え。数が多いのはお前だけ若返ってお袋や恋人が死ぬのを見たくないだろ? あんまハーレム増やし過ぎんなよ? 」
「一人10個ということか。そうだな。この大世界を再攻略してからゆっくり寿命を迎えるか。サンキュー光希! 」
おいっ! コイツ俺が死んでもう来ないと思ってんのか!? それにあと二人ハーレム増員するつもりなのか!? なんて奴だ!
「俺に万が一があった時の保険だよ! 決めた! お前は絶対寿命で死なせない! 俺がまたどっかの異世界に召喚される時はお前を推薦してやるからな! 覚えとけ! 」
「なっ!? じょ、冗談だよ。俺はこの方舟で開拓とかやることあるから勘弁してくれよ」
「さあな、せいぜい休むことなく鍛えとくんだな。ほらっ! 早く神殿に行け! この砂漠は日印亜連合に貸すことになってるから間違えんなよ! 」
「うへぇ、マジ勘弁だよ……『転移』」
光一はウンザリした顔で上空へ転移をし神殿へと向かって行った。
夏美を生き返らせることができるのが近いからか少し浮かれた様子だったな。
思えば光一の軽口は久々に聞いた気がする。
『蘭、予定通り頼む』
『はいっ! もう一人のなっちゃんと玲ちゃんを連れてきます! うふふ、蘭はドキドキしてきました』
俺は蘭に先に出てもらい拠点で今か今かと待つ夏美を連れてくるように言った。
感動のご対面ってな。
まあ光一はよく頑張ったよ。あれなら他国にもナメられないだろう。
さて、それよりも外の門にある五芒星が全部光ったら何が出てくるかな。
ちょっと楽しみだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます