第15話 希望
市長に今後俺たちがやろうとしている事を一通り説明した。
市長と防衛隊隊長とキャロルは、俺の行動の目的や将来のオーストラリアのビジョンを聞いて、驚きつつもそれならばオーストラリア大陸に住む人々にとって良い未来が築けると、全面的な協力をしてくれることを約束してくれた。
うちも儲かるし、パース市のみならずオーストラリア大陸に住む人々が将来幸せになれるWin-Winの提案だから当然だな。凛なんて俺に抱きついて、『悪魔、いえ悪魔的商才ね! ダーリン大好き! 』と、終始ベタ褒めだった。
褒められてるんだよな?
当面は市長に各国への独立宣言と、街の北側に残っているというクイーンズランド都市連合の兵士たち及び工作員をあぶり出して捕らえるよう頼み、俺はヤンと恋人たちを連れて市庁舎を出た。
市庁舎を出るとそこには黒塗りの二台の車が停まっており、街に潜入していたサキュバスのレムとインキュバスのカイが車の横に立っていた。二人は俺に一礼したあと車の後部ドアを開けて乗るように促した。
リムに言われて迎えに来たのか。しかしなんとまあ……まさにマフィアって感じの格好だな。
俺は長い黒髪を垂らし、白のスーツ姿に黒のシャツの胸元を大きく開けているインキュバスのカイと、青い髪をまとめ胸もとに白い扇子を忍ばせて、下着が見えるほど深いスリットの入っている白のドレスを着ているレムを見てそう思っていた。
確かレムは蘭に憧れていたな。あの扇子は蘭の真似か?
「カイにレム。犯人の捕縛と飛竜退治ご苦労さん。あとでほかの二人も含めて探知の魔法を付与してやる。今後もよろしくな」
「ハッ! ありがたき幸せ。光魔王様のお役に立つ機会を得られ光栄です」
「ハッ! もったいなきお言葉。ほかの者たちも喜ぶでしょう」
「ほかの二人も2勢力にそれぞれ潜入して情報を集めてくれたからな。さて、それじゃあ拠点に案内してくれ」
俺はそう言って蘭たちをレムの車に乗せ、俺はヤンと共にカイの車に乗り込んだ。
そしてそれから15分ほど走り、スラム街に入ったところで俺はなんともいたたまれない気持ちにさせられるのだった。
「カイ? なんだこれは……」
「ハッ! 光魔王様がお越しになるので、ナイトメア傘下の者とそこで働く者たちに出迎えるよう指示しました」
「そうか……」
俺はカイのさも当然のことと言わんばかりの返答に、何も言い返す気になれず現状を受け入れることにした。
俺の乗る車が通る道の両端にはズラリと厳つい野郎どもと、娼婦のような格好をした者たちが全員頭を下げてこの車を見送っていた。俺は夜王か何かかよ。
俺がいつの間にか夜の王のような扱いになっていたことにゲンナリしていると、車が三階建てのビルの前で止まった。拠点に着きましたとカイが言うので、俺はさっさと降りてビルの中に入ることにした。
もちろんビルの前にも人のアーチができていて、頭を下げるその人の列の前を俺と恋人たちはドン引きしながら進むのだった。
これがメイド服を着た可愛い女の子ならまた違うんだが、厳つい男たちが銃と剣を腰にぶら下げてるんだぜ? カイの顔を潰さないよう我慢したが、本音ではとっとと解散させたかったよ。
先に来ているはずのリムや以蔵たちの姿がみえないからどうしているのか聞いたら、俺たちが泊まる予定の3階の清掃と2階で自分たちのテントの設営に食事の用意をしているらしい。
ほんと気の利く配下たちで助かるよ。
俺は恋人たちを先に3階に行かせヤンを連れて地下の部屋に行き、正統オーストラリアとクイーンズランド都市連合の捕虜と魔誘香を横流しした米兵と面会することにした。
まず最初に米兵に隷属の首輪を嵌めたのちに契約の魔法を掛け、カメラの前で洗いざらい全て吐かせてからカイに港に停泊している米艦隊に引き渡すように言いつけた。
大統領から連絡がいっているはずだからちゃんと引き取ってもらえるだろう。コイツの処理は米国に任せればいい。恐らく生きていては困る存在だから人知れず処分されるだろう。
公式には米国は魔誘香の横流しなどしておらず、今回ダーリントンを襲った魔物は正統オーストラリアから横流しされた魔誘香を使い、クイーンズランド都市連合がやったという事になる。
そのためにはこの男には生きていたままでは困るというわけだ。
この男はたかだかギャンブルの借金返済のために一番やっちゃいけないことをした。コイツのせいで米兵がダーリントン基地でたくさん死んだ。自業自得だな。
俺は米国に引き渡されると聞いて助かったとか言ってるこの男を憐れみながら、カイに連れられて部屋を出て行くのを見送った。街を出たらグリフォンに乗って空母に届けるように言ってあるから、すぐ戻ってくるだろう。
続いて正統オーストラリアの兵士と、クイーンズランド都市連合の兵士三人にも同様の方法で契約魔法を掛け、動画撮影をしながら全ての質問に答えさせた。
まず一番最初に魔誘香をダーリントン鉱床の北にあるクイーンズランド都市連合の基地に向けて使った正統オーストラリアだが、これは大統領と諜報機関及び軍によって計画されたことだった。
ノーコストノーリスクで魔物によって基地を破壊し、クイーンズランドの陸上部隊を壊滅させダーリントン鉱床の支配圏を広げようとしていたようだ。ところが1回目の攻撃では基地を破壊しきることができず、すぐに基地の修復と人員の補充をされ、今回二度目の作戦のために偵察にきていたところを俺たちに捕まったらしい。これでもコイツらは工作専門の特殊部隊でエリートらしい。それを聞いた時は笑ってしまったけどな。
別室にいるクイーンズランドの兵士が言うには、都市連合はダーリントンの基地に魔物を差し向けたのは正統オーストラリアだと確定しており、その報復にと正統オーストラリア軍の内通者や米兵を買収するなどで魔誘香を集め今回実行したようだ。
だが、大陸の東から南には思っていたより飛行系魔物が多く、魔誘香を撒き終わり部隊の仲間を多数失いつつも命からがら海岸へ逃げたところで俺たちに捕まったらしい。
しかし魔物を多く集め過ぎて、修復したばかりの自分たちのダーリントン基地に飛竜を誘導してりゃ世話ないよな。こっちに戻る前に以蔵たちに命じて飛竜は処理したが、クイーンズランド都市連合の基地はかなり破壊されていたらしい。
港は封鎖しているからクイーンズランド都市連合からの救援は望めないだろう。ダーリントン基地からパース市に来れば全員捕らえるだけだしな。
しかしまあくだらない争いに俺の魔道具を使ってくれたもんだ。だから信用できる組織か国にしか売りたくないんだよな。スクロールはまだいい、兵士相手に使う使わないができるからな。しかし魔誘香は使い方を誤ったら最悪だ。魔物の動きなんて制御できるはずがないから民間人にも被害が出る。
面倒だが在庫もなにもかも全て回収しないといけない。
ちなみに俺が造った魔道具は俺の魔力で出来ているため、スクロールほか魔石や魔導基盤を使った手の込んだものであればあるほど長期間追跡することができる。魔誘香はほとんど調合のみでできた物なので、容器に俺の魔力を刻印してあるだけだけどな。これは少量の魔力だから二、三年したら追跡は難しくなる。
つまり魔誘香に関しては製造から二、三年以内なら、俺が街に入ればどこに隠していようとも見つけることができるってことだ。ある程度近づく必要はあるけどな。
俺は捕虜に一通り質問したのちに地下室から出て3階へ向かうのだった。
さて、明日から一気に片付けるかな。
―― オーストラリア大陸 東部 ブリスベン市 クイーンズランド都市連合 議長 ルーカス・ブラッドマン ――
『ルーカス、それで基地を襲ったワイバーンはまだ? 』
「いや、先ほどダーリントン基地より連絡があり、二頭のワイバーンは討伐されたそうだ」
ケアンズの代表議員であり私の友人でもあるピーター・フローリーが、ダーリントン基地を襲撃してきたワイバーンの件をテレビ電話を通して訪ねてきた。
それに対し私はつい先ほど入った情報を伝えた。
『ほう……ワイバーンをか……しかしいったいどうやって? パースのテイラー市長以外にワイバーンを倒せる者などこの大陸にはいないはずだが……』
「それが三頭のロックドラゴンが突然現れてワイバーンをブレスで倒し、その身体ごと持ち帰っていったそうだ」
まさか正統オーストラリアと米国の基地を襲うつもりが、我が連合の基地にまで魔物を誘導してしまうとは……ワイバーン二頭とガーゴイルの攻撃を受け基地を破壊され、前回の正統オーストラリアによる魔物を使った襲撃以上の戦死者を出してしまった。
不幸中の幸いで東の山岳にいるロックドラゴンがワイバーンを討伐してくれたがどうもおかしい。そのロックドラゴンの胴体はグレーではなくダークブラウンだったという。それにこの大陸にいるロックドラゴンは二頭のはずだ。
新たにダンジョンから現れたのか? だとしたらそれはそれで問題だ。
『ロックドラゴンがか? それに三頭? 新たにダンジョンから出てきたのか? 』
「いや、そういう報告は無い。しかし三頭いたのは間違いないそうだ。これは今後調査させる。それよりもピーター、あの魔誘香は凄まじい効果だ。今回は広範囲に数を撒いたために予想外の数を呼び寄せてしまったが、範囲と数を調整すれば米軍であろうと一掃できる」
『確かにたった5つの魔誘香で五千近い魔物を誘き寄せることができるとは予想外だ。今回は報復で行ったがこれは数を集めれば正統オーストラリアを倒せるな』
「残念ながら魔誘香を設置した者たちとは連絡が取れなくなったので、正確な設置範囲と間隔は不明だ。恐らく魔物に呑み込まれたのだろう。精鋭を失ったのは痛いが相応の成果を出してくれた。正統オーストラリアを滅ぼし、大陸の平和を実現させるためにはこの魔誘香は是非とも必要だ。今後ニホンとアメリカに工作員を送り手に入れたいと思う」
報復が目的でその効果をそれほど理解していなかったから、7つ手に入れたうちほ5つを使ってしまった。設置位置も実行部隊に任せっきりにしてしまった。
今思えばもったいないことをした。この魔物の多い大陸であれば、3つでもあの基地を十分破壊することはできただろう。
報復を成し遂げたあとは都市の防衛用にケアンズとブリスベンで持つことになっていたが、これほどの効果があるのであれば防衛用ではなく攻撃用に使いたくなるというものだ。何しろ兵も弾薬もほとんど消費せず一つの基地を壊滅させることができるのだからな。
『今回の成果をソヴェートに報告すればまた軍を派遣してくれるだろう。しかしこれほどの強力なアイテムを、なぜ大国のソヴェートが今まで手に入れていなかったのかが気になる。それだけニホンとアメリカ本土ではアイテムの管理が厳しく手に入りづらいという事ではないのか? 』
「そうだな。正統オーストラリアがニホンとアメリカの口利きでLight mareから購入できたことと、この辺境の地だからこそ管理が甘く手に入りやすかったのかもしれない。しかし高ランク冒険者であれば買えるという。ソヴェートはどの国からも警戒されているが、我々は一地方都市扱いだ。ハニートラップでも買収でも近付けさえすればやりようはある。今はパース市に寄港する補給艦の乗組員からの方が入手しやすいからそちらに力を入れようと思っている」
『ふむ……そうだな。私の都市からパース市に派遣している工作員にも連絡しておこう。アメリカが気付くまで横流しさせれるだけさせるとしよう』
確かにあの手段を選ばないソヴェートが魔誘香を入手できていないのは気になる。恐らく悪名が高すぎて警戒されているからだろう。我々が一定数手に入れることができれば、ソヴェートも喜んで一時撤退させている軍をこちらに再配備してくれるはずだ。そうなれば再度ロットネスト島の占領とパース市の占領、そしてダーリントン鉱床を我々のものにできるだろう。
それにしても凄まじい効果のアイテムだ。これで劣勢であった我がクイーンズランド都市連合も挽回することができる。アメリカはソヴェートに抑えさせ、正統オーストラリア共和国を叩く。
まずはオーストラリア大陸の統一だ。そして正統オーストラリア共和国を名乗る旧大オーストラリア連邦の腐った政治家どもを一掃し、新たな国を造る。
私とピーターは、大陸の統一という希望が見えたことに心躍らせていた。
そう、この時は翌日に悪魔が現れ全てを奪っていくことなど想像すらしていなかったのだ。
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