第12話 来訪者
「旦那さま! 帰ってきたぞ! 何かあったのか? 」
「コウ、マリーから戻って来るように無線があったから急いで帰ってきたけどどうしたの? 」
「光希、戻りました。何かありましたか? 」
「ああ、本土から船がこっちに向かって来ているみたいなんだ。それでみんなを呼び戻したんだ。夏海とセルシアは装備を外してくれ、警戒させちゃうからね」
「わかった! 夏海! 着替えてこようぜ! 」
「動きがありましたか。わかりました、着替えてきます。セルシア、行きましょう」
「あら、慎重な政府なようだからもう少し時間が掛かると思ったけど、案外早かったわね。それなら私もラフな格好に着替えてくるわ」
三原山付近で訓練していたシルフィたちが戻ってきたので状況を説明したら、夏海とシルフィは意外な顔をしつつセルシアを連れてテントへと着替えにいった。
そして少ししてセルシアが白のワンピースに赤髪を後ろで束ねた姿で現れ、夏海がジーンズにTシャツ、シルフィはベージュのスーツ姿で現れた。それと同時に探知にこちらへ向かってくるリムの魔力反応があった。
「来たようだな。外に出迎えに行くか」
「そうね、どんな人が来たのか楽しみだわ」
「多分貧乏くじ引いた外務省の下級官僚じゃない? 」
「役人にとって私たちは貧乏くじの対象となるものね」
「そんな世知辛いこと言うなよ。ほれ、行くぞ」
そう言って俺は恋人たちを格納庫の外に連れ出した。ダークエルフたちやドワーフやホビットたちには特に構えることはないと、好きなことをしてもらっている。クオンも今頃は三原山付近で幻術をかけたグリ子たちと遊んでいるだろう。
俺たちが外に出るとちょうど客人を乗せた車が空港に入ってきたところで、俺の魔法により舗装された道を通り俺たちの前で止まった。そして運転席からリムが出てきて後部ドアを開けると挙動不審な女性が現れた。その女性は身長150cm半ばほどで胸も含めてスレンダーな体型に長い黒髪をサイドで束ねており、腰には短剣を差し首からはカメラをぶら下げていた。顔は目鼻が整っており、少し幼さが残っているがとても綺麗な顔立ちをしていた。俺はこの女性に見覚えがあった。
「あれ? あの人西新宿公園にいたカメラマンじゃない? 」
「あら、確かに見覚えがある顔だわ」
「あの青ざめた顔には見覚えがありますね」
「あー!? 記念撮影の時のカメラマンだ! 写真できたのか? くれよ! 」
「うふふ。せるちゃんお客さんですよ? 主様が声を掛けるまで蘭たちは前に出たら駄目ですよ? 」
「あ、わかったよ。旦那さまを立てるのもツマの役割って言ってたしな! ツマって大変だよな! 」
またセルシアがトンチンカンなこと言ってるがいつものことだ。俺は顔を青ざめさせ震えながら周りをキョロキョロ見渡している女性に話し掛けた。
「ようこそ俺たちLight mareの拠点へ。あの時公園にいたカメラマンだよな? 」
「ひゃっ! は、はい! わ、私はさ、産恵新聞所属のカメラマンのつ、津田 香織とも、申します! と、突然訪問してしまいも、申し訳ありません! あいたっ!」
彼女はそう言って勢いよく頭を下げて首からぶら下げていたカメラに頭突きをした。
「お、おいおい大丈夫か? 凄い音がしたぞ? 蘭、ポーションをかけてやってくれ」
「はい! 津田さん大丈夫ですか? そんなに緊張しなくてもいいですよ。蘭たちはあなたに危害を加えたりしませんよ? 」
「あ……ポ、ポーション? そ、そんな貴重なものをす、すみません……もう大丈夫です」
「さあ、ここじゃなんだから中に入ってくれ。歓迎するよ」
俺は涙目で蘭に治療されて痛みが引いたのかポーションを見て驚き恐縮している彼女を見て、ドジっ子だけど悪い人では無さそうだと思い格納庫の中へと誘導した。
蘭に連れられ格納庫に入った彼女をソファに座らせ、マリーに飲み物を出すように言ってまずは落ち着かせることにした。
「マリー、だいぶ暖かくなってきたし何か冷たい飲み物でも出してあげてくれ」
「了解しましたマスター」
「それじゃあ改めまして。俺がLight mareというパーティのリーダーをしている佐藤 光希だ。俺の隣にいる女性たちは恋人でもありパーティ仲間でもある。俺のいた世界では複数婚が合法化されているのでね。気を悪くしないでくれ」
「あ、津田 香織です。こ、この世界でも魔力や狩り能力の高い男性は複数婚が許されていますので問題ありません。で、でもやっぱり異世界から来られたのは本当なのですか? 」
「ああ、こことは違う魔物が人の住む場所にまで進出している世界の日本から来た。あの時のドラゴンは九州の桜島にいたのを捕まえて飼い慣らしたドラゴンで、名前をクオンという。攻撃されない限り俺の許可なしに人間を襲うことはないから安心してくれ」
「ま、魔物が人の住む場所の近くに!? そ、その世界の日本人は皆ドラゴンを飼い慣らしたりしているのですか? 」
「ははは。そんな事はないさ、俺たちくらいだろうな。その世界では最強のパーティだったからな。だからアマテラス様にこの世界に行くように言われてしまったんだけどな」
「そ、それが本当なら陛下のお言葉は私たちを慰めるものではなく真実……あ、ありがとうございます……美味しい……」
津田さんは難しい顔をして陛下の異世界から強者がきて日本を救うという言葉を思い出しているようだったが、マリーが持ってきたジュースを飲み顔がほころんでいた。若い……まだ20歳くらいに見えるな。それなのに警官を大量殺戮した者の拠点に単身で乗り込んでくるとか、とんでもない胆力の持ち主だな。
「まあ証拠はここにいるエルフとあそこに立っているダークエルフ。そしてさっきからテントからこっちを覗いているドワーフとホビットたちの存在だな。それよりも今日はなぜここに来たんだ? 誰かの指示なのか? 」
「あ、確かに……え? あ、はい! 政府には大島には近づかないように言われていたのですが……」
津田さんはシルフィやダークエルフとドワーフを見て納得しつつ、俺の質問に対してここに来るまでの経緯を説明してくれた。
彼女がいうにはあの日、西新宿公園で俺たちが特別配給をしていた日は休みで新宿の寮にいたそうだ。ところが朝イチに新宿中に特別配給を行うアナウンスが流れ、急いでカメラを持って西新宿公園へ向かったそうだ。最初はどこぞの高ランクハンターの道楽だと思ったらしいが、現地に着き目の前に映る大量の物資に大変驚いたらしい。そして団体との揉め事に特警との交戦と目まぐるしく展開していき、周囲の住人が巻き込まれるのを恐れ逃げる中、会社では下っ端の自分が成り上がるには今この時しかないと勇気を振り絞ってその場に残り、シャッターを押し続けたそうだ。
それからは大量に人を殺したあとにもかかわらずフレンドリーな俺たちの態度と、その後の政府による調査で多くの自治体の幹部と特警の警官に上層部の人間、それに特警を取り締まる側の軍の警務隊トップと野党議員が次々と拘束されていくのを見て、俺たちは悪人じゃないと判断して周囲の反対を押し切り元漁師で今は軍の海岸警備を手伝っている祖父に頼み込み単身で取材をしようやってきたらしい。
「政府は動きが早いな。もう逮捕者が出たのか」
「はい。もともと私たちも証拠を掴んでいましたのでそれを提供しました。今までは特警の圧力で記事にできなかったので……」
「一応国営の新聞社なんだろ? それは逆らえないだろ。ラジオで聞いたが議員すら横領や性接待に関与していたみたいだしな」
「酷いわよね。食糧の配給を止めると脅迫して若い子持ちの未亡人に性接待させてたなんて……」
「極刑ものですね」
「そうなんです。国民が日々の食べ物にも困窮している時にあの屑たちは……それも佐藤さんたちのお陰で隠し通せなくなり、今回拘束された公務員は容疑が固まり次第起訴され10日以内に極刑となります。公務員や国会議員は大きな権力を持つ代わりに犯罪を侵した際の刑罰がかなり重くなりますので」
すげースピード裁判だな。日本中が食べる物に困窮している時に、牢に入れた罪人に食わせる余裕は無いということか。時代が変われば司法も変わっていくんだな。更正だとか人権だとか言ってる余裕は無いんだな。
「当然だな。子供の食糧を横領しておいて軽い刑罰で許されたら、俺たちはこの国に手を貸したりはしないだろう。それで? 俺たちになにを聞きたいんだ? 」
「は、はい! アマテラス様によってこの世界に来たと言われる佐藤さんは、今のこの追い込まれた日本を救っていただけるのでしょうか? 」
「救うつもりで来たんだけどな。子供を死に追いやるような国だからその気が無くなった。ラジオで聞いている限りでは、政府は徹底的に膿を出すつもりのように見えるがどうだろうな。今は様子見してるところだな」
「あ、そ、それは……確かにおっしゃる通りですね……」
「まあこんな上から目線で言えるのもそれなりに自信があるからだ。そう言えば二日前に中世界の草原フィールドが攻略されたんだってな 」
「あ、はい。それがどこの国がボスを倒したのか情報が政府から得られず、門の前にも行ったのですがどうも未だに開放されてないようで石版の六芒星が消えていませんでした。フィールドに入るのは今は禁止されているので、連合軍から情報を得ようとしましたがだいぶ前から制裁の一貫で情報の遮断もされていまして……」
「ああ、アレ俺たちが攻略したんだ」
「へ? 」
「フィリピンの門に誰もいなかったからさ、そこから入ってサクッと攻略した。大したこと無かったな」
「そうね、結局5時間くらいだったかしら? 」
「私と蘭ちゃんに掛かればそんなもんよね」
「蘭と凛ちゃんに掛かればそんなものです」
「凛ちゃんも蘭ちゃんもシルフィに怒られてたのによく言えるわよね……」
「え? ええー!? う、嘘ですよね? 中世界ですよ? オーガキングとか白狼とか黒死鳥がたくさんいるんですよ? そこを攻略? 連合だって2年掛けても駄目だったのに? じょ、冗談ですよね? 」
「いや? 白狼王が率いる軍団を倒して鍵を手に入れたぞ? ほらっ 」
俺は興奮して立ち上がって必死に否定する津田さんに、アイテムボックスから神殿の鍵を取り出して渡した。
「あ……鍵……小世界のよりも大きくて宝石が散りばめられている……」
「それが本物かどうかは見分けがつかないとは思うが、俺は神殿の中に入り何もない真っ白な空間の中央にある黒い台座に手を当て管理者となった。神殿の中の状態は箝口令が敷かれてるんだろ? 」
「真っ白な空間? あの豪華な神殿の中が? え? あ、はい! そうです。神殿の中のことは全く情報が得られません。どうやって管理者になるのかも、その権限もなにもわからないんです」
「そうか、一番最初に台座に手を置いた者が管理者になる。その他の情報は国民に知られたらまずいからだろう」
「手を置くだけで……国民に知られたらまずい情報? 」
「そうだ。よしっ! それじゃあ津田さんにはメッセンジャーになってもらおうかな。政府の人に俺が時間がありませんねと言っていたと伝えてくれ」
「で、伝言ですか? 時間が無い……ですか? 」
「言えば伝わるよ。必ず政府のなるべく偉い人に伝えてくれ」
「で、でも下っ端の私に政府の偉い人にどうやって会えと……」
「そこは俺たちと接触した証拠写真をたくさん見せれば面会できるんじゃないか? 蘭 、クオンとグリ子達を呼んでくれ。グリ子たちは屋根付き格納庫に入れて幻術を解いてくれ」
「はい! 記念撮影ですね! うふふふ。蘭のスマホでも撮ってもらいます」
「そうだな、みんなで撮ろう。マリー、ダークエルフとドワーフとホビットに声を掛けて反対側のグリ子の寝床前に集合を掛けてくれ」
「了解しましたマスター…………」
「ん? ああ、当然マリーたちも一緒だ。ベリーやチェリーたちにも声を掛けてくれ」
「了解しましたマスター」
俺は蘭にクオンたちを呼ぶように言い、マリーに以蔵たちやドワーフとホビットを集めるように指示をしたら、マリーがジッと俺を見て動かないので言葉が足りなかったなと思い、マリーたちも来るように伝えたら動いてくれた。やっぱ感情あるよな?
「え? 記念撮影ですか? た、確かに証拠にはなりますが……は? テントにあんなに大勢の人がいたんですか!? 一体あの小さいテントのどこに!? 」
「あのテントは魔導テントで見た目より中が広いんだ。こっちの世界には無いのか? 」
「あ、あります。中世界のオーガの亜種を倒した時にアメリカが手に入れたと聞きましたが、それでも10人程度しか入れない物だと聞いてます」
「あれは兵士用のテントだから100人は余裕で入るサイズのやつなんだ。中には厨房も風呂もトイレもある。後で中を見せてやる」
「へ? そ、そんなにですか!? ぜ、是非見てみたいです! お願いします! 」
「ああいいよ。それじゃあみんなで移動しようか」
俺は驚く津田さんを促し、拠点にいる全員を引き連れてグリ子の寝床に移動した。
クォォォォン!
キュオォォン!
キュオッ!
キュオキュオ!
「ひっ!? ど、ドラゴン! そ、それにアレはいったい……もしかしてグリフォン? 」
「そうだよ。あれはグリフォンだ。あれに乗って攻略したんだ。他国に知られると今後の予定が狂うからまずはクオンとの写真と、政府用にグリフォンを入れた写真を撮ろう」
グリ子の寝床に着くと既にクオンとグリ子たちは準備ができており、クオンは少し離れた外で出迎えてくれてグリ子たちは写真からはみ出ないようになのか中央に固まっていた。蘭の調教のたまものだな。
「グリフォンなんて実在したんだ……ドラゴンがいるんだしいてもおかしくは無いけど……あ、はい! 今セットします! 」
「よーし!それじゃあクオンをバックに最前列にホビットたちとドワーフ、二列目に俺と皆で並んでくれ」
「はーい! ダーリンの隣ゲット! 」
「あっ! 凛ずるいぞ! 旦那さまの隣はあたし……蘭! いつのまに!? 」
「うふふふ。せるちゃん遅いです」
「真ん中は津田さん用に空けておけよー! よし、みんな並んだな? 津田さんいいぞー! 」
「は、はい! それでは……タイマースタートしました! 」
そう言って津田さんは三脚にセットしたカメラから全速力でこっちへと走ってきて列に入った。両サイドはシルフィと凛だ。俺は手に神殿の鍵を持ち満面の笑みでシャッターがおりるのを待った。
それから蘭のスマホで津田さんに撮ってもらい、次にバックをグリ子たちに変えて何枚か撮った。
ドワーフもホビットも満面の笑みを浮かべていたからいい写真が撮れたと思う。津田さんが俺たちとの距離を縮める為になのか、西新宿公園で撮ったドラゴンに乗ってる俺たちの写真を人数分現像してきてくれており、それをもらったダークエルフやサキュバスたちは凄く喜んでいた。凛は髪が乱れていたのが気に入らなかったのか、津田さんに新聞に採用した写真を見せるように迫っていた。白黒だろうからわかりゃしないと思うんだけどね。
そして拠点に戻って魔導テントの中身を見せたらかなり驚いていた。ダークエルフたちの兵士用のテントを見てこんなのテントじゃないとブツブツ言っていたよ。俺たちのは刺激が強すぎるから見せなかった。どこかの馬鹿な人間の耳に入っても面倒だしな。
こうして津田さんを接待(?)した俺たちは交通費代わりに多めの燃料を持たせ、リムに頼んで彼女を港で待つ祖父のもとに送り届けた。お酒が全くと言っていいほど出回ってないそうなので、お土産に日本酒と焼酎セットを持たせたらお祖父さんが港で大喜びしていたと送り届けたリムが言っていた。喜んでもらえてなによりだ。
やっぱり食糧が足らない世界では、酒や煙草に甘味類は贈り物として効果あるな。たくさん持ってきてよかった。
さて、彼女は政府の人間に会えるだろうか? 別に俺たちは焦ってないからここでゆっくり待つとするかな。彼女が駄目なら次は小世界の未攻略フィールドでも攻略しに行くとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます