3章 リアラの塔

プロローグ





ーーワシントンD.C. ホワイトハウス アメリカ合衆国 第53代大統領 レオナルド・ポーカー ーー




「それで?ミスターサトウは引き込めそうか?」


「ご指示通り友好的に金・女・名誉とあらゆる手を尽くし勧誘しておりますが、良いお返事を頂けておりません。特に女を使った勧誘には強い嫌悪感を表し急遽中止致しました」


「あれだけ美女を侍らせているのに嫌悪感まで抱くのか?」


「ええ、どうも過去に命を狙われた事のある者の反応に近いようでして、次また近付いたら敵とみなすとまで言われたそうです」


「それは間違い無く暗殺の対象になった者の反応だな」


俺は突如現れた強大な力を持つサトウという冒険者の勧誘を、友人であり大統領補佐官でもあるニコラス・ケリーへ指示していた。今日はその中間報告を受けている。

しかし勧誘は上手くいって無いようだ。美女をはべらせている事からハニートラップを中心に行わせていたが、過去に暗殺されそうになったのなら納得だ。


「日本でそういう経験をしたのかそれとも海外でかは、ミスターサトウの経歴が一切不明な為わかりません」


「過去の無い男か……確か一緒にいたランという獣人の美女も過去が無かったな」


「はい。二人ともまるである日突然現れたように過去がありません」


「気になる……気になるが……そこを詮索しようとすると逆効果になるな。今は触れないようにしておこう」


「それがよろしいかと。ミスターサトウですが、沖縄の第1ダンジョン遠征軍の連隊長がダンジョン攻略関連で個人的な知己を得ております」


「連隊長……バウアー大佐か?」


「はい。沖縄上級ダンジョンにて攻略部隊員がミスターサトウのパーティに助けられたそうで、その助けられた者の紹介で中級魔法書を複数譲ってもらえたそうです。そこからの縁のようですね」


「そうか……冒険者では無い者の言葉より、最前線で命を張っている者の方が通じ合える。道理だな」


「ええ、ミスターサトウは生粋の戦士です。元Bランク探索者の大統領とも通じ合えると思います」


「ふふふ、そうか。そうだな、小手先の勧誘よりも個人的に知己を得た方が我が国の利益となるだろう。私も会ってみたいしな。人となりは問題無いのだろう?」


「はい。彼の人となりは公開されている動画や接触した者から聞き及んでいる限りでは、野心などカケラもなく殺人を好んでしているとい訳でも無いようです。それどころか至って温厚で礼儀正しいとの事です。ただ、敵には魔獣であろうと権力者であろうと一切容赦無く牙を剥く性質を持っている事が、彼の公開した動画から伺い知れます」


「力ある戦士とはそういう者だ。普段から力をひけらかす者ほど大きな力を前にすると呑まれる。本当に強い者は根は温厚で優しく、だがひとたび牙を向けば例えどのように強大な敵を前にしても決して怯まず戦うものだ」


そうだ、俺も一介の探索者からここまで成り上がって来た。故郷を取り戻す為に必死に戦い続け、復興のために議員となった。途中邪魔をする戦いを知らない者達は誰であろうとことごとく潰してきた。そして気が付いたらいつの間にか大統領にまでなってしまった。


「ふふふ……大統領とは気が合いそうですね。女性関係でも」


「ははは、それを言うな。複数のワイフを持つ事の難しさを実感している最中だ」


日本の総理大臣の安住も戦士だったから俺達は気が合った。そういうものなのかも知れんな。


「大統領はウィザードでしたからまだまだ40代に見えます。とても60代とは思えません。大丈夫ですよ、まだまだ現役です。そう言えば自衛隊のダンジョン攻略連隊の指揮官が、ミスターサトウからとても強力な精力剤を譲り受けたとか……その効果は絶大で、ポーションと併用すれば一晩中何人の女性を相手にしても満足さる事ができたとか」


「なに!? そ、それは本当か!? なんとか手に入れられないか? 日本のダンジョン攻略連隊の司令官は確か……ミスターイイダだったな。頼んでみてくれ! 俺の命に関わる事なんだ!」


「ふふふ、承知致しました大統領。必ずや入手して参ります」


「ニコラス頼んだぞ!」


俺は4人いる元魔法使いの未だ夜も現役バリバリの妻達に対抗する為に、いや違うな俺の命の為にそのアイテムを入手するよう強く、強くニコラスに頼んだ。


俺がニコラスを熱い目で見つめていると執務室の電話が鳴った。

緊急回線だ、嫌な予感がする……


「ポーカーだ……なんだと!? 島が!? ……悪魔だと!? ……shit! 調査隊と巡洋艦が…………そうか……ハワイ及びグアムへ警戒態勢を敷け! 沖縄の遠征軍を両島へ至急配備しミッドウェー島の防備も固めろ! 冒険者連合にも人を手配してもらえ! 至急にだ! 」


「大統領?」


「……磁場の異常があった海域に突如島が現れた。その島は最初からそこにあったかの様に突然現れたそうだ。島の大きさはグアム島程の広さでそこには複数の塔があるらしい。そして島には多くの魔獣がおり、近くにいた調査隊及び巡洋艦が島から飛来したガーゴイルと思われる悪魔達に襲われ壊滅した」


「なっ!?……島に塔……それは異世界人が言っていたあの……確か彼らが信仰する女神リアラが創った『リアラの塔』ではないですか? ですがその島に悪魔がいるとは聞いてません」


「恐らくそうだろう。その塔が現れれば我らの助けになると言っていたが、悪魔がいるとは聞いていない。それよりも今はハワイ・グアム・ミッドウェー島の防衛だ。あの島々にはダンジョンが無いから全くの無防備状態だ。至急迎撃態勢を整えねばならん! ニコラスはスケジュールの調整をしてくれ。国防長官とアメリカ冒険者連合理事長と話をする」


「ハッ!至急調整をします」


ニコラスは俺の指示を受け退室した。

参った……我が軍の巡洋艦が被害を受けた以上報復はせめばならん。和解などできる相手では無いので国民はそれを望むだろう。そうなれば万が一の反撃に備えミッドウェー島を軍事拠点とした作戦が展開されるだろう。

だがあの島にいる悪魔がCランクのガーゴイルだけならいい。空を飛ぶのは厄介だが、我が軍にはドワーフにより中級魔法が付与された特殊弾がある。

問題はガーゴイルの数と上位の悪魔がいた場合だ。

まず中級魔法が付与された特殊弾は数が少ない。ガーゴイルの数が多ければ、中級魔法を使える魔法使いが多く必要になる。しかしアメリカには日本程中級魔法を使える魔法使いは多くはいない。

いや、日本人が魔法適正者が多過ぎるんだ。異世界人が言っていた勇者には日本人が多かったと言うのが関係しているのかもしれん。

次に異世界人が言う魔族と呼ばれている上位悪魔は知能が高く、また特殊な魔法を使うらしく非常に強いと聞く。欧州に悪魔系ダンジョンはあるが、どれも中級で知能が高い悪魔は確認されていない。

万が一今回現れた島に魔族がいたならば我々は苦戦を強いられるだろう。先ずは情報を得ねばならない。


俺は40年前の大氾濫の時のような堪え難い焦燥を感じていた。




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