第6話 上陸 【挿絵地図】






「それじゃあシルフィーナにセルシア、後は頼む。セルシアはシルフィーナの言う事を良く聞くんだぞ?」


「光希様いってらっしゃいませ。工作員の件はお任せください」


「旦那さま! あたしちゃんとシルの言う事聞くよ! だから帰ったらご褒美くれよな!」


「ああ、ちゃんといい子にしてたら抱きしめて頭を撫でてやる」


「ホントか!? あたしいい子にしてる! 」


「うふふふ、セルシア可愛い……」


「ダーリンセルシアさんの操縦上手いわね……」


「ふふふ、セルシアさん可愛いですね」


「そうだな、可愛いやつだ。よしっ! クオン出発だ!」


クォォォ!


「旦那さま〜いってらっしゃい!」


「光希様〜お気をつけて〜」


先日、女神の島占領作戦が発動され冒険者を乗せた船が出発した。俺達は遅れて出発し、船を追い越して先に女神の島へ上陸する。


「島には数時間で着く。テントで少し休んでから渡した装備を付けおいてくれ。島に着いたら蘭を解き放つから、凛と夏海は俺と一緒にドラゴンに乗って戦ってくれ」


「ホッ……蘭ちゃんの背に乗れとか言われたらどうしようかと思ったわ……」


「凛ちゃん! 蘭はもう大丈夫です! 前みたいにはなりませんよ」


「今日の蘭ちゃんの戦い方を見てから判断するわ」


「ら、蘭ちゃんは自由に戦った方がその……いいと思うわ」


「なっちゃんまで! 蘭は信用を取り戻します!」


「ははは、多分無理だと思うよ」


「主様〜 蘭は寂しいです……」


「蘭ちゃん、戦闘以外は一緒だからほらっ! テントでゲームしよ! ね?」


「蘭ちゃん、テントで遊びましょう。それから準備しましょう。ね?」


「む〜……蘭はなんだか誤魔化された気がします。でも昨日負けたトランプはやります。リベンジです!」


「はははは、蘭行っておいで」


特に気負いの無い恋人達を見送り、俺は遠ざかる横浜を見ていた。

凛と夏海には、真一さんに頼んで職人に作ってもらった上位ドラゴンの革鎧を渡した。

夏海には黒竜の漆黒の革で作った鎧を、凛には白竜の純白に輝く革で作った鎧を用意した。

これに以前渡した結界が付与されているローブとマントを装備すれば、かなりの防御力となる。

俺は変わらずデーモンスパイダーの糸を黒く染めて作ったシャツに、古代火竜の革で作ったジャケットと黒く染めたズボンの姿だ。流石にジーンズは緊張感が無いので履いていない。この季節は暑いので、ジャケットに中級水魔法を付与して氷を張ったりして体温調節をしている。これは凛と夏海の装備にも付与してある。


今回は空中戦なので、凛と夏海にはデーモンスパイダーの頑丈で良く伸びる糸を編んで作ったロープを渡し、クオンと繋ぐように言って渡してある。更に浮遊石を埋め込んだ大きなネックレスも身に付けて貰った。

浮遊石は少量の魔力を送り込むと浮く性質を持っているので、素肌に直接触れて身体のバランスを取りやすいようにとネックレスタイプにした。浮力を得る為に大型になってしまったが、それでも夜ベッドで付けてあげる時に凛の胸にすっぽり隠れてしまった。その光景に少し刺激されて俺のもすっぽり挟んでもらった。

夏海は隠れるほどは挟めず少し悲しそうだったが、首輪タイプが良かったかな?と聞いたら頬を赤らめていた。

いやいや、それで浮いたら首締まるからな?



そして2時間程経ち、恋人達がフル装備でテントから出てきた。凛と夏海は早速ロープをクオンに取り付けた腹帯と繋げていた。蘭は相変わらずチャイナドレス姿だが、今日は真っ赤なドレスに白竜が昇っている刺繍があるものを身に付けていた。うん、とても似合ってる。


「凛は魔力が切れた時は、渡した吸収の魔剣で魔石を切って魔力補充してね。夏海は斬る時にどうしてもクオンから落ちる事も多いと思うけど、渡したネックレスをしっかり使ってロープの張力で戻るようにね」


「うん! 凄いわこれ! 地下の訓練所で上級魔法いっぱい撃てて気持ちよかったわ!」


「はい。訓練所で練習したので大丈夫だと思います。なるべく下を見ないようにします」


「剣自体はそこまで斬れるもんじゃないけどね。その特殊能力には何度も助けられたんだ。それは予備だから気にせず使ってよ。夏海も本当に危ない時は声を上げてくれ。必ず助けるから」


「うん!」


「はい!」


「蘭は思う存分暴れていいからな。異世界人が捕らえられていそうな場所は念話で送るから、そこだけ燃やさないでくれ」


「はい、分かりました主様。蘭は安心の戦闘を心掛けます」


「そ、そうか……」


「…………」


「…………」


蘭の安心戦闘宣言を聞かなかった事にして、俺達はそれぞれ装備の最終点検を行った。


「見えてきたな。これはまた壮観だな」


「凄い! 綺麗な白い塔ね!」


「中央の塔だけ一際大きいですね。あれが賢者の塔」


「うふふふ、あの塔を登れば主様がまた強くなる魔法書が手に入るのですね」


https://28930.mitemin.net/i375089/


女神の島挿絵


「そうだな、落ち着いたら登りたいな。しかし島の中央にある塔の周辺以外は、殆どが山と森だな。おっ!あの西側の浜辺が俺達の土地になるのか、綺麗なビーチだな。山側には湖もあるな」


「うわ〜!沖縄の離島のビーチより広いし綺麗……あそこに住めるのね。やる気出てきたわ!」


「あの土地に光希と……あの物陰で……必ず手に入れます!」


「うふふふ、海で泳ぐのは楽しいです。蘭も楽しみです」


女神の島が見えてきてその全貌を確認する為に、俺達は離れた所から島を回った。

島はほぼ円形で、その中心部に塔が建っていた。塔の周りは拓けており、南と東にある大きな港に向かって道ができていた。それ以外は山と森に囲まれている。ドーナツみたいだと思った。

塔の周辺にあった建物の殆どが壊されている。残った建物の中はもう少し近付かないと分からないが、煙突から煙が出ている所を見ると人がいるようだ。


俺達に気付いている筈の悪魔達は流石にドラゴンに恐れをなしているのか、逃げ惑うばかりで誰も向かって来ない。俺は構わず塔のある拓けた場所へ突入した。


「行くぞ!」


「燃やしてやるわ!」


「はい!」


「うふふふ……」


俺達が塔のある広場に突入すると、流石の悪魔達も迎撃をして来た。インプとガーゴイルが大量に向かってくる。


「クオン! やれ!」


グオオオオオオ!


クオンが俺の指示を受けブレスを吐き、向かって来る悪魔達の殆どを消し炭にした。

俺はその空いたスペースにクオンを向かわせ高度を下げさせた。地上が近づくと蘭を解き放った。


「蘭! 行け! 残ってる建物は燃やすな!」


「はい!」


コーーーーン!


「蘭ちゃん頑張ってね!」


「蘭ちゃんきをつけてね」


蘭はクオンから飛び降りながら神狐の姿になり、塔の下で様子を伺っていたダゴンの群れに飛び込んでいった。


「なにアレ! 半魚人? グロい見た目ね」


「あれはダコンていう悪魔だ。動きも速く魚の頭から吐く毒は強力だが、それ以外はオーガ程度だな」


「アレCランクなの!? あんなに沢山いるわよ?……でも蘭ちゃんなら余裕か」


「私には難しいですねあの数は……」


「次来たぞ!扇型にゲイザーとインキュバスだ! 凛と夏海のステータスなら精神魔法に抵抗できるから思いっきり行け!」


「「はい!」」


塔の周りを旋回して蘭を見届けていると、ガーゴイル程度では相手にならないと思ったのか20体程のインキュバスと50体程の目玉の悪魔のゲイザーが、俺達を半包囲をするように向かって来た。

こいつらは弱いが精神魔法を撃ってくる。インキュバスは特に女性に対して強力な催淫と魅了の魔法を撃ってくるのが、精神魔法は魔法抵抗か体力が高ければ抵抗できる。体力の数値は精神力とも比例しているからだ。


『スロー』『天雷』


グオオオオオオ!


『炎槍』『火龍爪』


俺は恋人達にインキュバスを近付けないよう魔法を放った。続けてクオンがブレスを吐き、凛が火魔法を立て続けに放った。


《ギギーーー!》


《ウギャーーーー!》


ゲイザーもインキュバスも俺の天雷の直撃を受けた後にブレスで消し炭にされ、撃ち漏らしも凛に焼かれて墜落していった。

だが凛の魔法の当たりどころが良かったのか、一体のインキュバスが最後の力を振り絞り魔法を放った。


《ニンゲンノメスゥゥ!》


「こんなものか……『黒雨乱舞』」


《ギャーーーー!》


「おかえり。浮遊石を上手く使えているな」


「はい。これなら行けそうです!」


「よしっ! どんどん行こう!」


「うん!」


「はい!」


コォーーーーン!


地上では蘭が狐火を大量に放ち、爪で引き裂き、牙で噛み砕きと大暴れしている。300体程いたダゴンは散り散りに逃げ惑い、それを蘭が追いかけ殲滅して行った。時折飛んでいるサキュバスやインプをジャンプして捕まえ、地上に叩き落としている。落とされた者は例外なく血みどろとなり、腕が捥がれ足はあらぬ方向を向いており虫の息だった。


「……アレにトドメを刺すのは……」


「……ちょっとキツイかもね……」


凛と夏海は蘭を見て顔を引き釣らせてからそっと視線を逸らし、正面から来るガーゴイルとサキュバスの群れに視線を戻した。


『スロー』『轟雷』


『火龍爪』『火龍爪』


『黒刃乱れ撃ち』『黒燕連撃』


《ニンゲンメ!ギャーーーー!》


《オトコダ!ギャーーーー!》


《クッ……チャームガキカナイ!コノ……ギャーーーー!》


「お前らには過去に何度も命を狙われているんでな、一切容赦はしない!」


「酷い目? まさかダーリンとこいつらが……このっ!『炎槍』『炎槍』『火龍爪』」


「光希と!?……あああああ!『黒雨竜爪』『黒涙流地』」


不味い……なんだか俺の余計な一言で2人の嫉妬心に火を付けたみたいだ……

俺は黙ってサキュパスが燃えて切り刻まれて行くのを見ていた。こういう時は余計な事をしたら駄目だと親父が言っていたしな。


「ハアハアハア……」


「フゥフゥフゥ……」


「2人ともお疲れ様。ほらっ!凛は魔力切れてるだろ? 早く補充して」


「うん……ダーリンを惑わした女は燃えカスにしてやったわ!」


「光希を惑わす者は切り刻見ました」


「そ、そうか。ありがとう……」


俺は口元が笑っている2人を見て少し怖くなり、そっと目をそらし探知の反応を確認した。

悪魔達は塔から離れている北の山に逃げて行っており、その山の中腹に砦のような物があった。

ここがボスの住処か……


『蘭!北の山の中腹に砦がある。追撃しつつそこに向かってくれ!』


『はい!』


俺は蘭に指示をし、悪魔のいなくなった各塔の前に降りた。そして外から入れないように出入口に結界を張て回った。

結界を張った後にクオンと凛達を塔の前で待たせ、塔から南にある壊されていない建物へと向かった。先程上空を通り過ぎた時に、建物の中で悪魔とは違う魔力反応が複数集まっているのを確認したからだ。

俺はその建物の入口の戸を開け声を掛けた。


《こんにちは〜助けに来た冒険者です》


《ぼ、冒険者!? 助けに来てくれたのか!?》


《人族だ! やっぱりここは俺達がいた世界だ!王国の冒険者が来たんだ!》


《ドラゴンがいたぞ!? ドラゴンに乗る冒険者なんて聞いた事無いぞ!》


《でも星の配置が……》


俺が建物に入るとドワーフが3人とホビットが5人おり、助けが来た事を喜んでいたが、異世界に来た事はまだ理解できていないようだった。


《詳しいお話は後でします。取り敢えずお聞きしたいんですが、ここの悪魔達のボスは誰ですか?》


《デビルだ! アイツが2年前に突然この島に攻め込んで来たんだ! その時は王国で大きな祭りがあって冒険者が少なかったんだ。その隙を突いて……》


《何度か王国と冒険者組合がこの島を奪還しに来てくれたようだが、皆海で沈められたらしい》


《何日か前も上陸してきた冒険者がいたが、突然海から爆発する魔法が多く降り注ぎ壊滅した。そのうち

何人かは捕らえられたと聞いた》


《家族が砦にいるんだ! 頼む! 助けてくれ! 人質に取られてるんだ!》


彼等の話を聞いてみると、デビルを頭にした悪魔の軍団が2年前にこの島を占領したらしい。

その時に手に職を持つ者以外は皆殺され、彼等のような職人は家族を人質に取られ武器や防具を作らされていたようだ。ホビット族は種族魔法しか使えないが、その種族魔法は鉱物や革の加工をするのに便利でその上手先も器用な種族だ。剣や防具の細かい調整や装飾、革の加工など鍛冶屋でドワーフと一緒に働いている事が多い。


《分かりました。今から砦を攻めてデビルを倒し、ご家族が無事であれば助け出してきます》


《無事なはずなんだ! 半年に一度会えたんだ。だから頼む!》


《アイツは賢い。俺達を上手く使う為に人質は殺してないはずだ》


《なるほど、でしたら最優先で救い出します。この建物には結界を張りますので出ないようにしてくださいね。『女神の護り』》


《結界!? しかも上級だと!?》


《聞いた事ないぞ上級結界を使う冒険者なんて!》


《やっぱりここは……でも言葉は同じだし……》


《なんでもいい!頼んだぞ!》


《では行ってきますので》


俺は家族を助けてくれという彼等の言葉を後にその場を離れ凛達の元へと戻った。


「ダーリンどうだった? 異世界人はいた?」


「ああ、ドワーフとホビットがいた。家族が人質に取られているらしい。米軍の生き残りも囚われているかもしれない。今から助けに行ってついでにデビルを倒そう」


「人質に!? わかったわ! 」


「卑劣な……必ず助け出しましょう!」


プルルルル


「おっと電話だ、凛と夏海はクオンに乗っていてくれ」


「うん! 先に乗ってるね」


俺達が砦へ向かおうとしたタイミングで、シルフィに持たされていたやたらゴツイ衛星電話が鳴った。


「シルフィーナ、何かあったか?」


《光希様。ソヴェートが動きました。演習の名目で太平洋に出ていた艦隊がそちらへ向かっています。行方不明のソヴェート人がその島で悪魔に捕らえられており、その救出作戦だそうです》


「やはり動いたか、理由はなんでもいいんだろ。こっちに着くのはいつ頃になりそうだ?」


《艦隊は早くて2日後です。アメリカもハワイ艦隊を出動させる準備をしています。もしかしたら島の付近で軍事衝突が起こるかもしれません》


「そうか、騒がしくなりそうだな。戦争したいなら勝手にすればいいさ。それよりソヴェートが動いたなら今夜か明日辺りにはそっちに襲撃があるかもしれない。注意してくれ」


《はい。必ず守ります》


シルフィからの連絡はソヴェートが動いたという事と、ソヴェートとアメリカが島付近で軍事衝突を起こすかもしれないと言う事だった。アメリカとしてはハワイとグアムに近いこの島を占領され、軍事施設でも作られたら堪らないだろうし、何よりここの塔をソヴェートに取られるのは許容できないだろう。ソヴェートが他国にこの塔の利用を開放するとも思えないしな。

何れにしろ俺がここにいる限り、強硬な手段を取る事は出来ないはずだ。ソヴェート人が捕らえられていると言うなら確認させればいい。艦隊は港にクオンを置いて入港させなければいいしな。

それでも強硬するならアメリカと一緒にソヴェート艦隊を潰すだけだ。


俺はシルフィとの通話を切った後に今後の方針を決め、クオンに乗り悪魔の親玉がいる砦へと向かった。



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