第29話

 



 ――東京都永田町 探索者協会本部ビル 風精霊の谷のシルフィーナ理事長――




「そうです総理。土地を与え彼を日本に留まらせなければ、この国に未来はありません」


 《そこまでの人材ですか》


「ええ。上級ダンジョンをたった2人で攻略し、先程お送りした写真のようにコアを完全体で回収できる能力を持ってます」


 《その彼のステータスを開示してもらえると、私も政府内で説得しやすいのですが……》


「申し訳ありません。それは彼との約束で開示できません。ですが全盛期の私のフルパーティとサポートパーティが、彼1人と戦っても1分も持たずに全滅する自信があります」


 《そ、そんな……そんな人間が存在するのですか!》


「彼の戦い振りと、ステータスを確認したうえでの私の発言と受け取ってください」


 《……わかりました。正直資源省の無法振りは目に余りますし、大臣すらどうも脅迫されているようです。前政権の尻拭いにこれほど苦労するとは……あのダンジョンコアは是非資源省へのカードとして必要です。絶対に資源省と他国に取られないようお願いします》


「では国有地である元横浜ダンジョンの壁内の土地の件は、対応頂けるということでよろしいでしょうか? 」


 《ええ、元々40年前に捨てた土地ですし、廃墟ビルも多く残ってます。魔獣が氾濫した際にもダメージを受け、いつ崩れてもおかしくない建物ばかりです。取り壊すのも危険が伴いますのでなんとか説得できると思います。ダンジョンコアの買取も問題ありません》


「ありがとうございます。ではよろしくお願いします」


 ピッ


「はぁ〜国籍取得に土地にコア買取りの根回し完了〜」


  私は安住総理大臣との電話を切り机に突っ伏した。


  勇者様とお話をしてから直ぐに各所に指示を出し、総理にも根回しをしてもう日付が変わる時間になってしまった。


  内密に調べた結果、この世界に元々いるはずの佐藤 光希という人物はいなかった。恐らくあの混乱期に父親か祖父の運命が変わったのでしょう。父か祖父か母になる予定の女性のいずれかが亡くなったか、それとも別の女性と結婚したか可能性はたくさんあるわね。


  国籍は問題無し。やっぱり二つ返事だったわね。超法規的措置で用意するみたい。土地もコア買取りもなんとかなりそう。勇者様の言うようにもっと高く売れたかもしれないわね。

 

  勇者様……最初は海外で隠れていた私たちと同じアトランから来た異世界人、それも賢者クラスの人の子かもと思った。それでも説明できない魔法が多かったけど。


  それがまさかの勇者様だった……小さな頃から長老や大人たちから勇者様の話を聞いて育ち、隣の王国まで行き書物を読み漁り憧れ恋い焦がれた勇者様。でも私が生まれた時にはもう勇者様はいなかった。


  その勇者様に会えた私は浮かれた。それはそうよ、勇者様と一緒に冒険して恋をして一緒に魔王を倒すことを妄想して何十年体を一人慰めたことか……

 

  その勇者様が目の前に現れた。それも上級ダンジョンの氾濫を鎮め恋人を救うために、単身上級ダンジョンに挑み救出の後に仲間と攻略した。過去数え切れないほど見てきた勇者様の物語そのままの行動を取った人が勇者様本人だった。


「ああ……あの時の私を殴りたい……なんであんな最低なことを平然と私は言ったのか……どんだけ脳みそお花畑だったというの……」


  私は失敗した。現実の勇者様を物語や妄想の勇者様と重ねて見てしまった。私は勇者様は日本という国の優秀な戦士を、神が私たちの世界を救うためにもたらしたと思っていた。どの書物を見ても神の奇跡や慈悲により、私たちの世界に呼ばれた大きな力を持つ者という内容だった。


  だからこの日本ではない似た世界から来た彼は、ダンジョンにより滅ぶこの世界を救うために神によって遣わされたと思っていた。


  でもそれは違った……


  普通の人間だった。学生だった。特別な力も何も持っていなかった。ある日突然アトランに召喚され、家族や友人と離れ離れにされた誘拐の被害者だった。しかも戦わないと死ぬと脅され、無理やり戦わされた奴隷のような待遇だった。そこに物語の勇者はいなかった。いえ、物語の勇者様が全てそういう存在だった。


「勇者様の物語は美談ばかりだけど、それは私たちの罪を隠すため。誤魔化すためのものだった」


  勇者召喚を行った王国が、勇者様が元の世界に帰ったことを良いことに作った良い部分だけを切り取った物語。


  私は間違った……そんな彼に物語の美談の勇者様役を押し付けた。

  勇者様の恋人達の怒りを買い、死ぬかと思うような壮絶な殺気を当てられた。正直ドラゴンより怖かったしちょっと漏らした。でもその怒りは彼を思うが故の怒りだった……彼を守る為の怒りだった。


  勇者様と彼女たちの関係が羨ましかった。それは私が望んでいたものなのにいつの間にか私は勇者様を世界のためにと戦わせ、彼女たちから引き離そうとする悪役の立場になっていた。


  悲しかった、勇者様の誘拐されてから魔王を倒すまでのお話がとても悲しかった。

  勇者様は世界のために戦い大切な恋人を失ってしまった……

  私と同じエルフの恋人と聞き自分を重ねてしまった。


  私は愚かな過ちを犯したけど、彼や彼女たちは許してくれた。

 

「私も勇者様……いえ佐藤 光希様のために役に立ちたいわ」


  佐藤 光希様……エルフの男みたいに気持ち悪いほど顔のパーツが揃っている顔や日本や海外の芸能人の顔とは違い、一つ一つの顔のパーツは良いのにその配置が絶妙にズレていて、とても個性的で優しく時には凛々しく見える私好みのお顔。


  勇者様のようなお顔をイケメンと言うのかもしれない。


 この国の美的感覚は少しおかしいと思う。エルフの顔なんてアニメに出てくるエルフを見て、実物そっくりだと思えるくらいペンや絵で描ける単純な顔なのに……何故勇者様のような、あのフニャっとしたバランスの悪さの良さに気付かないのでしょう?


「ハアハア……あの眼差しを思い出すだけで……」


  世界なんかではなく、大切な人のためだけに剣を振るうと言った時のあの凛々しいお顔……


  私は勘違いしていたのかもしれない。周りがそう呼ぶからとかステータスにそう表示されてるから勇者様なのではなく、勇者様自身が深い哀しみと苦難の果てに本当の勇者になっていくのかもしれない。


  佐藤 光希様はその哀しみと苦難を乗り越え、魔王討伐という偉業を成した勇者の完成形なのだと。

  彼にはもう勇者という称号は必要無くて、そんなものが無くても既に存在自体が勇者なのよ。


「ああ……勇者様……佐藤 光希様……」


  私は勇者様に肩を抱かれた時の写真をスマホに表示させ、手を自分の太ももに伸ばした。そしていつか私が生きる長い時の間に、勇者様がまた現れた時のためにと誰にも触らせたことのない大事な所へショーツの隙間から指を入れた。


「ああ……勇者様……佐藤 光希様……私の勇者になってほしい……あの恋人に向ける優しい目を……私にも向けて……ほしい……ん……んんっ」


  もっと彼を知りたいもっと彼の近くにいたい。世界中の探索者協会と連盟を組んでいる日本探索者協会理事長でなければ、一緒に冒険に連れていってもらえるかもしれないのに。私は自分の立場を呪いながら、画面の勇者様の笑顔を見て頬を赤く染めるのだった。








 ――霞ヶ関駅 佐藤(倉木) 光希――




 プシュー


 《霞ヶ関〜霞ヶ関〜お降りの際は足元に……》


「ここが霞ヶ関、日本の中心ねぇ」


  俺は昨夜凛と夏海と夜を過ごし、朝起きて2人とイチャイチャしてから隣の部屋に行き、蘭を起こし抱きしめてキスをしてから一緒にシャワーを浴びた。


  それから凛たちのもとに戻り皆で朝食を済ませ、今後のために転移ゲート登録をしてくると説明して一人で出掛けた。恋人たちには幻術を掛けてから買い物でもしてきなよと言い、念話のできる蘭から離れないようにお願いした。


  ゲートは最上級空間魔法だ。転移が行きたい場所を思い浮かべてから発動するタイプなら、ゲートはあらかじめゲートの魔法で行きたい場所に行き地点登録しておけば行ける魔法だ。その際に風景など思い浮かべなくてもゲートを使う際に登録した場所が脳裏に映し出され、そこで選択して発動させることができる。


  魔法の発動は転移ほど早くはないし門が現れるので目立つが、ゲートを開いている間は俺に触れなくても何人でもゲートを潜り登録した場所に移動できる。


  転移は記憶に無いもしくはその場所を忘れイメージできなかったら発動しないが、ゲートは覚えていなくてもあらかじめ登録しておけば発動するので、覚えきれない数の場所に転移したい場所はゲートが便利だ。


  俺はそのゲートを発動するための地点登録に、取り敢えず都内の色々重要そうな場所に来ている。

  もちろん人にゲートで現れるのを見られないように、地点登録は神社仏閣の人気のない場所にしている。


 ブルッブルッ


  ゲートの地点登録をし駅まで歩いていると携帯が鳴った。


「またか……はい倉木です……いえ、先程もそちらの課長さんに言った通り手放す気はありません…ですからお会いしても意味が無いので……しつこいですねもう切ります……へぇ今度は脅迫かよ……いいぜやれよじゃあな」


  朝から何度も資源省やその関連組織を名乗る奴から電話が来て、やれ会いたいだのコアを売ってくれだの100億出すだのとしつこいのなんのって。終いには高級官僚クラスが出てきて遠回しに脅してきやがった! 何があまり欲を出すとパーティのお仲間も今後不幸になりませんか? だよ! お前らがそうさせる気なんじゃねーか! 上等だ俺の大切なものに手を出した時は跡形もなく潰してやる。


「ったく! どうやって俺の携帯調べたんだ? 過去に泊まったホテルか? 携帯屋か? この世界は個人情報の扱い緩いのか? 」


  掛けてきた奴に聞いてもダンマリだしな。なんか登録番号以外着信拒否できる設定あったな、調べとくか。

  神社巡りをしながらそんなことを考えていたら、また携帯が鳴った。もう電源切ろうと手にしたら知ってる番号からだったので出ることにした。


「よう沖田、この間はサンキューな。いい品揃えの店教えてくれて助かった……ん? ああ、ありがと、そのせいで周りが騒がしいがな……へえ〜警察使ってきたか……悪いな巻き込んで……いやそのままでいい俺が連れていく……ああ、明日時間は……」


  俺は中華街付近を縄張りにしているマフィアのドンである沖田からの電話を切りった。

  どうやら沖田たちは警察に脅され俺の恋人を攫うよう言われたようだ。

  資源省も時間が無いからか、なりふり構わず攻めてきてるなと内心ラッキーと思っていた。

  探索者協会にダンジョンコアが渡る前になんとかしたいんだろうが、急いては事を仕損じるってね!


  俺は急ぐことでもないからと引き続き都内各所を回り、秋葉原にも寄って色々な衣装を買った。そして夕方過ぎにホテルへ転移して戻った。


  俺はリビングで寛ぎながら、電車で移動中にM-tubeにアップした動画の反響を見ていた。その動画は蘭と凛や夏海たちの戦闘動画と、俺が最後に吸血鬼を倒しダンジョンコアを映したところまでの動画だ。かなりの反響数で、チャンネル登録数も一気に増え俺は上機嫌だった。


  もうすぐ夕食かなという時に部屋のドアが開き恋人たちが帰ってきた。


「ただいま〜あっ! ダーリン帰ってる! ダーリン寂しかったよ〜あんっ」


「光希戻りました」


「主様戻りました」


「あははは。凛は甘えんぼだなぁみんなお帰り」


  俺を見た瞬間凛が抱きついてきたので、俺は凛を受け止め凛のお尻を撫でながら皆を出迎えた。


「ダーリンえっち」


「俺も寂しかったんだよ」


「そうなの? ならいいよ」


「あ〜やわらかいし大きいし最高」


「そんなに強くしたら……もうっ!」


  俺は凛のお尻をさんざん揉みしだいた後に、恥ずかしがる夏海のお尻も堪能し蘭を抱きしめて皆で夕食へ向かった。


  夕食を食べた後、凛を連れ愛スイートルームへ行き一緒にお風呂に入り凛に頑張ってもらった。お互いスッキリした後に、2人で湯船に浸かり今日あったことを話してもらったりした。


  お風呂を出て2人で夜景を見ながら果実水を飲み、甘える凛をお姫様だっこしながら隣の部屋のベッドルームに行き寝かしつけた。

  その後リビングで待ってた蘭を連れ愛スイートルームに行き、夜景を見ながら愛し合いその日は眠りについた。


  翌日は全員で幻術をかけて出掛けて映画やカラオケ、ボーリングと楽しみカラオケでは蘭の踊りを凛と夏海が真似して踊っていた。俺はすかさず秋葉原で買った付け耳付け尻尾を凛と夏海に渡して付けてもらい、動画撮影に励みつつ盛り上げるのだった。夏海のあの恥ずかしそうに踊ってる姿は絶対高評価取れる!


  そんなこんなでデートをして夕方になりホテルに戻った。


「今日は土曜日だからかどこも混んでたね」


「土曜日とか気付かなかったわ、探索者やってると曜日感覚無くなるのよね〜」


「まあ命懸けの自由業だからな」


「でも光希と色んな所で遊べて私は楽しかったです」


「蘭も大勢でカラオケできて楽しかったです」


「蘭ちゃん踊りまた教えてね! 明日は皆でリビングで練習しよ」


「はい凛ちゃん! 蘭がしっかり教えますよ、早くみんなで踊りたいです」


「わ、私も光希があんなに喜んでくれるなら練習します」


「夏海の踊りは良かったよ、恥ずかしそうにしてるのが特に良かった」


「そうそうお姉ちゃん、顔真っ赤にしてお尻突き出してたよね〜あの時みたいに」


「り、凛ちゃん! 見てたの!? 寝てたんじゃなかったの!?」


「お姉ちゃんの声で起きたら、ダーリンに後ろから突かれてるのが見えちゃった♪ その時のお姉ちゃんの顔が……」


「イヤーーーー! 見ないで言わないでー!」


  俺は追いかけっこをしている凛と夏海を横目に、せっせと今日撮った動画を昨日秋葉原で買ってきたPCで編集しアップするのだった。PCは蘭も使えるようにリビングに出しっ放しにしてある。

  今日のは絶対過去最高の評価取れそうな気がする!


  さて、そろそろ行くか。


「凛、夏海、俺はちょっとこれから資源省の人と会うために出掛けるから、夕食は2人で食べてくれ。蘭は行きと帰りに幻術掛けてもらうから一緒に来てくれ」


「はい、主様」


「え? 資源省の奴らと? 大丈夫なの?」


「資源省はやはりコアを狙ってきましたか……」


「昨日から電話がしつこくてさ、もう二度と掛けてくるなと会ってハッキリと断ろうと思ってね」


「ダーリン気を付けてね?」


「光希気を付けてください。悪い噂が絶えない組織ですし、お抱えの高ランク探索者もいるようですので」


「ありがとう。でも大丈夫だよ、俺は2人の勇者だからな。最強なんだ」


「ダーリン……そうよね、私たちの勇者様は強いんだから! いってらっしゃい。帰るの待ってるからね」


「私の勇者様……私の……あ、私も待ってますずっと……」


「ああ行ってくる。遅くならないようにするよ。蘭行こう」


「はい!」


  俺は蘭に極力肌が見えない格好になってもらい、一緒にホテルを出て手を繋ぎながら中華街へと歩いていった。







 ――埠頭11号倉庫 沖田 冬児――



「それで? 本当に倉木の恋人を拉致できたんですか?」


「ええ。昼に大勢の女を連れていましたから、うち系列のカラオケ店のトイレに入った隙に拉致してきました。魔法を使う暇も無く、うちの女たちに後ろから麻痺蛾の鱗粉吸わせて眠らせましたから簡単でしたよ。今は起きたらマズイので見張りを付けて常に眠らせてます」


「ふむ……上級ダンジョン攻略メンバーと言えども、街中では装備を外す決まりですからね。特に仲間が側にいない時に状態異常系の不意打ちに弱いのは納得ですね」


  俺は今、資源省の者と名乗るこのチビ禿げデブと二階の事務室で打ち合わせをしている。

  昨日神奈川県警の探索者課の工藤刑事から連絡があり、組織を潰されたくなかったら協力しろと脅迫されアニキの恋人を拉致るよう言われた。うちは関根がいた時とはもう違うのに、県警はまだ関根の時の裏仕事をしてると思っているいい迷惑だ。


  しかも上級ダンジョン攻略者を! あの魔王の恋人を! ふざけんな! 死ねと言われてるのと同じだ!

  俺はすぐさまアニキに電話した。


  アニキは機嫌良くこの間教えた大人のコスチューム店を気に入ったと褒めてくれたが、凄く言い難かった……だからまず上級ダンジョン攻略のお祝いを伝えてから、刑事に言われたことを全て話した。そうしたらある程度予想してたらしく、逆に迷惑掛けたなと謝られてしまった。ホッとした。


  アニキは今日恋人を中華街の裏路地に連れ出すからそこで預けてくれると言い、約束の時間になって行ったらまさかの姐さんがいた。俺たちは震えながら姐さんを車に乗せ、終始無言でここまで連れてきた。


  今は一階で俺の女たちに給仕をさせ、くつろいでもらっている。


  俺たちは探索者上がりが多い。この仕事を受けなくても探索課に潰される。受けても拉致が成功するはずもなく潰される。今更俺たちに行く所は無い。この横浜が俺たちの全てだ。

  しかしアニキが任せろと、ラッキーとまで言っていた。俺は今もの凄い安心感がある。


  関根はゲスな野郎だった。アイツは前のボスと幹部を殺してこの組織のボスとなったが、店の女を無理やり犯すわ女を攫ってきては薬漬けにするわ警察の裏仕事を請け負うわで付いていけなかった。


  でも奴は失敗した。凄腕の殺し屋まで雇って攫おうとしたが、ボスに呆気なく殺された。

  姐さんもヤバかった。誰も姐さんの動きが見えず拳銃の弾まであの扇で弾いていた。

  俺たちはあっという間に戦闘不能にされた。


  その後すぐに上級ダンジョンが氾濫したと聞いたと思ったら、ボスと姐さんが攻略したと聞いて皆最初はビックリした。まさかそこまでの強さだったとはと。俺たちはあの時命を奪わなかったアニキと姐さんに感謝した。


  この役人は世間知らずだ。上級ダンジョンを2人で攻略するという意味がまるで分かってない。俺たちは曲がりなりにも探索者だったからその高みが分かる。警察の探索課の奴らも自衛隊と違いダンジョン攻略など目的としておらず、あくまでも元探索者たちに対抗できるようランクアップによる身体能力向上が目的だ。コイツらもきっと分かってないだろう。


  馬鹿な奴らだ。アニキの恋人に手を出したんだ、コイツは明日には死んでいるか二度と仕事ができない身体になってるのは確定だ。だが役人は頭が回る。きっとダメだった時の手も考えているはず。

  でも大丈夫だ、俺たちはアニキが言ったようにアニキから離れなければいい。離れたら死ぬ。

  信じて離れなければ生き残れる。実にシンプルだ。


「倉木の恋人は実に美しいらしいですね。奴が来る前に少し楽しませてもらいましょうか」


「楽しんでる最中に起きて、魔法を発動されて死にたいなら止めませんよ」


「……チッ」


  アニキが来る前にお前に死なれても困るんだよ大人しくしてろハゲ!

  俺はせっかく男の目に触れないようこのクズに触れさせないように、姐さんを女たちに世話させてアニキの怒りを買わないように神経を使ってるのに、能天気なこのハゲを殺したくなった。

  しかしなぜアニキは俺たちにこのハゲを捕らえさせないのか? アニキが来たら拷問して情報を絞り取ればいいと思うんだが……

  きっとアニキには何か考えがあるんだろうこの茶番をやる理由がきっと。

  俺たちはただアニキに言われた通りやればいい。それで全て解決する。


  俺はそう思いながらアニキが来るのを今か今かと待つのだった。




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