エピローグ




《 オーライ オーライ オーライ よしっ! 降ろせ! 》


《 魔砲はこの角度でいいのかー? 》


《 もうちょい右だ! 》


《 おいっ! この線はなんだ! 邪魔じゃねえか! 》


《 それは城の魔結晶に繋がってる線だ! それがなきゃ魔砲が撃てねえんだから切るんじゃねえ! 》


《 開墾組行くぞ! しっかり償ってもらうからな! オラッ! 早く集まれ! 》


《 があああ! なんなんだあのカガクってのはよ! さっぱりわかんねえ! やっとニホンゴがわかってきたってのになんなんだよ! 鉄を打ってた方が俺は向いてんだよ! 》


《 落ち着け! あの火薬ってのは凄え。あれを使いこなすには、カガクは必要な知識だってベリー女史が言ってただろ 》


《 ママ〜! お芋ができてるって! 早く行こうよ〜 おっいも♪ おっいも♪ おいしいおいも♪ 》


《 はいはい。今行くから待ってて。まったく昨日あれほど食べたのにもう…… 》




「賑やかになったもんだな」


俺は周囲から聞こえる様々な声に笑みを浮かべていた。


帝国を滅ぼしてから2ヶ月ほど経過し、俺はヴェール大陸南端にある獣王国建設予定地にいた。

そこで各大陸から移住させた10万人近くの獣人やドワーフにホビットたちを眺めながら、移設した城の城壁の最終チェックをして回っている。


この2ヶ月の間、帝国に残っていた貴族は魔族たちにより全て掃討された。

その際捕らえた貴族の女子供も島流しにした。貴族のいなくなったムーアン大陸の街や村では、早速指導者が現れているようだった。


中には元兵士だった者たちが武力で街を支配しているところもあるようだ。いずれ国が乱立していくだろうな。しかしドワーフもホビットもいない中で、元の軍備を整えるには相当な年月が必要になるだろう。

隠し持っている魔銃なんかはあるだろうが、魔石が無いから中世レベルの軍備に逆戻りになるだろうな。


俺はというとヴェール大陸の南端に獣王国を建国するために、昼は帝都や王都から城やら屋敷やらをひたすら移設していた。恋人たちはマリーたちと一緒に、開墾の手伝いやドワーフとホビットに科学や日本語を教えている。教育教材が全て日本語だからな。


科学に関してはまずは火薬を扱うための初歩的なものだ。魔導回路の知識はあるようだから、いずれ魔力と科学が融合した技術が開発されることだろう。300年後には海の魔物を養殖してたりしてな。


それと魔族と獣人たちには上級ダンジョンの魔結晶を2つ置いて行くことにした。

この魔結晶の魔力を使って文明を発展させていって欲しい。最上級ダンジョンクラスの魔結晶はもう置いていかない。あの時置いていったことが今回の事態を招いたからな。この世界には過剰なエネルギーだったようだ。


上級ダンジョンの魔結晶は置いていったが、最上級ダンジョンの魔結晶2つを手に入れたから別に損はない。もともと両方俺が手に入れたものだが、一度譲ったものだ。最上級ダンジョンの魔結晶は地球にはないし、俺も3つしか持ってなかったから回収できたのはまあ得したのかな。


それに戦利品として無傷の飛空戦艦24隻に、堕とした飛空戦艦からの大型浮遊石1つ。サンプルとして100丁の魔銃に10門の魔砲。王国と帝国の宝物庫にあった金銀財宝を手に入れた。なによりの報酬はエフィルとララノアを初めとする、千人近くのエルフとダークエルフたちだ。彼女たちを救えたことが最高の報酬だろう。小太郎とかはいらないが。


さて、戻ったらアンネットに魔銃を渡してご褒美のキスでももらって、エフィルとララノアを含むエルフたちとロットネスト島で裸の親交をそれはもうじっくりと深めて……そうだ! この世界でかなり熟練度が上がった創造魔法で、天使ちゃんたちを創造してみるのもいいな。

いよいよ俺の夢の楽園が完成する。あ〜早く帰らないとな。


「ダンナ! 明後日の帰還のことなんだけどよ。なんとか絞ったぜ」


俺が帰還後のことを考えてニヤニヤしていると、ガンゾとヨハンさんが疲れた顔をしてやってきた。

どうやらやっと地球に来る人員が決まったようだ。希望者が多くてなかなかまとまらなかったみたいなんだよな。義理堅い人たちばかりだったからな。


「最初は500人とか言ってたからな。結局何人付いてくるんだ?」


「若い男女が80人だ。俺が面倒みることになった」


「若いのか? 確かリンデールとオルガスの奴隷になってたのは3千人くらいだったろ? 食糧が足りなくて最近は子供を作っていないと聞いたぞ? それなのにその数の次世代の若者を連れて行って大丈夫なのか? 」


当初は若い人は除外するって話だった気がするんだけど、子供が少ないのに大丈夫なのかね?


「それは俺も言ったんだが、ダンナへの恩返しと種の保存だな。王国と帝国に協力させられたが、反抗した者が結構殺された。今後魔族のいるヴェール大陸で何が起こるかわからねえってんで、年寄りはやめて若いのを預かることにした」


「そうか……ヨハンさんのとこは? 」


「はい。私たちの同胞も若い男女を100人ほど預かることになりました。力が弱いためかなり迫害を受けていたようで……皆心に傷を負った若者ばかりです。ガンゾさんと同じく、種の存続のためにも預かることになりました」


ホビットもか……ドワーフと同じく反抗した者は殺され、数がいる分最近は食糧も行き渡らなかったから多くの者が亡くなったと言ってたな。

王国や帝国にいたドワーフやホビットたちも、勇光軍を影で支えたり生きるために戦っていたんだな。


しかしホビットもドワーフよりは多いが、やはり子供は少なかったはずだ。そこで成人したばかりの子たちを連れていったら数が増えにくくなるんじゃないか? 特にホビットは人族と寿命が変わらないから心配だ。


「ダンナ、大丈夫だ。食糧が足りてりゃまた数は増える。今回連れて行くくらいの数ならすぐ増えるさ」


「ガンゾさんの言う通りです。食糧があればホビットも子供が今より増えます」


食糧か。確かに衣食住がしっかりしていれば子供を作ろうとするか。子供を餓死させるかもしれない状態で作ろうとは思わないもんな。ドワーフはただでさえエルフの次に子供ができにくいのに、子作りをやめてたらそりゃ子供が少ないか。ドクとイスラの兄妹も100歳離れているしな。


「そうか。各種族で決めたならそれでいい。それじゃあ明後日の朝に出発するから家族との別れを済まさせておいてくれ」


「おうっ! 帰ったら忙しくなるぜ! あと初級錬金の魔法書10冊もありがとよ! 同胞たちは泣いて喜んでたぜ! 」


ガンゾはそう言ってドワーフたちのいるところへと戻っていった。

ヨハンさんも丁寧にお辞儀をしてからホビットたちの集落へと向かっていった。


初級錬金魔法書は余ってるからやったんだけど、この世界ではもう手に入らないから貴重なんだろう。

ドワーフの寿命は400年だから300年後には魔法を使える者がいなくなる。ちょうどいい感じだな。


火竜と風竜を各2頭ずつ創造してヴェール大陸を巡回させているから、300年は保つはずだ。結界の魔道具も装備させたしな。ヴリトラがいれば安心なんだが、アイツはドーラと一緒に地球に来れると知った時に大喜びしてたからな。もう全身で喜びを表現していてさ、ドーラが本当に好きなんだなと思ったよ。


でもヴリトラは不器用なうえに女の扱いがさっぱりわかってなくて、結果的にしつこく付き纏ってストーカーになってんたんだよな。マイナススタートだけど長い寿命だ。せいぜい頑張ってくれ。手を貸すと蘭とドーラに怒られるから俺には期待するなよ? あの2人は怒らせたくないんだよ。



しかしリアラには悪いことしたな。本当は1ヶ月前に帰れる予定だったんだけどさ、旧獣王国の浮遊島から落ちた神殿でエルフ千人と竜人族230にサキュバスとインキュバス500。そしてヴリトラとドーラを連れて帰るって言ったら黙っちゃったんだよね。


どうもさすがにサキュバスたちはともかくエルフと竜人族を全員連れて帰って、この世界から2つの種をなくすことは想定していなかったようだ。

俺はそんな気まずい雰囲気の中ですかさず光一の召喚を阻止できなかった件とか、依頼は完璧に達成して獣人たちもリアラ信仰を始めたとか色々言い繕ったよ。その結果リアラは深いため息のあとに、今回だけですよと言って了承してくれた。


リアラ曰く、光一のことはアマテラス様が召喚を跳ね除けると思ってたらしい。ところが召喚されてリアラもびっくりしたそうだ。一応俺も一枚噛んでいるからその件は必要以上に追及しなかったよ。その上で光一の活躍をリアラにしっかりアピールしておいた。俺と同等の存在になり得るポテンシャルを秘めているってね。リアラも創魔装置を破壊した光一と、その後の帝国軍との戦いを褒めてたな。

戻ったらアマテラス様と今後のことを話し合わないとな。なんか全てが順調過ぎて怖いくらいだ。


まあそんなこんなでその人数なら神殿ごと転移させた方がいいということで、女神の島の泉の近くに転移できるよう準備をしてくれるそうだ。そしてもう少しこの世界に干渉できる信仰による力が必要だということで、1ヶ月延期したってわけだ。


それでもこの世界には半年もいなかったから、戻っても1日しか経過していない。

俺はリアラに待つと言って帰還の日が来るまで雑用と、恋人たちやマリーたちといちゃいちゃして過ごしていた。ゼルムは王都がこんなに早くできて喜んでいたよ。


ギルセリオも順調みたいで、さっそくアトラン大陸をまとめ始めているよ。落ち着いたら建国宣言をするそうだ。

ギルセリオ騎士団についていった獣人の一族が300人ほどいるけど、ギルセリオにはまた同じ過ちを犯さないようキツく言ってある。リアラを通して俺が見ているぞと言ってね。真実の布教がされているし、また俺を呼ぶことになるから大丈夫だとは思うけどな。


さて、城壁はこんなもんでいいだろう。ちょっと硬化で固め過ぎた感があるが、硬くて悪いことはないもんな。魔族の奴らも開墾と農作業で忙しそうだし、この大陸はもう大丈夫だろう。

サタールムは相変わらず何か企んでるみたいだから、最後に強烈な命令をしておくかな。アイツわかりやすすぎるんだよな。やっぱ横浜ダンジョンにいた奴と同じだわ。オツムが弱過ぎる。


俺は戦争中に隠れて眷属を増やし、武器をちょろまかしていたサタールムに、魔族同士での争いも禁ずる命令をするために魔王城へと転移をした。

そしてその日の夜に、俺に武器を回収され魔族同士の戦争を禁じられたうえに、バガスに悪事がバレてボゴボコにされたサタールムのことを恋人たちに話しながら楽しく過ごしたのだった。




♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




そして2日後帰還の日。


魔王城でバガスとサタールムとアジムに大人しくしてろよ? 見ているぞと念を押した俺は、光魔神様と連呼する魔族と号泣するゼルムが引き連れる獣人たちの盛大な見送りを受け、ムーアン大陸南端の旧獣王国王都近くにある浮遊島の神殿へとゲートを繋いだ。


俺は光一が先日恋人にしたらしい兎人族の美女と、光一に惚れてるっぽいその妹と楽しそうに話すのを見ながら、アイツ上手くやったなと恋人たちと苦笑しつつエルフたちと共にゲートを潜った。

そして各長に神殿内に皆を入れるよう指示をした。


神殿は5階建てでかなり大きく、浮遊島から落ちたのに傾くことなく真っ直ぐな状態で地上に鎮座している。

俺は何度も来ているから見慣れているが、普通は浮遊島のダンジョンに挑む者と神官しか目にすることのない神殿だ。皆が神殿を見上げ呆然としていたのは仕方ないだろう。

しかしゲートを潜り呆然としていた者たちも、リムとエフィルの号令でキビキビと神殿へと入っていった。


するとその神殿の横に見知った顔たちがいたので、俺はシルフィを連れてその者のところへと歩いていった。


「勇者様! 」


俺が近づくと300名ほどの集団の中からギルセリオが飛び出してきた。

その集団の背後にも、俺に向かって深々と頭を下げている同じ数だけの獣人たちがいた。彼らがアトランの地に残る獣人たちなのだろう。


「ギルセリオ、見送りか? 忙しいのに悪いな」


「はっ! いえ! 世界を救っていただいた勇者様をお見送りするのは当然かと! 」


ギルセリオは相変わらず堅い態度で直立不動の姿勢で俺へと答えた。


「そうか、エルフは全員連れて行くが、エルフの名を持つ者としてアトラン大陸東にあるエルフの森は残しておいてくれ。誰の領地にもしないようにな。もしかしたら数百年後に戻りたいと言い出す者もいるかもしれないからな」


「ギルセリオさんお願いね。あそこは今は焼け野原だけど必ず森として復活するわ。何度人族に焼かれようと必ず。私たちの故郷を残しておいてね」


もしかしたら年老いたエルフで、この世界に帰りたいという者がいつか出てくるかもしれない。

リアラとしてはエルフが戻るのなら受け入れるはずだ。もう一度この世界に送ってくれるだろう。

その時に帰る場所を残しておかないとな。精霊神の加護のある深い森だ。今は焼け野原となってしまったが、数百年後には精霊の溢れる森へと復活しているだろう。


「はっ! 必ず! 我ら人族の罪として、贖罪の地として風精霊の森、水精霊の湖、そして真宵の森は何人たりとも立ち入れさせません! 我が物にしようとする者には、光魔王が降臨し滅ぼされるとでも言い伝えておきましょう」


ギルセリオが最後の方だけ笑いながらそう言った。コイツめ……

まあ勇者が降臨するよりは効果があるか。実際2つの大国とその兵士を皆殺しにして滅ぼしているからな。


「くくく……そうだな。そうしておいてくれ。リアラにはちょこちょここの世界の様子を聞いておく。もう決して他種族を迫害しないことだな。300年だ。300年はヴェール大陸からアトラン大陸に誰も来ることはない。もちろん逆もだ。ただ、ドーラのいた巣から北にある無人島での貿易は許可している。あそこだけは海の魔物も水竜が抑えている。獣人と魔族とそこで上手くやれ」


貿易で最低限の交流をさせておかないと、勝手に相手を怖がってまた攻めようと言い出しかねない。

得体の知れない者ほど恐怖を掻き立てる。なにより魔族のいる土地だし、そのうえ過去に自分たちの祖先が迫害した獣人もいる。人族は身に覚えがあるから獣人の報復が怖いと思うだろう。

しかし最低限相手の情報を得ておけばそれも防げる。それにアトランに残した獣人たちが、いざという時にヴェール大陸に逃げることができるしな。


「はっ! ありがとうございます。獣人たちへは誠意を持って謝罪を行い関係改善に努めます! 」


「簡単にはいかないだろうが、代替わりしても諦めずに誠意を見せ続ければ獣人たちも受け入れてくれるだろう」


「はっ! 必ず! 勇者様……改めてリンデールとオルガスの愚行を止めていただきありがとうございました。勇者様よりお預かりしたこのアトランの地は、必ずや復興させ民たちを導いていきます。そしてエルフと獣人、竜人にドワーフやホビットたちへ行った我ら人族の罪を、末代まで色褪せることなく語り継いでいきます」


「そうか。未来は全て人族の心持ち次第だ。また傲慢になるようなら、今度は獣人たちに滅ぼされるだろう。種が滅ぼうとした時、リアラへの信仰が無くなった時。勇者か魔王が再びこの地に降り立つだろう。魔王を呼ばれる側にならないように気をつけることだな」


「はっ! 肝に命じます! 」


俺はギルセリオの真剣な眼差しを見て、この男の名と血が残っているうちは大丈夫だろうと確信した。

そして肩を叩いて別れを告げ神殿へと向かった。

ギルセリオとその騎士団、そしてこの地に残る獣人たちはずっと俺とシルフィに頭を下げていた。

俺はそんな彼らに心の中で幸せになれよと告げ、神殿の前へと戻ってきた。


神殿に戻ると、光一を始め各種族の長が俺とシルフィを待っていた。


「光希! レミとナナを神殿に入れたぞ! 早く帰ろうぜ! 」


光一は俺を見るなり開口一番でそう言った。その満面の笑みがうぜえ。


「勇者様、エルフ338名収容しました」


エフィルは緊張気味だな。初めての転移だしな。

緊張した顔もまたそそるな。この2ヶ月の間に何度かララノアと交代でデートをしたが、まだ最後までしてないんだよな。ララノアの胸に挟まれて口ではしてもらったが……

蘭はいいと言ってるし、戻ったらララノアともども可愛がってやらないとな。


「殿! ダークエルフ610名収容したでござる! いやぁダンジョンのある世界に行くのは楽しみでござるなぁ。はははは! 」


「ククク……腕が鳴るでござるなぁ」


「しかりしかり。我ら真宵の森の三傑で上級ダンジョンを踏破するでござるよ」


小太郎と孫六と三太夫が若返ったそのイケメン顔で跪いて報告をするが、俺は影縛りでこの3人をここへ縛り付けて置いていきたい誘惑と戦っていた。だってコイツら若返ったことをいいことに、2人目の妻を持ったんだ。こんなジジイたちが若いダークエルフの女の子と……殺してえ……


チッ……戻ったらこの3人だけ海外に飛ばすか。


「勇者様、竜人族230名収容終わりました」


俺が小太郎たちに殺意を向けようとしていると、全盛期の筋肉むきむき姿のトータスが報告を始めた。

トータスはさも長老ですと言わんばかりに落ち着いた声で俺に報告をしているが、戦闘中熱くなって前に出すぎてセルシアに何度もどつかれていたのを俺は知っている。

コイツらはセルシアに厳重に管理させる。野放しにしたら危険だ。オーストラリアに放り込みたい……


「ダンナ! ドワーフ84名にホビット105名神殿に入れたぜ! 」


ガンゾが威勢良くそう報告をした。昨日は同胞との別れに酔いつぶれていたのに元気なもんだ。

やっぱりいきなり地球に女神の島と共に来て寂しかったんだろうな。ゾルもドクも年下だしな。

しかしこの2ヶ月はイスラとニーチェといっぱい遊んだな。並行世界だけど、2人の故郷にもドーラに乗って行った。2人とも懐かしそうにしてたよ。途中3人で水浴びしたのはいい思い出だ。


2人ともちっこいけど、意外と胸があるんだよ。可愛い妹みたいに思ってたんだけど、恥ずかしそうにして胸と股間を隠す2人についつい興奮して俺の魔王棒を握らせてしまった。俺ってロリもいけるのかも。


「光魔王様。サキュバスとインキュバス総員525名整列完了致しました」


最後にリムが一気に増えた同胞の数を若干嬉しそうに報告した。

リムの種族繁栄という目的が計らずとも達成したからな。これからサキュバスたちはどんどん増えていくだろう。俺もいっぱい貢献するつもりだ。連れてきた者としての責任だなうん。


「ダーリン、ドーラはここでいいの? 尻尾だけ置いてかれたりしないかしら? 」


《 ルオ!? 》


俺がエフィルたちからの報告を終えると、凛がドーラの上から素朴な疑問を口にした。

確かに神殿より大きいからな。ドーラは不安になったのか、尻尾を丸めてるよ。


「大丈夫ですよドラちゃん。女神様はそんなことしませんよ。凛ちゃんドラちゃんを脅かさないでください」


「あははは、ごめんねドーラ。身体が大きいから不安になったのよ。あっちに戻ったらいっぱい遊ぼうね」


《 ルオォォン! 》


「ふふふ、光希。準備はでいてます」


「旦那さま早く帰ろうぜ! ヴリトラがうぜえんだよなぁ。ずっとはしゃいじゃってさ。ガキかってんだよ」


「そうだな。光一とガンゾたちはヴリトラに乗れ! 帰るぞ! 」


俺はそう言って皆がヴリトラに乗るのを確認したのちに、リアラへと心話を送った。

神殿からこれだけ近ければ繋がるだろう。


《 勇者よ……準備はよいのですか? 》


《 ああ、無理言って悪かったな。もういつでも大丈夫だ 》


《 いえ、勇者のやり方には少々驚きましたが、思ってた以上に早くそして少ない犠牲で済みました。食糧も地球の作物のおかげで最低限は得られそうです。盲点でした 》


《 駄目元でやったらうまくいっただけさ。魔力で育つ作物と違い育成も遅いし病気にもなる。万能ではないが、今のこの世界には必要だろう。大地に魔力が戻ればいずれ育てなくなるさ 》


この世界の作物の方が育成は楽だ。作物も病気にならないしな。

大地に魔力が戻れば、いずれは手間のかかるうえに育成の遅い地球の作物は育てなくなるだろう。


《 それでも魔力が戻るまでは数百年は必要です。それまでの間、芋という作物だけでも我が子たちを救ってくれるでしょう 》


《 そうだな。芋は生育が早いからな。それと王都の大神殿の地下の封印だが、リアラの判断で解除してくれ。二百年経過したあとなら、信仰と人族の状態を見てリアラから神託を授けてやってくれ 》


《 わかりました。地球の作物の種の入った時の止まったアイテムポーチがあるのでしたね。勇者は本当に優しいのですね 》


《 師匠の子孫がいるからな。俺は義理堅いんだ。まあそれでも人族はすぐ増えるから二百年後だけどな。ああそうそう、約束のリアラの加護と精霊神の女神の島への加護頼んだぞ? それとダンジョンと共に地球に来た者で希望者を元の世界に帰すことも 》


そう、俺はリアラに精霊神の加護のほかにもう一つ報酬を頼んでいた。

それはダンジョンと共に地球に来た者たちの元の世界への帰還だ。


以蔵やガンゾたちのいた元の世界も、このアトランと同じように300年以上経過しているだろう。獣人やホビットは知り合いはもういない。それでも死ぬ時は生まれた土地でと思う者もいるだろう。なによりダークエルフやドワーフはまだ知り合いが生きている。シルフィは帰すつもりはないし、シルフィも帰るつもりはさらさらないと言っていたけどな。


まあそんな彼らに元の世界に帰る機会を与えたかったんだ。

ダンジョンの移動は破壊神がやったことだけど、女神の島はリアラが転移させたこともありリアラも責任を感じていた。人数が多い場合でも、女神の島とこの神殿と俺と蘭の神力があれば地球から送ることができるそうだ。帰ったら日本中の獣人たちに声を掛けようと思う。


《 ええ、今回勇者とともに来た者はよく働いてくれました。成長の早くなる私の加護を授けましょう。島への精霊神の加護も問題ありません。精霊神も勇者を褒めていましたよ。ダンジョンと島と共に来た者は日を改めて送りましょう。あの者たちには迷惑を掛けました 》


《 助かる。どうしても故郷を想うダークエルフやドワーフたちの顔が淋しげでな。帰りたい者は帰してやりたいんだ 》


《 ふふふ、勇者は本当に勇者なのですね。あの時貴方を選んだアマテラスには感謝しかありません 》


《 俺にとっては災……いや、今となっては幸運か。大切な人に出会えたからな。運命ってのはわからないものだな。まあ俺より強くなるのが早い光一にあとは任せるさ。光一を勇者と認めてくれるんだろ? 大活躍したから認めるよな? 》


《 ええ、あれほどの力を持っているとはさすが勇者と同一人物ですね。勇者に相応しい善の心と心の強さを持っています。加護と共に勇者の称号を授けましょう 》


よしっ! 光一はSランクだから称号ボーナスでこれでSSにかなり近づいた!

アマテラス様へのアピール材料にはもってこいだな。


《 そうか、アイツは期待できるからな。2代目勇者となってくれて嬉しいよ。それじゃあ転移頼むよ! 》


《 ふふふ、しょうがない人ですね。わかりました。それでは元の世界の私の島へお送りします 》


リアラはそう言って膨大な神力を俺と神殿の周囲に降り注いだ。

すると俺は光に包まれ浮遊感と共にこの世界を後にしたのだった。


ギルセリオ、ゼルム、バガス。あとは頼んだぞ。


さよならだ、俺の勇者としての始まりの地アトラン。


そしてもう二度と俺を呼ばないでくれよな。



こうして半年近くに及ぶ俺の勇者としての後始末の戦いは終わりを告げたのだった。




※※※※※※※※※※



作者より。


これにて第9章 「勇者の帰還」は終わりです。


次は1月11日(土)から最終章 「魔王を倒して現代に帰って来たらパラダイスだった! 」が始まります。


こちらは【毎週土曜日更新】となり、日常のお話がほとんどとなります。そして最後は主人公の最大のフラグを回収して涙の大団円となる予定です。最終回のあともちょこちょこアフターを書いていこうかと思っています。


そちらの方もお楽しみいただければ幸いです。



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