第9話 スキルとレベル

 

「――あ~、なるほど。だけんタカヤはそげな状態になっとったとね」


 こうなった事の経緯を掻い摘んで三人に話すと、まず得心がいったように頷いたのはメイリールだった。


「あの……冒険者みなさんの間では、こういうことっていうのは良くあることなんですか?」


「報酬の取り分とかで揉めることはあっても、途中でパーティから、しかも一人だけを外すってのは考えられんな。その理由もなんか滅茶苦茶だし……なあ、タカヤ、お前の元パーティってのは、おままごとで冒険やってるバカ共の集まりなのか?」


 隆也の問いに、三人組のリーダーであるロアーが憤りを隠すことなく答える。


 あまりにもバッサリと切り捨てたものだから、隆也のほうが思わず申し訳ない気持ちになってしまう。うちのバカ共がどうもすみません、と。


「っつか、ちょっと気になってたんだけどよ。タカヤ、お前、元いたところでどんな仕事やってたんだ? 別に何もしてなかったわけじゃないんだろ?」


 と、ここでダイクも話に割って入ってくる。


 一応『騎士』であると称していた彼だったが、騎士の象徴とも言うべき剣を彼は持っていない。盾は持っているが、それだけだ。


「そうですけど……でも誰にもできるような仕事ですよ。仲間が狩ってきた獲物を捌いたりとか……」


「つまり【加工屋】ってことか?」


「加工、屋?」


 ダイクの口から初めて聞く単語が飛び出してくる。


 彼の口ぶりから察するに、どうやら隆也が単なる雑用だと思っていた仕事にも、この世界には、きちんとした名前があるらしい。


「ダイク……もっとちゃんとわかるように話さんね。タカヤ、さっきからポカンとしとるよ」


「うるせえな、そんぐらいわーってるっつの。ったく、脳筋神官のくせして俺にお説教とか——」


「なに? 何か文句あると??」


「いや、冗談です。何でもないですすいません」


 ダイクを睨むメイリールの目つきが怖い。そういえば彼女も、神官服を着ているわりにはいい体格をしている。細身だがよく鍛えられていて、無駄なぜい肉が付いてなく、スタイルもいい。


 どちらかと言うと、神官より武道家などのほうがあっているかも、という印象を隆也は受けた。


「加工屋、ってのはその名の通り、冒険の過程で得た魔獣の死骸とか、草木とか花の植物を、食糧だったり、もしくはアイテム精製に使う『素材』に変える役割を任されたヤツのことを言う。例えば、狩ってきた獲物を、料理しやすいように色々な部位に切り分けたりして『加工』したりしてな。ここまではいいか?」

 

 ダイクの話に、隆也は頷いた。これまで彼がやっていたのは獲物を捌くだけだが、どうやら加工屋の仕事は多岐にわたるらしい。


『なんか、その話だけ聞くと、なんだか随分加工屋が有能で、パーティに外せない人材のように聞こえますね」


「……何言ってんだお前? 実際、加工屋ってのはめちゃくちゃ有能なヤツらの集まりだぜ。素質がなきゃ出来ないし、絶対数も少ないからな」


「え? でも、街に行けばそれぐらいの人たちわんさかいるんじゃ……」


「確かにそうだが、あいつらは素質持ちでも精々レベルⅠの食肉解体業者でしかねえ。加工屋になるような奴らは、ⅢとかⅣぐらいの素質持ちでなけりゃなれないからな」


「レベル……」


 またしても隆也は混乱した。今度はレベル。しかも、いくつかの段階に分かれているらしい。なんだかゲームの世界に迷い込んだ気分だ。


「ねえ、二人とも。やっぱりタカヤも一緒に都まで連れて行かん? ここで門外漢の私らが色々話すよりかは、ギルドの人達に説明してもらったほうが早かし」


「俺は別に構わねえけど……どうするよ、リーダー?」


「成り行き上、仕方ないだろう。不思議な少年なのは間違いないが、少なくとも彼自身が思っているほど、俺達にとって『役立たず』ではないようだしな」


「よし! んじゃ、決まりやね。タカヤも、それでよかよね?」


 隆也としても断る理由はない。どうせ一度は捨てようとした命だし、それなら、死ぬまでこの世界で、成り行き任せに自由に生きてやるのも手だ。


 差し出された手をとって立ち上がった隆也は、新たに仲間となった三人の冒険者とともに、これからの舞台を、彼らのいう『都』へと移していくのだった。

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