第180話 ゲーム 2
「血迷ったのですかっ、姫様っ!?」
ラヴィオラの言葉に、まず真っ先に声をあげたのはセプテだった。
下手すれば全員に命の危険がある賭けを、この仲間の中でもっとも実力も経験の浅い隆也に託す。
それは、あまりにも無謀な提案に思えた。今回はセプテが反応したが、彼女が言わなければ誰かが口を挟んだだろう。
「私は正常だ」
「私は反対です。他の三人ならともかく、何の実力もない――」
「タカヤ、たしか指先はかろうじて動くといっていたな?」
「はい。弾くだけなら、問題ありません」
「姫様っ!」
「そういうわけだ、ゼゼキエル。まずは隆也を解放してもらおう」
しかし、だからといってラヴィオラが決意を曲げる様子はない。仲間の意見を無視した強引なやり方だが、エリエーテも、エルゲーテも、そしてこのパーティのリゼロッタはその様子を黙ってことの成り行きを見つめている。
「いいわよ。どうせその子が生き残ったところで、私には何の影響もないだろうし……何の強さも感じない、つまらないオスなんて――ドロップ」
ゼゼキエルがそう唱えた瞬間、全身にかかる重力の拘束から解放された隆也が、その場にゆっくりと降ろされた。
「この子を解放してあげたから、残り四枚が人質ってことね。じゃあ、私も『心臓』のほうをチップから外して――」
「どちらかの腕にしろ。一人減っても、私たちが命をかけるのには変わらんのだ。貴様だけ安全圏に逃げるつもりか?」
「冗談よ、じゃあ杖を持つ右のほうね」
取り出したゼゼキエルが、五枚あったうちの一つをラヴィオラへと投げた。魔界通貨は表が魔王城、裏は昔の魔王の肖像が細工されているはずだ。
「……細工はされてないな」
「もちろんよ。さ、タカヤちゃん……だったかしら? あなたも確認してみて」
ゼゼキエルが放り投げた残り四枚の金貨を、隆也はしっかりと受け取った。
この結果で、
「どうだい、タカヤ? そっちは?」
「……こっちも、問題ありません。残念ながら」
金貨にはそのほかに魔法文字と思しきものが彫られている。表が『ドロップ』で、裏が『レイズ』だろう。どちらが上を向くかで魔法が発動する仕組みか。
「お願いだよ、タカヤくん。エルーのことは気にしないで、私のところで表を出してくれればいいから」
「姉さんひどっ……! タカヤくん、私っ、私のほう、エルゲーテのほうだけでいいからねっ」
桃色の髪の魔法使い姉妹が宙に浮いた状態でやんやと口論を始めた。リゼロッタはそれを見て苦笑している。多分、隆也を必要以上に追い詰めないように気をつかっているのだろう。
「セプテさん、すいません。でも、なんとか頑張って表を出しますから……」
「頑張る? 頑張ってどうやって『運』に介入できるっていうんですか? 冗談は顔だけにしてください」
「セプテ、君ってやつは……タカヤ、大丈夫。君の顔はかわいいほうだと思うから。まあ、私の好みじゃないけど」
「はは……」
申し訳程度のフォローをもらった隆也は、勝負を決するため、ラヴィオラとゼゼキエルの間に入った。
「勝負は一枚ずつ行うわ。私は左腕、左脚、右脚、そして最後に心臓の順で賭けるけど……そちらは?」
「順番はどうでもいい。お前と違って、こちらの仲間に優劣は存在しないからな」
「そう? じゃあ、お言葉に甘えて――」
「くっ、最初は私かっ……」
ゼゼキエルが指示したのはリゼロッタ。これまでのやり取りで、彼女がこのパーティ内の頭脳であることは明らかだ。
この賭けが終わった後、もし続いて戦闘したり、もしくは一度場を仕切りなおして再戦する場合は、真っ先に潰しておきたいだろう。
「では、いきます――」
だが、もし彼女がそんな考えを持っているのなら、甘いと言わざるを得ない。
隆也が躊躇なく弾いた一枚目。
回転する金色のコインがふわりと宙を舞い、ちゃりんと音を立て、地面へ。
そして、顔を見せたのは、当然のごとく表だった。
「タカヤっ……!」
「ちっ……!」
「まずは、一人目です――」
ラヴィオラの要求に応じて隆也をコイントス役に指名した時点で、ゼゼキエルはすでに負けている。
なぜなら、この勝負、どうあがいても表が出てしまうからだ。
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