第181話 ゲーム 3
「……まずは一敗か、残念。じゃ、約束通り、一人目を解放してあげる――ドロップ」
「――っとと」
憮然とした顔をしつつも、事前の取り決め通り、拘束されていたリゼロッタがゆっくりと降ろされた。
「タカヤ! ありがとう、よくやった! 愛してるぞっ」
軽やかに着地した後、リゼロッタがすぐに隆也の元に駆け寄って抱き着いてきた。いささか大げさではないかと思ったが、このぐらいのほうが現実味があっていいだろうか。
ゼゼキエルも、こちらの様子をちらりとではあるが観察していた。
怪しまれるわけにはいかない。
「さてと、まずは貴様の左腕、もらい受けようか」
「そうね……じゃあ、魔法の力を弱めるから、あなたの持っているヘンな剣で切り落として。自分の腕を自分でもぐような趣味、私にはないし」
「いいのか、そんなことをして? その瞬間、貴様の首を落とすかもしれんぞ?」
「その時は三人が強制的に『ドロップ』されるだけよ。この世からね」
魔法の力が弱まったのか、それまで地面にくぎ付けだったラヴィオラが、一歩前に踏み出した。引き抜かれた星剣が、魔族であるゼゼキエルを、獲物を前にして、より一際輝きを増した。
次の瞬間には、すでにゼゼキエルの左腕は消滅していた。
「んくっ……へえ、それが
同じ感想を隆也も持っていた。ゼゼキエルの左腕を落としたのは間違いなくラヴィオラだが、彼女が何をやったのか、間近で見ていた隆也にはまったくわからなかった。
ラヴィオラの剣の素質によるものか、星剣の持つ力か、もしくはその両方か。
いずれにしろ、魔族たちにとっては厄介な代物だろう。改めて、ムムルゥを離しておいてよかった。
「この勢いのまま二投目と行こうか。タカヤ、この流れで頼むぞ。エリエーテ、次はお前だ」
「え? 私? やたっ、この流れならきっと楽勝だよね。んじゃ、お二人さんお先~」
そう言うセリフは逆に不吉なことが起きる予兆だが、それは、この時ばかりは適用されない。
事実、二投目。
「――表、です」
「っ……!?」
「くくっ」
「ほらあ、やっぱり!」
姉のほうであるエリエーテがお次に自由となった。残るコインは二枚。
左腕と左脚を失ったゼゼキエルは、背中に残った羽を使って、なんとかバランスを保っている状態だ。
星剣の大出力によって焼け焦げた断面が、なんとも痛々しい。
「いたい、いたぁい……! でも、いいわ。これこそ、私が求めたものッ……『上』にはなかった刺激っ……!」
「タカヤ、早いところ終わらせるぞ……目障りだ」
「……はい」
壊れたように笑い声を漏らすゼゼキエルをよそに、隆也はゆっくりとコインを弾いた。
結果は同じだった。
「くっ、んううううっっ……!」
三回連続で、こちらの勝利。
ゼゼキエルもおかしいと思っているはずだ。三回とも表ができるケースはそうは起こらない。しかも、これは一発勝負なのだ。
だが、彼女はこちらに異議を唱えることはできない。
なぜなら、今、彼女が見ているコインには何の異常もないからだ。
「往生際が悪いぞ、ゼゼキエル。三投目の前に、タカヤに言って確認させたはずだ。コインの裏表には、何の細工もされていない」
意図的に表が出るようコインを投げる能力があればいいが、残念ながら隆也にはそれがない。しかも、隆也の腕には今もエルニカの拘束具がつけられている。
イカサマは、バレなければイカサマにはならないのだ。
「これが運の流れ……? いやまさか、そんな都合のいいことっ……!」
「――さあ、四投目だ。貴様の心臓、もらい受けるぞ」
「ありえないっ、こんなことありえ――」
「……では、いきます」
コインの裏側を指先でやさしく撫でて、隆也がゼゼキエルへとどめの一枚を投げた。
「さらばだ、堕天使ゼゼキエル。我が星剣が作る平和の礎となれ――」
「ふふっ、ここまでなのね……あとは任せたわよ、皆――」
「魔族はこの世から一匹残らず滅ぼす……
こちらの勝利を確認した瞬間、放たれたラヴィオラの突きが一筋の大きさな閃光となって、ゼゼキエルの胸部を貫く。
魔力の源を絶たれれば、さすがにゼゼキエルとて再生の手段はないのだろう、残った右腕と主を失ったスターバンカーが、黒い塵となって、完全にその存在を焼失させたのだった。
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