第144話 東の孤島
「うっ、寒っ……」
視界が晴れた後、転移した隆也をすぐに出迎えたのは、思わず縮こまってしまうほどの寒気と、そして、降り積もった雪によって形作られた辺り一面真っ白な景色だった。
「相変わらず寒いな、ここは」
「師匠、ここが……」
「ああ、東の孤島シマズ。アカネが生まれ育った、鬼……だったかな、その末裔が暮らす場所だ」
やけに和風な服装だったり、角があった時点でもしかしたら、と隆也も以前から思っていたが、その予想は当たっていたようだ。
降り立った先に、朱に塗られた鳥居のようなものが建てられていて、その先に石づくりの階段が続いている。まだ入り口に着いただけだが、どう考えても、神社のようにしか見えない。
「この石段をまっすぐに上がれば、アカネのいる集落だ。私が来ることは勿論言ってないが、優しいあの子のことだ、二人ぐらいだったら、まあなんとかなるだろう」
「師匠からも説得はしてくれないんですか?」
「去る者は追わず、だからな。私は。あの子が弟子を辞めたいのならそうすればいいし、やっぱり残りたいのならそうすればいい。タカヤが辞めたいって言ったら、私は全力で阻止するけどな」
「その依怙贔屓も問題なんじゃないですかね……」
師匠にとってはそうかもしれないが、隆也にとってのアカネは、彼自身のこれまでの成長に大きく寄与してくれた存在である。
今も変わらず隆也の相棒で居続けてくれている『シロガネ』も、彼女と一緒に創り上げ、そして彼女が名をつけてくれたものだ。
あの時、祝賀会の時、アカネは隆也に『お前は変わった』と言っていたが、それは違う。
隆也は、まだ何も変わってはいない。優柔不断で、甘ったれで、誰かを頼りにしないと、仲間の支えがないと、自分一人で立つことすらままならない子供。
いつまでも子供ではいられない。それはわかっている。だが、隆也には、まだ、彼女が必要だった。
自分のことをしっかりと見てくれ、そして時には叱咤してくれる姉弟子のことを。
「ごしゅじんさま、ミケ、もうアカネとあえない? アカネいなくなるの、わたし、さびしい」
「大丈夫だよ、ミケ。俺と一緒に頼めば、きっとまた戻ってきてくれるから」
不安そうな瞳でタカヤにすがりつくミケの頭を撫で、隆也は、今は雪雲で覆い隠された石段の続く先を見つめる。
「……タカヤ、一週間後に、またこの場所に迎えにくる。こっちのことは心配せず、お前は自分のやりたいことをやってこい」
「師匠、ありがとうございます」
「構わん、大事な弟子達のためだ。たまには保護者らしいこともせんとな」
言って、エヴァーは再び転移でシーラットの皆やリゼロッタの待つ場所へと戻っていった。
残ったのは、隆也と、そして、そのしもべであるミケの二人。
「――ミケ、行こう。足りない一人を迎えに」
「うん、ミケも、はやくアカネにあいたい」
未だしんしんと降り続ける雪でできた純白の絨毯を踏みしめて、一人と一匹は、急な石段をゆっくりと昇り始めた。
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