第208話 メイリールの実家
「ごめんね、皆。お父さんにはまたあとでちゃんと叱っておくけん……」
ひとまず家の中へと場所を移すと、メイリールがすぐさま深々と頭を下げる。
気にしないでください、と隆也も言いたいところだったが、深々と掘られた落とし穴の底に仕掛けられた鋭い木の枝や竹を見て、何も言えなくなった。
メイリールの傍らにはすでに娘からしこたま殴られ、そして簀巻きにされている父親の姿が。
「う、う~……」
こちらを見る父親の何かを懇願するつぶらな瞳が、良心に訴えかけている。
この状況を招いたのは自業自得だが……さすがに反省しているだろう。
「メイリールさん、もうみんな怒ってないですから、とりあえず口だけでも解放してあげたらどうですか? 苦しそうですし、後、ちゃんとご挨拶もしておきたいので」
「タカヤがそういうなら……はい、お父さん」
「ぶ、ぶはっ……!」
口にぐるぐる巻きにしていた布を取ると、それまで瀕死の芋虫のようにぐったりと動かなかったメイリールの父親の表情が、再び豹変する。
「複数の女を平然と侍らせる貴様のような男に、うちのかわいい娘を、メイリールをやれるものか! あと、自己紹介もいらん、とっととかえ――ぶほっ!?」
「ごめん、今から火口の中心にこの枯れ草ば捨ててくるけん、ちょっとだけ待っとって?」
「!? こ、こら待ちなさいメイリールっ! お父さんお前をそんな子に育てた覚えは……あれ? ちょっと待って、なんでそんなに目がマジなのっ!? ねえ、お願い、無視しないで!」
「ご主人様……今のメイリール、すごく怖いね」
ミケのつぶやきには同意せざるを得ない。
メイリールいじりもほどほどにしておかなければならない、と隆也含む一同はこの時強く思った。
「ただいま~、ってあら? お父さんったらまた面白い姿で……もう、またメイリールのこと怒らせちゃったの?」
「おお~! 親父、毛虫みたい! うねうね!」
「メイリールお姉ちゃん、おかえり~っ!」
と、メイリールが実の父親を担いで外に出ようとしたところで、メイリールによく似た女性と、それから幼い子供たちが、袋一杯の食料をもって帰ってきた。
「そこのあなたがタカヤ君? こんにちは、私はメイリールの母で、メアリといいます。で、そっちのが私の夫のハロルド」
「か、母さん!」
「手紙に『仕事でお世話になってる人たちと一緒に来るね』って言っとったやろ? 早とちりせんと」
「む、むう……」
さすがに妻には頭が上がらないのか、暴れていたハロルドがようやく大人しくなった。と同時に、簀巻き状態からもようやく解放される。
あっという間に元の状態に戻っていくハロルドと、慣れた手つきで拘束をほどくメアリとメイリールの共同作業に感心していると、
「ねえねえ、そこの兄ちゃん」
「ねえねえっ」
と、子供たちに袖を引っ張られた。男の子と女の子。多分、メイリールの弟と妹だろう。
「こら、その前にちゃんと名前言わないかんよ?」
「おれ、リルド!」
「あたしはミィリン!」
「ご丁寧にどうも、俺はタカヤだよ。よろしく」
「おー!」
「よろー!」
元気な子たちだ。さすがはメイリールの家族。
「うしろの姉ちゃんたちも、よろー!」
「おーっ!」
「「……!」」
軽く会釈だけして、ミケとアカネが隆也の背後に回った。どうしてそうなる。
「いい子っスね。私はムムルゥ、魔族っス」
「おー! マゾク!」
「つの、しっぽ!」
「へへー、うらやましいでしょ? 触ってみるっスか?」
ムムルゥのほうは、あっという間に仲良くなったようだ。さすが元四天王……と言っていいところだろうか。リルドとミィリンも魔族を怖がっていないようだし。
「あれ? 二人とも、ほっぺの痣はどうしたんスか? 火傷っすか?」
「ああ、それはちょっと火傷とは違うんですよ。体質みたいなもので……この国に住む人は、大体のひとは体のどこかにあるんです」
メアリが横から答えた。
「不思議な紋様だな……炎……?」
リルドの右頬と、ミィリンの左頬に浮かび上がっているのは、焔玉のような形をした痣である。
この国に住む人……ということは、メイリールやダイクにも似たような痣が刻まれていることになる。
「タカヤ、どうしたと?」
「えっ、いや、ちょっと気になって……その、痣が」
「えっ――」
少しの間が空いたのち、メイリールの顔が首元から頭の先へとどんどんと真っ赤に染まっていく。
「え、あの……?」
「ふふ、ゴメンねタカヤ君。メイリールの痣って、ちょっときわどいところにあって……」
「お、お母さんっ!!」
「うふふっ、若いってよかね~」
どうやらまずい発言だったらしいので、これ以上の詮索は無しにしておく。
しかし、メイリールの痣の場所はともかくとして、この情報は頭にしっかり入れておいたほうがよさそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます