第20話  歓迎会


 夜、全員の仕事が終わるのを待ってギルドを閉めた後、シーラットのメンバーたちはギルド近くのバーに集まっていた。


 淡く輝く橙のランプがいくつも店内に灯って、暖かく賑やかな店内を演出している。港にほど近い場所にあるだけあって、大半は海の男たちが陽気に今日の仕事のことや家庭の話などをしている。


 ガチャガチャとそこかしこでグラスを突き合わせる皆の顔は、概ね笑っていた。


 それは、もちろんここにいる隆也の新たな仲間達も。


「よし、ではこれより新しくウチのメンバーになったタカヤの歓迎会を始める。費用は会社持ちだが、だからと言って飲み過ぎたりはするなよ。明日も仕事、なんだからな」


 副社長のフェイリアがグラスを持って乾杯の音頭をとる。


 こういう場合、社長であるルドラがやってもいいものだが、ルドラは会が始まる前から先に酒を飲み始めていて、今は小さなフェイリアの腰に抱き着いて頬をすりすりとしている。


 うんざりした顔のフェイリアが空いているほうの手でルドラのほっぺたを思い切りつねっているが、ご褒美とばかりに幸せそうな顔を浮かべていた。


 どうやら今はもう仕事モードではないらしい。


「タカヤ、今日は前の時みたいにあんまり飲み過ぎんようにせんとね?」


「あ、その……あの時は本当にすいませんでした」


「気にせんでよかよ。あれがなかったら、こうしてタカヤと仲間になれんかったっちゃけん。結果オーライたい」


 それは本当に隆也も思っていた。


 あの時、近くに身投げできる場所があったら。


 首を吊るためのロープが手元にあったら。


 タカヤは元の世界からもこの世界からも完全に姿を消していたはずだったのだ。


 一人ぼっちだったときの頃とは、大違いである。


「それでは……乾杯!」


「「「「かんぱーい!」」」」


「か、かんぱい……」


 フェイリアの言葉を合図に、メイリール、ダイク、ロアー、それにミッタを加えた四人が一斉に飲み始めた。隆也も、他の仲間に圧倒されながらもそれに続く。


 こういう雰囲気は未だ慣れないが、しかし、自分が輪の中に入っているのなら、まあ、悪くはない。


 口に含んだ酒の味はまだ苦い。だが、仲間と仕事に明け暮れてへとへとになれば美味く感じる時が、いずれは来るかもしれない。


「へっへ~、タカヤ、これからよろしくね~。わかんないことがあったらいつでも聞いてね。また色々教えてあげるから~」


 そう言って、タカヤに抱き着いてきたのはミッタだ。シーラットの受付嬢は他にもいるが、今日はミッタが代表として来てくれている。


 今日の歓迎会は急だったため、タカヤ含めて総勢七人だが、ギルドに所属している人間は他にもいっぱいいるらしい。


 交友関係がいきなり広くなった状況は、人見知りがちの隆也にとっては、この後のことがちょっとだけ気が重い。


「あ~! ミッタ、あんた何ばタカヤに勝手に抱き着いとっとね? タカヤを一番に見つけたのは私っちゃけん。タカヤに色々教えるのは、先輩であるこの私の役割たい」


 なぜかミッタに対抗心を丸出しにしたメイリールが負けじと隆也に抱き着いてくる。まだ飲み始めたばかりなのだが、すでに両方とも顔はほんのり赤くなっていた。


「あ、あの……わからないことがあったら、皆さんに頼りますから……」


「ダメ! タカヤの教育係は私がやると!」


「何言ってんの。お勉強のできない筆頭バカのアンタより、私のほうがよっぽど教官には向いているんだから。ねえ、タカヤ~? お昼の私のレクチャー、わかりやすかったよね~?」


 なぜか大岡裁きよろしく、二人が隆也を奪いあっている。


 二人は酔っているのもあって気付いていないのかもしれんが、さっきから体が密着しているせいで、色々とまずいものが隆也にあたっている。


(二人とも服着てるからわかりにくかったけど、意外にある……って、何考えてんだ俺はっ!?)

 

 よからぬ妄想をしてしまった隆也は、煩悩を振り切るべく頭を左右に振った。


「ねえ、ダイク、ロアー。見てないでちょっとは助けて……」


「「あ??」」


「いや、な、何でもないです……」


 なんとか助けを求めようと男性陣二人に声をかけるも、たった一文字で拒否されてしまった。

 

 女性陣のうち二人が隆也につき、そしてもう一人はさっきからずっとルドラを足蹴にしているから、自然と野郎二人で話し込むしかない。


 なんかすいません、と、隆也は申し訳ない気持ちになった。

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