第21話 女大賢者


「う~ん……あ、あさ……?」


 歓迎会が終わった次の日の朝。

 

 隆也は、ギルド二階の物置のスペースを利用して作った寝床からもぞもぞと抜け出した。


 昨日急遽決まった、とりあえずの彼の仮住まいだ。


「うぅ~、頭痛い……」


 頭の奥にまだじんじんとした痛みが残っている。どうやら昨日飲んだお酒がまだ抜けきっていないようだ。


 メイリールからも度々注意をもらっていたが、結局は、二回連続二度目の二日酔い。起き抜けの体に、昨日はしゃぎ過ぎた反動がどっとのしかかる。


 体はこれ以上にないぐらいだるいが、しかし、最初に一人ぼっちで酔いつぶれた時の余韻とはまた違ったものがあった。


 楽しかったのである。


「昨日の……また、できるかな」


 昨夜のバカ騒ぎのことを思い出し、隆也は一人名残惜しそうにつぶやいた。


 隆也自身も色々と羽目を外し過ぎたせいであまり記憶はないが、喉がかすれるぐらいに笑った事だけはなんとなく覚えている。


 いつの間にやら隆也を差し置いてヒートアップしてどちらが先に酔いつぶれるか争い始めたメイリールとミッタ。それを傍で煽るダイクにロアー。いつの間にか半裸状態で縛られているルドラ。そして、そんな彼の様子を見、葡萄酒の入った大びんを小脇に抱えてゲラゲラと笑うフェイリア。


 正直なところ、あの場の皆は全員おかしかった。皆酔っ払っていた。


 その様子がおかしくて、隆也は、人目をはばからず、声を大きく上げて笑ったのである。


 あれだけへとへとになるまではしゃいだのは、いつぶりだろう。


 元の世界ではそんな気分には絶対になれなかった。バカ騒ぎする連中を遠くから観察して心の中で馬鹿にするのが、隆也の常だった。斜に構えていた。


 だが、今はちょっとだけ、バカ騒ぎする側の気持ちも、わかるような気がする。


「お、どうやらお目覚めのようだ。随分と気持ちよく寝ていたようだが、いい夢はみれたか?」


 すでに出勤時間は過ぎているようで、隆也の様子を見に来た誰かの声が耳に入ってきた。


 目をこすり、ぼやけていた視界がクリアになっていく。


「……ふむふむ、ルドラから話を聞いてどんなヤツかと思ったが、けっこうかわいい顔をしているじゃないか」


「あ、あの……」


「ん? どうした?」


「その、どちら様でしょうか……?」


 隆也の目の前に居たのは、彼のこれまでの記憶にはいない、派手なドレスローブを身に纏った妙齢の女性だった。


 ベイロードの海のように透き通った青色の髪と、妖しく輝く紫紺の瞳——なにやら大きな杖を持っている様子から魔法使いのように見えなくもないが、しかし、いかんせん格好が派手すぎる。


 ふと、大きく胸元のあいたところに自然と視線が吸い込まれていたのに気付き、隆也は顔を熱くして目をそらした。


「ああ、すまない。名を名乗るが先だったな。タカヤ——我が弟子よ」


「え? あの……今、僕のこと」


 隆也は魔法使いの女が言ったことを訊き返した。


 社長であるルドラの話が出ていたから、おそらくこの人は彼から何らかの話をもらって隆也に会いに来たらしい。それはわかる。ただ、


「あなたの弟子、って……そのどういう」


「言葉の通りだよ。タカヤ、お前は今日から私の弟子として、私の屋敷で働いてもらうことになる。私はルドラみたいに甘くはないから覚悟しておくように。私の名はエヴァーだ、よろしくな」


 差し出された手を隆也はまじまじと見つめる。


 今日から、本来ならメイリールたちに同行して仕事をするはずだと隆也は思っていた。


 仕事を経て、すこしずつゆっくり自分の才能を伸ばしていくと。


 しかし、どうやらギルドとしては、隆也の素質を鍛えるのに違う方針を立てているらしく、ルドラをいろいろと問い詰めなければならない案件のようだ。

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