第22話 女大賢者 2
隆也のことを『自分の弟子』だと言い張る魔法使いのエヴァーが襲来してから、さらに数分後。
「おう、タカヤ、おはようさん。昨日はかなり飲んでたみたいだが、二日酔いとかは……ん?」
副社長のフェイリアとともに出社してきたルドラは、隆也の傍にいる知己の顔を見、眉間に皺を寄せた。
社長に助けと説明を求める視線を飛ばす隆也の様子に、なにやら色々察したようである。
「あの、賢者様……どうして、今ここに?」
「何って、昨日の約束通り、私の弟子を引き取りに来ただけだが?」
やはり、昨日、ルドラが外出をしていたのはエヴァーと会うためだったらしい。
賢者様、というぐらいだから、魔法使いとしてかなり偉い人物なのだろう。ルドラの対応も、大事なお客さんに対するときのそれだ。
「いや、確かにその話はさせていただきましたが、それは、タカヤがウチの仕事に慣れてきた後の話であって——」
「その話は聞いたぞ、確かにな。だが、このコが私の弟子となる運命はすでに確定しているのだから、別にそのタイミングが今でも問題なかろう」
「はぷっ——?」
言って、エヴァーが隆也の所有権を主張するようにして、自身の胸に抱き寄せた。顔全体をやわらかな感触が覆い尽くして若干息苦しい。
「あの、エヴァーさん、離して……」
「そんなこと言って、本当はうれしいくせに。ほら、その証拠に——」
「ひゃ……!」
「ここのほうは、朝っぱらだというのに、元気いっぱいのようだぞ?」
エヴァーの手が、隆也の服の中に不意に滑り込んでくる。絹を思わせるなめらかな肌触りに、隆也は思わず情けない声を漏らしてしまった。
なぜ触るのか、そして、なぜ下腹部ばかり責めるのか。痴女か。
こんなところをもしメイリールに見られでもしたら——反射的にそう思った隆也だったが、
「タカヤ、おっは~。いやいや、昨日はちかっぱ楽しかったね。またなんかあったらあげんふうに皆と楽しく……て、アンタ朝からなんばしよっとねー!??」
どうやら時すでに遅し、のようである。
「まったく、朝からピーピーとうるさいぞ、このじゃじゃ馬め。お前は近所迷惑という言葉を知らんのか?」
「それはアンタがタカヤに朝っぱらからイヤらしかことばやりようけんやろう?! ってか、アンタ誰ね??」
メイリールが知らないとなると、エヴァーは頻繁にギルドに顔を出しているわけではないらしい。
「……どうも、エヴァー先輩。相変わらずですね」
「そっちこそな、フェイリア。お前も相変わらずのチビッ子でなによりだ」
「チビは余計です」
どうやらフェイリアのほうはエヴァーとは知り合いのようである。まあ、彼女は実年齢で二百歳を超えているらしいから、ある程度人脈が広いのは驚かない。
ただ、そのフェイリアをして、エヴァーは、彼女にとっての『先輩』らしいというところが引っかかる。
先輩、と呼ぶぐらいだから、そうなるとエヴァーはフェイリアよりも年上ということになる。フェイリアはエルフなので、外見と年齢が比例していないのはわかるが、彼女はどう見ても人間である。
隆也は、もう一度しっかりとエヴァーを見た。やはり、どこからどう見ても二十代前半にしか見えないほどに綺麗な姿と体をしている。
ますますもって謎の女性だ。
「タカヤとメイリールは、この人に会うのは始めてだったな? では、紹介しよう。この方の名前はエヴァー。私の古くからの友人で、世界でも数人しかいないレベルⅨ《ナイン》、マスタークラスの魔法を使役する『賢者』の称号をもつ一人だ」
「賢者……」
スキルのことについてはまだ覚えたての知識しか知りえない隆也だったが、話を聞くだけで、わりとありえない力の持ち主であることがわかる。
そんな、世界に数人しか存在しない魔法を操る女賢者の弟子に、隆也はすでになっているらしかった。
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