第11話 港都ベイロード
「ほえ~! 風貌から只者じゃなかとは思っとったけど、やっぱりタカヤは凄い子やったっちゃね~」
ロアーから先程の話を聞いたメイリールは、嬉しそうに隆也の頭を『えらいえらい』と撫でてきた。あきらかに子供扱いされているが、彼女にそうやって褒められるのは悪い気がしない。
あちらの世界で隆也は一人っ子だったので、この世界でできた年上のお姉さんのような存在は、むしろ好ましい。
「え、と……そんなにすごい、のかな。俺には、よくわからないんだけど」
「いや、実際すげえよ。魔石ってのは、魔獣の心臓にある血液の結晶体で、魔法の杖やら魔法薬やらの材料に使われるレア素材だ。それを取り出すには最低でもレベルⅢ以上の解体スキルがいるんだよ」
「レベル……ということは、その数字が高ければ高いほど、そういうレアな素材を切り分けることができるってことですか?」
「簡単に言えば、な。俺も詳しくは知らねえが、レベルの数字が上がるほどレア素材を見つける可能性が高まったり、食用として捌くことすら難しい魔獣も解体できるようになるらしい。ドラゴンとか」
「ドラゴン……龍の肉を食べるんですか?」
「別にドラゴンだけに限らねえよ。大抵の魔獣の肉には、食べたヤツの潜在能力を向上させる作用ってのがあるんだ。そうやって、俺達冒険者は少しずつ成長して、そして強くなっていくんだよ」
その話が本当であるならば、明人たち元クラスメイト達が次々に能力に目覚めていったのも納得できる。最初は小さな魔獣の肉から食べていき、少しずつ強くなって魔法なり剣術なりのスキルに目覚めっていった、というわけだ。
そして、おそらくは隆也も。
彼の場合は戦闘ではなく、加工屋としての技術や能力の習得に、成長ベクトルが大きく向いていただけの話だ。
「タカヤ、お前、この後どこか行くあてはあるのか?」
ロアーの言葉に、タカヤは首を横に振った。
これまでは『元の世界に帰る』という目的をもって行動していたが、クラスから追い出された今、その思いは完全になくなりつつある。
というか、もう心底どうでもいい。
今はともかく、この世界をどのようにして生き抜くかという、ただ一点だけだった。
「ふむ……それじゃあ――」
「ねえタカヤ、あてがないとやったらウチのパーティにかたらん? 今はちょうどロアーが解体屋の役割をやりよっちゃけど、どうにもポンコツっちゃん。やけん、タカヤやったら、私は大歓迎!」
「おい」
どうやらロアーが言う前に、メイリールが彼の言葉を代弁してしまったらしい。それも、一言多い形で。
「あ、それ俺も賛成。魔石の採取が出来るほどのスキルだったら、少なくともレベルⅢ、もしくはそれ以上あるわけだろ? 解体屋としてはレベルⅠのポンコツ弓師よりも、よっぽど力になるだろうしな」
「……おい」
仲間内の冗談も多分に含まれているだろうが、ロアー、ひどい言われようである。多分、誰もやりたがらなかったから、リーダーである彼がやっているだけだろうにポンコツ呼ばわり。
隆也はそんな彼に親近感を抱かざるを得なかった。心中、お察しします、と。
「それで、どうだ? 一人で色々やるよりも、誰かいたほうがいいだろうと思うが」
「え、と……」
本来なら二つ返事でOKな申し出である。隆也としても、この三人のことは大変好ましく思っているし、おそらく、これから起こりうる衣食住の問題などもクリアなるだろう。しかし、
「すいません、あの、ちょっとだけ……考えさせえてください」
隆也の首がすぐに縦に振られることはなかった。
「ええっ、なんで? どうして? 私らと一緒におるとが実はイヤと?」
そんなことは絶対にない。ちょっと変な言葉遣いだがメイリールは美人で優しいし、ダイクは気のいい兄貴分で、ロアーはロアーである。
以前のパーティと較べれば雲泥の差だろう。
だが、だからこそ、簡単にこの申し出を受けるわけにはいかなかった。
「その……俺、このパーティのお荷物だけには絶対になりたくないんです。前のやつらとは違って、皆さん、こんな俺に優しくしてくれて……だから、ちゃんと皆さんに貢献できるんだって、納得した上で、改めて誘いを受けたいんです」
どんな些細なことでも、誠実に対応をする——それこそ、名上隆也の本来の人間性だったのである。
「……お前の気持ちはわかった。まあ、目的地まではまだまだ時間はあるんだ。ゆっくり考えてくれればいいさ」
「そうやね、タカヤにとっても私たちにとっても、大事なことやしね」
「ひとまずは
かくして、四人の乗る馬車は、冒険者たちの拠点である海岸都市『ベイロード』へと向かっていくのだった。
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