第10話 都へ


 メイリール、ダイク、ロアーの冒険者三人組にお供することとなった隆也は、昨日去ったはずの街『アーリア』(という名前だと、メイリールから聞いた)に、舞い戻ってきた。


 三人が冒険の拠点している都は、ここから定期便の出ている馬車に乗って三日ほどの距離にあるらしい。ちなみに、明人やその他大勢の元クラスメイト達が目指している方向とはまったくの逆である。


「ねえタカヤ、どうしたと? さっきからずっと俯いて……まだ気分悪か?」


「いや、そんなことは、ないん、ですけど……」


 四人が定期便を待っているところは、アーリアの街の中でも比較的賑わっている場所である。屋台や商店、それに小さいながらも武器防具なども扱っている店もあり、時間帯によっては多くの人で通りを訪れる。


 そんな中を隆也は、三人の影に隠れて挙動不審気味にキョロキョロと辺りを見回しているのだった。


 理由は、そう、昨日の夕方の売春宿におけるやり取りである。


 隆也は、またあの女性達に会わないかどうかが心配だったのだ。


「どうしたよ、そんな路地裏ばっかり見……ああ」


 と、ここで隆也の謎の行動の意図に気付いたダイクが、メイリールが気付かないようそっと耳打ちをしてきた。


「ここら辺の店でになんのはやめとけ。共通語が放せねえから微妙なオーダーも伝えられないし、店内の衛生も悪いからな」


「それだとまるで自分は体験したみたいな口ぶりですけど」


「当たり前だろ。この手の店ってのは世界各国にあるんだぜ? 冒険者たるもの、常にを目指すのは当然のことだ。ちなみに、ここらの店員たちは、カラダだけはものすげえエロくて……」


 てっぺんとは一体の何のことを指しているのか、と、タカヤがわざとすっとぼけていると、ちょうどいいタイミングで乗り場へと馬車が到着した。


 これ以上話していると、メイリールの軽蔑の視線がマッハでやばいことになる。


「乗車は四人、ベイロードまでだ。運賃は……」


「あ、ロアーさん、ちょっと待ってください」


 ロアーが御者に料金を支払うべく財布をごそごそとしているところに、隆也は慌てて割って入る。


 今回の旅において、隆也は三人のお客様的な扱いだが、さすがになんでもかんでも任せるのはおかしい。まだ未換金の魔石なども含めて旅の資金は随分残っているし、ここぐらいは出させてもらおうと考えた。


「そこまで気を遣わなくていいぞ。馬車っつても乗合だから運賃がそんなにかかるわけでもねえし、なにより後で雇用主に請求すればいいだけの話だ」


「え、でもやっぱり、悪いというか」


 払う、払わないのちょっとした押し問答をしていると、ふと、隆也のもっている硬貨袋から、ころん、と一個の魔石が転がり落ちる。


 獲物から採取した中でも一番透き通ったものが赤い光を放つと、ロアーの視線が、その一点に釘付けになった。


「おいタカヤ——これって……」


「あ、はい。少し前に捌いた魔獣の心臓から取り出した魔石なんですけど……これなら馬車代だしても十分なお釣りが——」


「タカヤッ!!」


 と、ここで急に血相を変えたロアーが隆也の肩を掴んだ。


 興奮しているのか、隆也が思わず呻いてしまうほどに、握っている手の力が強い。


「! っと、すまない。ついつい興奮してしまったな」


「いえ……でも、どうしたんですか? 確かにこれは高価なものですけど、そうそう珍しいものじゃ……解体のたびに、結構な頻度で採取出来ましたし」


「結構、な、頻度ぉ……??」


 ロアーの目が驚愕にさらに見開かれる。


 その反応を見る限り、どうやら、普段何気なく採取していたはずの魔石これと、そして、それを当然のように採取していた隆也は、現地の彼らにとっては、かなり貴重な存在らしかった。

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