第126話 決定戦開始 1
「……よし、と。これで俺のほうはいいかな。後は、ムムルゥの分……」
一週間後の早朝、隆也は改めて自分の持ち物を確認する。
相棒であるシロガネは腰にきっちりと納め、それから複数のポーチには、自作の回復薬やその回復薬で足りなかった場合の追加の調合素材、その他、仲間の武器の整備のための必要な道具。
皆と冒険をするために、合間を見つけては自作したり、購入したりで、ちょっとずつ揃えていったものだ。
「くか~……タカヤ様、そこ、そこは入れちゃダメなとこッス~……えへへ」
「はふ……ごしゅじんさま、もうおなかいっぱい……」
隆也のベッドの上で、やっぱり欲望丸出しの夢を見ているミケとムムルゥの二人を見る。
前日の夜、隆也は二人と一緒に添い寝する形で眠りについた。元はそれぞれの部屋に居たのだが、緊張でなかなか寝付けなかった隆也に気付いた二人が心配し、そんな形となった。そのおかげで、寝不足にならずに済んだ。
そんなわけで、準備は万端である。
×
今回参加する隆也含めた五人に、社長と副社長、あとはミケを加えた計8人は、会場である『支部』のある四番街へと向かっていた。
四番街は、富裕層が中心に住む場所だけあって、港にほど近い一番~三番街とは違って、日が昇り始めている時間でも比較的静かである。時折、通学中と思しき学生や、仕事に向かう役人らしき人の姿はあるが、本当にそれだけだ。
「えっと……あそこが『支部』、ですかね」
等間隔に植えられた木が潮風に揺らされる通りを歩くと、その先の坂道の頂上に、やたらと大きな建物があった。
四番街には役所や学校など、ベイロードの中でも大きな施設が集まっているが、ここの支部は、それ以上に大きく、おそらく隆也が把握する中でも一番大きな建物になる。
「ああ……ったく、嫌になるぜ。俺達がひいひい言って金稼いでるってのに、あいつらは王都から出る金をピンハネするだけなんだからな、楽な仕事だぜ」
「まあ、そう愚痴るな。今までの鬱憤は、私達が都市代表ギルドになることで晴らしてやろうじゃないか」
「……ねえ、タカヤ様。さっき
ルドラとフェイリアの話の内容について、こっそりと、ムムルゥが隆也へと耳打ちしてくる。
魔界と人間界でも金の流れはそう変わらないだろうが、そういったことはレティにまかせっきりだったはずなので、カネの事情に疎かったとしても仕方がない。魔王代理である光哉も、そんなあくどいことは一切やらないはずだ。
「簡単にいうと、本来相手にあげなきゃいけないお金を、適当な理由をつけて、少ない金額しか渡さないようにすること、だったかな。ヒトの世界だと……結構よくあることだと思う」
「う~ん、私にはよくわかんないっスけど……まあなんというか、さすがヒトっスね。ホント、そういうことだけに知恵が良く回るというか」
耳の痛い言葉である。もちろん、ルドラやフェイリアのような人もいるにはいるが、こういうのは悪いことをする人間のほうが目立つものだ。
支部の建物内に入ると、すでに受付前には、隆也達と同じような格好をした人々が集まっていた。
その数はおよそ数十、おそらく、全てベイロードに居を構える同業者たちだ。
「――港一番街、十二番地の七通り、『シーラット』だ」
「かしこまりました。では、メンバー表をこちらへ」
試験は、メンバー表に記載した五人一組で行われる。何かあった時に備えて交代要員が二人まで認められているが、社長と副社長は参加不可のため、ここは五人で踏ん張るしかない。
そこは、支援役である隆也の腕の見せ所である。
「――あ、シーラットの皆さま、ちょっとお待ちください」
と、受付を終えて、七人が控室に行こうとしたところで、窓口係より呼び止められる。注意事項については確認したし、提出書類にも不備はなかったはずだが。
「まだ何か?」
「はい、今から皆様の持ち物を、一旦すべて預からせていただきます」
「はぁっ……!?」
思わぬ言葉に、呼び止められた社長が眉根を寄せる。
「そんなこと、要項には書いてなかったはずだが……もしや、装備品やその他の回復薬も全て、ではあるまいな?」
「いえ、全てです。決定戦が終わるまでの間は、こちらのクロークで保管させていただきます。念のため、参加されない方の分も」
そうなると、隆也が早朝からせっせと準備した努力は水の泡ということになる。
やるからには結果を残したい、ということで、かなり品質のいい回復薬などを調合していたのだが。
「なんそれ……そんなことしたら、私達にどげんして戦えっていうとね?」
「代わりの装備品や回復薬はこちらで支給いたします。なるべく平等な条件で、とのことで『上』からの指示がありまして……ご了承ください」
奥の方で用意されている道具類を見る。ぱっと見は市販品だが、やはり隆也がきっちりとメンテナンスし、そして調合したモノと較べると、品質は数段落ちる。
すべての面において、かなりの戦力ダウンは否めない。
「そんなの認められない、とここで駄々をこねたらどうする? 要項にはそんなこと一つも書いてないんだ。このために、俺達も結構な金をかけた。それが使えない、ということは無駄になったわけだが、その補填はしてくれるのか?」
「そ、その場合は……」
と、受付係の女性が困った顔を浮かべたところで、
「――ハハッ、相変わらずみみっちいヤツだ。なあ、ルドラよ」
そう言って、支部の所属であることを示す、蛇を形どった金の徽章を胸に着けた白服の男が、奥の執務室より姿を現したのだった。
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