第125話 都市代表ギルド


 冒険者ギルドは、その国、その地域、その都市ごとに、確認できるだけでも大小合わせて数百以上の同業者が存在している。


 どんな依頼を受け持つかは各ギルドの方針に委ねられる。大きな魔獣の討伐だったり、貴重な鉱物、素材の採取、要人の護衛、賞金首狩りなどなど。


 ここに、犯罪行為などを中心にした仕事を受け持つ闇ギルドなども加わり、全て合わせると千は越えてくるらしい。


 ベイロードにも、もちろん、シーラット以外に冒険者ギルドはいくつか存在している。シーラットは規模で言えば小さく、仕事も、人数の関係で、あまり規模の大きい仕事は受けられない。そのため、小さな仕事を数多くこなすことで利益を確保している。


「――と、まあ、世俗に疎いタカヤ君もいるので、再び説明屋として駆り出された私レクチャー係のミッタさんですが、ここまではオッケ?」


「はい。すいません色々と迷惑をかけて……」


「いいってことよ。私もなんだかんだ、人に何か教えるのって、向いてるみたいだし。ここ退職して教師でも目指そうかしら……って、冗談ですよ副社長。冗談ですからそんな凄い目で睨まないでくださいってマジで」


 長い犬耳をだらりと垂らして引きつった笑いを浮かべたミッタは、引き続いて社員全員が揃う社長室で、次の『都市代表ギルド』について、続けた。


「え~、おほん。それじゃあ、気を取り直して。ねえタカヤ、ウチがどんなふうに仕事を取ってきてるかっていうのは、大体わかってるよね?」


「はい。えっと、街の人達から直接仕事の依頼が来るのもそうですけど、大半はベイロードのギルド全部を一応管轄してる『中央』から、回されてくるのがほとんどですよね?」


「そうだよ。普段窓口にいる私だけど、本来の仕事は、実はそっちの事務処理が主だったりするし」


 窓口でも広く仕事を受け付けている『海のネズミ』ではあるが、主な収入源は、ギルド全体を管理する組織より定期的に支払われる補助金が主だ。


 管理するのは、この世界で一番大きな国だという王都に、最も規模の大きい『アルタ・マスターズ』という冒険者ギルド。


 そこが、ベイロードのような各地方都市に支部を作って、その支部から、各ギルドに、ギルドの規模や依頼の貢献度によって、適性な活動のために必要な補助金を支給している。


 一番上に『王都』があって、その下に『支部』、そして、そのさらに下にシーラットのような各ギルドがある——という下請け孫請けの構図だ。


「んで、ここからが今回の話の本題。この『支部』って、実は定期的に入れ替えのための試験を行ってるんだよね。試験で、今の支部よりいい成績を納めれば、私達のようなちっちゃいギルドでも『支部』、つまりは都市代表ギルドになれるっていうね」


 アルタ・マスターズの組織の一員でもないのに『支部』になれる制度を作ったのには、もちろん訳があるのだが、この辺はまた後の話ということで省略となった。


「――試験は、俺や副社長といった代表者を除いた五人で行われる。それまで冒険者仕事のできる社員は三人だけだったが、タカヤと、それからムムルゥが加わったことでギリギリ参加資格を満たした。受かるかどうかはわからんが、やってみる価値はある」


 メイリール、ダイク、ロアーの三人だけならともかく、今は、魔界での経験で成長著しい隆也に、そしてなんといっても元魅魔煌将のムムルゥがいる。


「社長、あの、一つ聞いてもいいですか?」


「ん? どうしたタカヤ。もしかして、試験受けたくないとかか?」


 ルドラの言葉に隆也は首を振った。隆也の素質を見込んで、わざわざ借金をしてまで工房を作ってくれた社長や副社長には大きな恩がある。なので、それが方針であれば喜んで従う。


「その……社長は、このギルドを大きくしたいんですか? 大きくして、もっと、それこそ際限なく儲けたい、というか」


「いや、それはない。俺にも叶えたい夢というか、目標の一つぐらいはあるが、それはそこそこ金があればいいしな。でも、今は社員と自分を食わせるのに精いっぱいだからな。借入れ金もたんまりと残っているし。なあ、フェイリアちゃん?」


「皆がいるのに『ちゃん』づけはやめろ……恥ずかしいから」


 それを聞いて隆也は少しだけほっとした気分になる。彼にとって、カネ儲けはそれほど重要ではない。ただ、今のような生活が続けられれば満足なのだ。でも、もうちょっとだけお金があれば、さらに嬉しくはあるけれど。


 こうして、隆也は、参加者の欄に自らの名前を、他の四人とともにしっかりと書き入れた。


 隆也にとって、メイリール達『最初の三人』と行う、初めての『冒険者』としての仕事。


 試験は、七日後に行われる。

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