第280話 素材発掘へ
新しい相棒の設計、そのヒントを得てから二週間ほど経った日のこと。
「……とりあえず、こんなもんかな」
光哉の善意で魔界庫にあった武器の設計図をいくつか借り、それを参考にしつつなので、実際に想定通りの性能を発揮してくれるかは試作してからだ。
ひとまず工房にある材料では成功している。さて、完成品ではどうなるか。
「ご主人さま、お客さんだよ」
「うん」
ミケに呼ばれて、一階へと行くと、久しぶりの顔がそこにはあった。
「よう、お前が俺の依頼主様かい? 俺のラルフ、この度はわざわざ名指しでご指名いただきどうもありがとう」
「知ってるよ」
「へへ、久しぶりだなあ!」
隆也を訪ねてきたのは、先月の一件以来、一度も顔を合わせていなかったラルフ。
「あれ、なんか顔に傷増えてない?」
「ああ、これか? ちょっと前まで『境界』に言ってたからな。攻撃を避け損ねて、額をばっくりとな。俺、石頭だから身体強化で多少は防ぎきれると思ったんだけどさあ。もうちょっと脳みそまでいかれるとこだった。ガハハッ!」
「笑い事じゃないでしょそれは……まあ、ラルフらしいけど」
額に真一文字はいった傷跡をなぞりながら、ラルフは豪快に笑ってみせる。
こういう人間だからこそ、きっと冒険者というか、開拓者に向いているのだろうと思う。隆也には到底真似できることではない。
「ところで、どうしたんだよ? ロッタのやつから久しぶりに連絡が来てなんだと思ったら、『タカヤが君に依頼をしたいんだそうだよ』って」
そう、隆也が二週間待っていたのは、設計図の完成を先にしていたわけではなく、ラルフの予定が空くのを待っていたのだ。一応、正式な依頼なので、仲介をしたリゼロッタにはきちんと報酬を支払っている。
ちなみに、依頼料の支払いで、それまで隆也がこつこつと貯金していた金額の約四分の三が飛んだ。これでもリゼロッタによれば『超・お友達価格』というのだから恐ろしい。王都に登録している冒険者のなかではラルフが最高ランクなのだ。
今後の仕事には必要なことだし、また頑張って働いて貯めなければならない。
「で、どんな内容は? 初めてのお客さんってことで、出来る範囲でなら汚れ仕事だって引き受けてやるぜ。ムカつく奴でもいたか?」
「そんな物騒なことしないよ。……ラルフには護衛と、それから手伝いをお願いしたいんだ」
「いいぜ。でも、それならお前の周りにいる犬っころとか、森の賢者がいれば足りるんじゃねえの?」
「護衛だけならね。でも、今回は『探索』と『発掘』の手伝いをしてもらいたいからね。それは現役でやってるラルフじゃないとダメかなって」
もちろん、ミケやエヴァーもそれなりに忙しいというのもあるが。ミケはシーラットでの仕事の他、定期的に賢者の森に行っては父のレオニスとともに森の魔獣たちの縄張りの管理をしているし、エヴァーも破壊された賢者の館の修理中だ。
これは春川と末次、二人がそこを拠点にするので、そのための処置だ。最近は頑張っているらしく、エヴァーのいる日中はずっと捜索活動を続けているらしい。
「ふうん。で、どんな素材が希望で? 俺を雇うぐらいなんだ。それなりのモンだろ。ミスリル? オリハルコン? それともダークマター?」
「ええっと……アンブレイカブル、なんだけど」
「……ああ、なるほどな。そりゃ俺だ」
納得したように、ラルフが頷いた。
二代目を作ろうと思っていた時点で、決めていたことだった。
性能もそうだが、次は丈夫なものを作ろうと。つまり、二代目を隆也にとっての最後の相棒とするために。
別名は『不壊石』とでもしておこう。どんな物理的衝撃をも跳ね返し、また、魔法に対しても絶対的な防御性能を持つ。耐久度だけなら先程ラルフが上げたどんな素材をも凌ぐ、隆也が知る限りでは最高の性能をもつ魔法鉱石の一つだ。
発掘できる場所は知っているので、その点はそこまで問題ない。
問題なのは、不壊石が丈夫すぎて、採掘することがほぼ不可能である、という点。もちろん、加工も難しすぎて、武具の素材としては圧倒的に向いてない。
しかし、だからこそやりがいもある。
「次の戦いが、魔獣じゃなく物言わぬ石になるとはねえ。ったく、相変わらずタカヤは楽しませてくれるぜ」
「よろしく、ラルフ。期待してるよ」
そう言って、暫定的にコンビを組むことになった二人はかたく手を握り合った。
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