第104話 レベル上げ 2


 ようやく出来上がった魔槍を、一切の躊躇なくもう一度溶かし始めた隆也の行動に、彼以外の四人が一瞬、呆気にとられた。


「「どうして……?」」


 そんな言葉が、レミとヤミの二人から上がった。


 当然である。全員で協力して鍛え上げた槍は、設計メモ通り、寸分違わず同じものが出来たはずである。


 性能はともかく、あれは魔槍だった。


 アザーシャの付きのメイド達は、そう確信していた。


 しかし、隆也はその出来栄えを見ることすら、性能を試すことすらせずに捨てた。なので、彼女達が真っ先に疑問を投げかけても不思議ではない。


「あ、すいません。びっくりさせてしまいましたね。これを最初に打ったのは、あくまで確認したかっただけです」


「確認」


「……つまり、設計図通りにやれば魔槍が出来上がるか、ということですか?」


「ええ。それもありますが、俺がアザーシャ様と約束したのは、あくまで『トライオブダルクを超える魔槍』つくりあげること。同じものじゃダメです。もちろん、トライオブダルクをベースにさらに改良を加えるつもりですが」


 同じものでは、仮にそれで戦いに挑んだとしても、ライゴウの持つ魔剣デイルブリンガーとは互角にしかならない。それでは意味がないのだ。


 と、言う趣旨のことを、隆也はもっともらしい理由つけて二人に伝えた。


「……そういうことだったのですか。せっかくタカヤ様との初めての共同作業で作り上げた絆の結晶だというのに、いきなり炉に放り込むのですから、びっくりしてしまいましたよ」


「そういうことは先に言え、馬鹿者」


 レティとフェイリアがほっと息をつき、そんなことを口にした。白々しく。


 ギルド内でもっとも聡い二人であろう、レティとフェイリアの二人は、気づいていた。

 

 あれは、、と。


 見た目は凄く魔槍っぽくできていたが、中身は違う。


 その理由は至極簡単である。魔槍を打つために必要な鍛冶レベルはおおよそⅦ。


 だが、隆也の現在のスキルレベルはⅥだ。そんな彼がどんなに逆立ちしたところで、魔槍は創れない。この世界は、そういうところで融通がきかない。


 では、隆也がなぜ出来上がりもしない魔槍をうつことを選んだか。


(……経験値稼ぎですね、タカヤ様)


 いつものように過剰なスキンシップをとってくるレティが、こっそりと隆也にそう耳打ちした。


 トライオブダルク以上の性能となると、少なくともレベルⅧ相当の鍛冶レベルが必要である。そして、実は、隆也の頭の中では、レベルギャップを埋めるためのアイデアは浮かんでいる。


 しかし、そのためにはレベルⅦには最低でも到達しておく必要がある。


 鍛冶レベルを上げるための方法は、とにかく経験を積むしかない。


 アカネとの協力の末に相棒のシロガネをうった時でさえ、何度も失敗作を積みあげた上でのことである。魔槍も同じだ。


「……副社長、今から指定する素材を、メリーにお願いして取ってきてください。今、メモを渡しますから」


「副社長の私を使い走りにするとは、お前、いい度胸を……」


 と、フェイリアが、生意気にも自身を小間使いにしようとする部下に拳骨を食らわそうとしたところで、手が止まる。


「と、言いたいところだが。わかったよ、言う通りにしよう。鍛冶に関して言えば、素質がない私の出る幕は、ほぼないからな」


 隆也が紙切れに記したメモをみたフェイリアは、小さく溜息をつくと、そのまま踵を返して、メリーのもとへ向かっていく。


(……タカヤ様、メモには何と?)


 レティがすぐさま訊いてくるが、隆也は、それには何も答えず目配せだけすると、そのまま、炉の中のトライオブダルクが再び溶けていくのを、じっと見つめていた。

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