第103話 レベル上げ 1


 ひとまずの目標を達成した隆也は、レティとフェイリアを伴って、すぐさま瓦礫の下にある魔界庫へと舞い戻った。


 ドラゴンゾンビもおそらくこのままやれば倒してしまうことも出来ただろうが、そこまでやる必要はない。レミとヤミはまだ戦っているが、ほどほどに相手をして追い払い次第、戻ってきてくれるだろう。


「うっ、いつつ……!!」


「タカヤ様、少ししみますがほんの少しだけ我慢を」


 フェイリアに治癒魔法をかけてもらったものの、やはり、回収の際に負った火傷の症状は重く、依然、じくじくと痛む。レティに薬を塗ってもらい、両手を包帯でぐるぐる巻きにしてもらったが、あくまで応急処置だ。きちんとした治療は、ギルドに帰ってからになる。


「タカヤ、少し休むか? その状態で鎚を振るうのは難しそうだが……」


「いえ、やります。どのみち、俺がやらなきゃ魔槍はできませんから」


 方法がわかっても、素質持ちが槌を振るって鍛えなければ、きちんとしたものにはならない。


 魔界庫から借り受けた魔武具を鍛えるための鎚を、隆也はぐっと握りしめた。


「ぐっ、重い……」


 魔鎚レイドバルク、という名前らしい。形はスレッジハンマーに近く、こちらもダークマターが主な素材として使われている。


 そして、尋常でなく重い。


 転移時点ではひ弱だった隆也も、異世界での生活を通して少しずつ逞しくなっていた自負はあったが、それでも両手でようやくわずかに持ち上がる程度だ。


 こんな状態で、果たしてきちんとダークマターを鍛えることができるかどうか——。


「私もお手伝いします。どのみち、鍛える時も高温にさらされるわけですから、補助は必要ですし」


 と、いうところで、隆也の手に、レティの手が重ねられる。やはり隆也同様、火傷の痕が痛々しく残る状態だが、彼とともに柄を握る力は強い。


 さらに、その上からフェイリアの手も添えられた。


「私も手伝おう。私とレティも二人で持ち上げ、振り下ろすから、お前は微調整を頼む」


「わかりました。お願いします」


 三人がかりになるが、これならなんとか操れそうではある。


 その他の手伝いは、申し訳ないが、レミとヤミにも協力してもらうしかない。


 ということで、ここからも全員での作業だ。


 皆で鍛え、そして皆で魔槍を創るのだ。


 

 ×


 

 戦闘から速やかに帰還してきたレミとヤミを加えた五人は、すぐさま作業に取り掛かった。


 ちなみに、彼女達は無傷だった。ちなみに、隆也達が戦域から離脱した後、なぜかドラゴンゾンビはあっさりと逃げてしまったらしい。あれだけ派手に暴れたのだから、もっと抵抗してもとは思ったが、さすがに分が悪いと思ったのだろうか。


 とはいえ、ひとまずは作業である。


 炉は、以前、姉弟子であるアカネとともに『シロガネ』を鍛えた際のものと同じものを作った。


 燃料は、メリーの権限で自由に扱っていいという、魔界庫にある端材ゴミをいくつか。というのも、今回採取した種火は、燃え移ったものもを全てブレスと同様の超高温の炎としてしまう性質を持っているので、燃やすものさえあれば、それで事足りる。


 そうして、思惑通り、ブレスの超高温によって熱されたトライオブダルクは、黒い瘴気を周囲に発散させつつも、鍛えられる状態にまで変化してくれた。天空石を元に作った接着剤は、その役割を全うし、綺麗さっぱりと蒸発して消え去った。


「……それじゃあ、いきます」


 隆也の言葉を合図に、三人で持ち上げた鎚が、ゆっくりと振り下ろされる。力はそれほど入れずとも、魔鎚レイドバルクの自重のみで十分だった。


 いち、に、さん、し——一定のリズムを全員で刻んで、魔槍だったものを、いったん潰していく。潰してのばし、それを折りたたんで、ふたたび潰してのばす。そうして鍛える。その繰り返し。


 鍛え終われば、後は設計図通りの形にしていく。トライオブダルクには、使用者の闇の魔力を増幅させるために槍全体に魔術文字が施されている。ここは闇魔法を普段より操るレティ、レミ、ヤミの三人の指示に合わせて文字を削り出す。


 こちらの作業も、魔剣クラスの短剣を使っている。主の命令とはいえ、快く貸してくれる管理人メリーには、感謝してもしきれない。


 亡霊であるメリーですら顔をしかめるほどの、高温での作業。


 当然、隆也の全身からは汗が勢いよく吹き出している。水分が足りず、頭はふらふらの状態だ。


「タカヤ様、お水……いや、休憩を」


「いらない。今は、こっちの完成が先だ」


「……かしこまりました」


 レティが身を案じるほどの苛酷な環境だが、隆也はこれ以上ないくらい集中していた。それこそ、時間がどれくらい経ったのかさえ忘れてしまうほどに。


「……できた、のか?」


「はい。とりあえずは」


 そうして、トライオブダルクは完成した。


 見た目は完璧だった。三つ又の形、文字の配置、大きさ。全て寸分違わない。


 これでひとまずは魔剣と互角の戦いができる——と、隆也以外の四人がひとまず胸を撫でおろそうとした瞬間、


「――よし、じゃあ、もう一回溶かしましょうか」


「「「「……!?」」」」


 出来たばかりの魔槍を、隆也は、まるで失敗作だと言わんばかりに、削り出したダークマターの端材も含めて、全て、再び炉の中に放りこんでしまったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る