第139話 結果発表


 予定より早い時間に支部についた隆也達六人は、待ち受けていたルドラ、フェイリア、ミケ、そして新たに加わっていたエヴァーに迎えられた。


「ごしゅじんさま、おかえりなさい」


「ただいま、ミケ。いい子にしてて偉かったぞ」


 離れていたのはたった一日だが、それでも寂しかったのか、すぐさま主人に抱き着いてきたミケの頭をやさしく撫でてやる。心を開いている隆也やメイリールがいない中でも、大人しく待っていられたのは、彼女も少しずつ成長している証だ。


「アカネ、結果は?」


「完全なる『クロ』でした。依頼書と、それから参加者の人相書きもご丁寧にありましたよ。処分される前で本当によかった」


 言って、アカネはエヴァーにとある資料を手渡した。これが彼女の言う別の用事だったらしいが、いったい何が記されているのだろう。


「でかした。それじゃあ私はこれから『アイツ』のところに行ってくる。タカヤ、お前のほうはあとでたっぷり時間をとって労ってやるから、ちょっとの間だけ我慢していろ」


 すれ違いざま隆也の頭をひと撫でしてから、エヴァーは支部の階段を上がっていく。あそこは関係者以外立ち入り禁止のはずだが、知り合いがいるらしいので、問題ないのだろう。


「タカヤ、災難だったな。ミゾットの奴に目をつけられたばっかりにこんなことになって……ほら、社長、皆に何か言うことがあるんじゃないか?」


「皆、すまなかった。俺があのクソ野郎に喧嘩を売ったせいで、余計な被害を負わせちまった。今後は気をつけるから、許してくれ」


「? あの、ちょっと待ってもらってもいいですか?」


 フェイリアに肘で突っつかれたルドラが、申し訳なさそうに俯き皆へと謝罪するが、いまいち話が見えない。隆也が野盗たちに襲われて、奪われたものを取り返しにいったのは余計なことだったかもしれないが、それがどうして社長の非になるのかわからない。なぜ、そこにミゾットが関わっていたのかも。


「どした? 罰として『パンツ一丁逆立ちペイロード一周』をしたほうがよかったか?」


「それはマジで絶対にやらないでください……俺達が言いたいのは、そういうんじゃなくて……」


「ん? なんだお前ら……アカネ君から聞いてなかったのか?」


 フェイリアがアカネの方を見ると、彼女は体をぎくりと震わせた。


「……あの、その、皆さんにはひとまず余計なことを考えさせずに暴れまわってもらおうと思いまして……」


「つまり、まだ言ってないんだな」


「そ、そんな感じでござざっす……」


 噛み噛みのアカネのことはひとまず置いておくとして、これまでの話を総合すると、どうやら隆也達を野盗に襲わせた黒幕がいたようだ。


 そして、どうやらその黒幕は、たった今、青い顔で皆の前に姿を晒している人物、ということで間違いないのだろう。


「……ま、まずは結果発表、というところだが、その前に、我々……というより『本部』より話があるので、そちらを聞いていただけたらと思……います。リゼロッタ様、お願い……いたします」


「うむ。ミゾット君、ご苦労。キミもお疲れだろうから、我々の管轄である『南国の島』で、ゆっくり心と体を休ませるといい」


「…………はい」


 今にも卒倒しそうなほどの顔色で、ミゾットがふらふらと足取りで、奥の執務室へと引っ込んでいった。上司と思しき少女から左遷かクビかを言い渡されたようだが、当然、同情の余地はない。


「――シーラットの冒険者ギルドの諸君、初めまして。私は王都冒険者ギルド『アルタマスターズ』、いわゆる『本部』に所属する者で、名をリゼロッタという。今後、諸君らと顔を合わせることもあるだろう。その時はよろしく頼む」


 妙に大人びた口調だが、外套の裾が地面に垂れてしまっているほどに、その背丈は小さい。背格好でいうと、ミケぐらいのもので、少女というよりは幼女にも近い。


 ただ、その立ち振る舞いは堂々としており、少女らしい薄い胸の中心に、小さな金色の太陽が光り輝いていた。


「まず、なぜ本部の私がわざわざここに出向いているかの話をさせてもらおう。前回以前、そして今回の決定戦でも、我々……といって差し支えないだろう、不正を働いた。だから、初めにその謝罪をさせてほしいと思う。大変、申し訳なかった」


 少女が深々と頭を下げると、他ギルドがざわついた。これまでずっと不正を働いていたことは皆感づいていたが、それをあっさりと、しかも『支部』を管轄する立場にある『本部』が認めたのは初めてのことだったからだ。


「以前よりシーサーペントが不正を働いていたこと、それは、君達からも度々不満があがっていたようだが、どうやら組織ぐるみで隠ぺいをしていたようだ。本部へ話があがらないよう、君達に本来流すべきだった補助金をピンハネし、それを賄賂としたりしてな。その調査の諸々に時間がかかったわけだ」


 そうして、リゼロッタは、一枚の紙を皆の前に掲げる。


「極めつけは、非公式ギルド、所謂闇ギルドに依頼をしたと思しき書面だ。『人相書きにあるギルドを襲撃されたし』――本来皆の模範となるべき『支部』が、率先して反社会組織と繋がるなど、言語道断だ。よって、シーサーペントは本日をもって即刻解散処分とし、今後、活動の全てを禁止とする」


 処分については概ね妥当だと、隆也は思う。むしろ、なぜ今まで時間がかかってしまったのか不思議なぐらいだ。


「ということは、今回の決定戦の成績のトップが、新たに『支部』として任命されるという認識で間違いないか?」


「もちろんだ、元マスターズ社員、今はシーラット代表のルドラ君。シーサーペントの記録を除いた……といっても、どの道不正があっても、今回で入れ替わったのだがな」


 リゼロッタが結果の記載された大きな紙を広げると、


『第一位 シーラット 獲得報酬額 32万6893S』


 と二位以下に大差をつけて、頂点に輝いたのだった。


「おめでとう、シーラットの諸君。私、アルタ・マスターズのリゼロッタが、君達を正式に都市代表ギルドとして任命する」

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