第13話 ギルドマスターのおじさん
「おお、字が……字が読める……!」
ベイロードの街並みを観察しながら冒険者ギルドへと向かう道すがら、隆也はひとり、そんな感動の声を漏らしていた。
アーリアの街では何が何を示しているさっぱりだった看板も、飛び交う言語も、そのすべてを理解することができる。
「そういえば、タカヤはどの国から来んしゃったとね? そげな変な格好ってことは随分遠いところなんかね、とは思っとったけど」
「ああ、いや……島国、ですね。周り全部海に囲まれててて、あんまり他の国とも交流も……最近はあるみたいですけど。ただ、ここから凄く遠いことは確かです」
隆也は、真実半分、嘘半分で多少濁しながら答える。そもそも、バス事故のはずみで異世界に迷い込みました、といっても信じてもらえるはずがない。
ただ、元の世界の言語がこちらの世界では『世界語』とか『共通語』などと呼ばれているため、何かしらの関係はあるのかもしれない。
隆也にはもう、関係のない話だが。
「――着いたぞ。ここが、俺達の
港よりへと続く大通りに面したところに、三人の拠点が居を構えている。
正面玄関の脇に飾られているのは、荒れ狂う波を背景したネズミのような絵の描かれているエンブレム。そして、『依頼はこちらまで!』と矢印とともにでかでかと書かれた看板があった。
「うちのギルドは一見のお客の依頼も広く受け入れている。
ギルドというよりは、なんでも屋という立ち位置で仕事をしているのだろう。
見るからに平和そうなこの街で、それこそ魔獣の討伐やら賞金首捕獲の依頼なんてそうそう来ないだろうから、その他の小さな仕事もやらなければならないのかもしれない。
今はまだ朝の午前中だが、中を見ると、すでに数人のお客さんがおり、なにかしらの依頼のため窓口の人と話し込んでいる。繁盛はしているようだ。
客の出入りする正面玄関ではなく、裏手の従業員専用の通用口から建物内へ。
「おう、ミッタ。ボスはいるか??」
ギルド内に入るなり、ロアーが目の前で大きな書類を運んでいる女性職員に声をかけた。獣人のようで、モフモフとした大きな犬耳をだらりと垂れ下げている。
「お、三バカお帰り。社長? えっと、社長なら朝から出勤してるから、部屋にいると思う。んで、そちらの少年はお客さんか何か?」
「入団希望者ってところだ。社長室だな、サンキュー」
話もそこそこに、ロアーは早々と隆也をつれて二階の階段へ昇っていく。
建物の二階は、隅に事務所の備品やらなにやらが置かれているスペースを除いて、扉は一つだけ。どうやらあそこが三人の雇用主のいる部屋ということらしい。
これから社長と面談を行い、全容のわかっていない『スキル』の話や、隆也自身の潜在能力について調べていくわけだが。
「あの、メイリールさん……俺、いったいこれから何をするんでしょうか。なんか、こういう面接みたいなのって初めてで……」
「ん? ああ、そげん緊張する必要なかよ。おいちゃんは『社長』っていう肩書はついとるけど、いつもは気さくな人やけん。タカヤのことも、ちゃんと受け入れてくれるはずよ」
「そうだぜ、タカヤ。お前の能力をちゃんと見せつけてやれば、師匠だってすぐにお前をうちの社員にしたがるはずだぜ」
ボス、おいちゃん、それに師匠。どうやら三人はそれぞれ『シーラット』の社長のことを慕っているらしい。
それに、面接といっても傍らには三人がついてくれているのだ。隆也の口でうまく説明できなくても、フォローはしてくれるだろう。
「ボス、ただいま戻りました。ボス? いるんでしょう? 入ってもいいですか?」
社長室、と小さな札のかかっているドアをロアーが数回ノックするも、扉の向こう側から返事は戻ってこない。
先程のミッタの話によれば、ずっと部屋にいるとのことだったが。
「……もしかして不在ですかね?」
「いや、鍵は締まってないようだし、それに中から話声もしてるからいるはずだ。ボス、開けますよ。いいですね——」
言って、社長からの返事を待たずにロアーが扉を開ける。
すると、
「ああ~っ! いいっ、いいっ、いいですお嬢様! もっと、もっとこの豚めを罵って、その綺麗なおみ足で、この卑しい私を踏んづけてくださいませぇ~!」
「ええいっ、寄るな近寄るな。このオーク人間! 高貴な森人たるこの妾の体に、そのような汚く膨れ上がった指で触れるでないっ!」
そこにいたのは、顔を上気させ、涎を垂らしながら四つん這いになっている小太りのおじさんと、そして、そのおじさんの頭を足で踏んづけている小さなエルフ耳の女の子だった。
「…………」
「…………」
沈黙がその部屋を支配するなか、隆也を含めた四人の視線と、対面にいる二人の視線が同時かち合う。
「えー……」
顔なじみの三人へそれぞれ視線を向けた後、おじさんの視線が隆也のところで一旦止まる。
「んっ、おほんっ……」
どうやら察しがついたのか、おじさんは、壁にかけてあった服を着直して何事もなかったかのように椅子に座った。
「――私が『シーラット』のギルドマスター、ルドラだ」
「「「知ってるよ!!」」」
三人が同時に
このギルドに入って本当に大丈夫なのだろうか、と。
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