第14話 隆也の才能
「ふうん、この少年がねえ……」
変態ロリコンマゾおじさん(と隆也が勝手に心の中で名付けた)こと、『シーラット』のギルドマスターであるルドラは、ロアーから隆也の評価を聞き、怪訝な顔を浮かべていた。
顎に蓄えた髭を撫でながら、疑うように隆也を観察するその瞳は鋭い。さっきまでエルフ耳の幼女に足蹴にされて興奮していた姿とは大違いだ。
「あ、おいちゃん、タカヤのことば信用しとらんね? タカヤは外見は頼りないかもしれんけど、実は結構すごいっちゃけん。この魔石も、彼が自分で採取したって言いよったし」
メイリールが不機嫌そうな顔でルドラに魔石を手渡した。
タカヤが採取した中では一番綺麗な魔石である。石の中が透き通っていればいるほど純度が高いらしく、貴重なものらしい。
「……どう思う、フェイリア」
「いつも思うが、お主、仕事の時とそうでないときの差が激しすぎじゃろ
……」
完全仕事モードの顔になっているルドラに、傍らのエルフ少女が、大きく溜息をついた。
ちなみに、さきほどロアーから紹介されたが、
しかし、年齢は200歳を超えているらしい。おそるべし異世界。
「レア素材である赤魔石の採取ができるほどのスキル持ちであれば、大抵、何かしら感じるものがあるんじゃが。まあ、『根っこ』系統のスキル持ちは外見だけでは判断はつきにくいから……ひとまずは、診てみるしかないの」
言って、フェイリアは、ルドラの執務机の引き出しから一枚の古びた紙を取り出した。
サイズはA4用紙ほどだろうか。紙の中心に、隆也には到底理解できないであろう文字列が、円を描くようにして刻まれている。
「これはツリーペーパー……各々に眠っている潜在能力の度合を測る紙じゃ。タカヤといったか、これから、お主の中にある『木』を見せてもらう。ここに指を置け」
「えっと、木……?」
ここに来て再び訳のわからない話が隆也の頭の上を飛び交っているが、ひとまずは皆の言う通りにするしかないだろう。
フェイリアに言われるがまま、隆也は円の中心に指を置いた。
瞬間、ちりっ、と指先が熱をもったような感覚に襲われる。
「心配するな。お主の中を流れる生体エネルギーをすこし吸っただけじゃ。それより、見ていろ」
「あ……」
紙に刻まれた文字列が何やらぐにゃぐにゃと不可思議な動きを見せる。
円を中心に、まるでインクが滲むようにして放射状に広がっていったかと思うと、それが、次第に『あるもの』へと描かれていくのがわかった。
「これは……樹木、ですか?」
「左様じゃ。ツリーペーパーは、その者がどんな潜在能力を持っているのかを、樹木の形で教えてくれる代物じゃ。戦闘能力に秀でているのか、魔法に優れているのか……そして、自身がどれほどのレベルにまで到達できるのかを示してくれる」
描かれた樹木の形がどんなものであればいいのかはわからないが、ひとまず綺麗な大木であればいいのだろうというのだけはわかる。
そして、隆也の『木』は決してそうはならないということを。
その証拠に、彼から漏れ出た黒いインクは、指を置いてからしばらく経った今も、一向にきちんとした形に定まらず、用紙の下半分を、ぐねぐねとミミズのように這っているいるだけだった。
「ねえ? ダイク。なんかさ、おかしくなか?」
「ん……そうだな。変だよな、動きが」
と、ここで何かに気付いたメイリールとダイクの二人が声をあげる。
「? どういうことだ二人とも」
「あれ、ロアーはわからんと? 普通、指置いたら結構早く形になってくれん? あんたの能力はこれよ、みたいな感じでスバっと」
「まあ、そうかもな。紙のくせして、結構はっきりと現実を突きつけてくれた気がする……」
しかし、隆也のツリーペーパーは、未だに彼の能力を測りかねている。
それはまるで、この用紙の範囲内では、彼の本当の『木』を形作れないと、不満を漏らすかのごとく。
「あの、フェイリアさん……これ、どうすれば」
「………」
「あの……フェイリア、さん?」
隆也が何度か声をかけるも、当の彼女は、隆也の紙を見たまま目を開いて固まっている。
そしてそれは、社長であるルドラも同様であった。
「――おい、ロアー、ダイク、メイリール……もしかしたら、お前たち、とんでもねえヤツを拾ってきたかもしれねえぞ」
「――ルドラの言う通りだ……一応、念のためにもう少し詳しく調べるが、このタカヤという少年、とんでもない才能の持ち主かもしれんぞ」
「え? え……?」
どうせ何者にもなれない日陰者と思っていた少年の暗い日常。それが、この異世界の街『ベイロード』での出来事をきっかけに、大きく様変わりしようとしていた。
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