第15話 レクチャー
もう少し詳しく隆也の素質を見たい、ということで、そのための道具を自宅へと取りにいったフェイリアを待つ間、隆也は一階にあるギルドの応接スペースに通された。
今、彼の目の前にいるのは、ギルド職員のミッタ。ギルドへ戻ってきた際に、ロアーと話していた大きな犬耳の女性だ。
「えーっと……社長? 何の指示もなく私はここに座らされているわけですが、一体私に何をしろと?」
窓口対応中にいきなりルドラに呼ばれ、目の前の、気弱そうにしか見えない少年の対面に置かれて困惑しているようだ。
「この少年に『スキル』のことを色々教えてやってくれ。初歩的なことならお前でもできるだろ」
「そりゃまあ、そうですけど……社長のがそこらへん精通してるんじゃないんですか? 社長が教えればいいのでは?」
「俺はこれから『ある人』に会う用事で外に出る。社長だからな、忙しいのさ」
「じゃあ、三バカは?」
「あいつらはフェイリアのお供。荷物の運び出しに人手がいるからな」
ということは、一対一である。
「げー……」
ミッタは心底嫌そうな顔をした。彼女にも、まだこなさなければならない仕事が残っている。暇ではないのだ。
なぜ何の手当にもならない仕事をやらきゃならんのだ、と顔に書かれてあった。
「そんな嫌そうな顔すんなよ。上手く行けば、お前の今の安月給、普通ぐらいになるかもしれないぜ?」
「え? それマジっすか!?? 賞与は? 賞与は上がりますか?」
金の話になった途端、ミッタのテンションが俄かに高くなる。
「上がるかもな。寸志だった夏の賞与が、一カ月、いや、二か月分ぐらいになる」
「マジか! ヒャッホウ!!」
人目を気にせず声を張り上げ拳を突き上げたミッタに、その場にいる全員の視線が注がれる。
「あ、いや~、ははははは……」
頬をほんのり赤らめて静かに座ったミッタの様子に、ルドラは小さく『チョロい』と唇を動かした。一連のやりとりを傍から観察していた隆也は、それを見逃さなかった。
社長だけあって、どうやら社員のモチベーションの上げ方は熟知しているようだ。
「おほん……そういうことなら、私もちょっとはやる気を出してあげなくもないですかね?」
そんな風に言いながらも、ミッタはすでに眼鏡をかけて備え付けの白い紙にさらさらと図を書き始めている。すでにやる気のようだ。
その様子を見、再び『チョロい』と口を動かしたルドラは、他の職員たちにも外出する旨を伝えると、通用口からさっさと外出してしまう。
と、いうことで、ようやく本当に隆也のミッタの一対一になった。
「ようし、給料アップ! ってことで、そろそろ始めよか。でもその前にまずは自己紹介」
言って、彼女は、制服の胸辺りにつけている自身の名札を指差した。
「私はミッタ。見ての通り、このギルドの受付嬢だよ。時たま『外』に出たりもするけどね。後は……そう、最近の悩みは、安月給すぎて月に数回は夕飯がその辺に生えた草だけになることかな」
何気に深刻な告白をしてきたミッタだが、やけに明るい口調なので重苦しい雰囲気にはならない。ただ、とりあえずもう少し給料を出してやれよ、とは思う。
「名上隆也です。皆と同じようにタカヤと呼んでくれれば。えっと、後、最近の、な、なや、悩み……悩みは……」
彼女にできるだけ乗っかろうと考えるも、なかなか最適な答えがでてこない。
というか、よくよく考えてみると、悩みが多すぎる。
高校生のくせに未だ身長が中坊だとか、そのくせ座高だけは一丁前に平均位あるとかいった外見のこともそうだし、後は、この異世界に来てからのことも。
そうやって目を泳がせながらしばらくあわあわとやっていると、ぷっ、と対面のミッタが吹き出した。
「ぷふっ、そんなに私の真似っこしなくてもいいのに。もしかして、私に合わせようとしてくれた?」
よしよし、とミッタは隆也の頭を撫でてくる。メイリールにも頻繁にこんなことをやられているが、ちょっと年上の女性をどこからともなく引き寄せる才能でもあるのだろうか。
「んじゃ、自己紹介はこのへんにして、早速始めよっか。初歩の初歩ってところで、本当に最初からいくけど……」
真面目な雰囲気を纏ったミッタが、隆也に、こう訊いてきた。
「ねえ、タカヤ。私達人間って、空を飛べると思う??」
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