第16話 レクチャー 2


「空を飛べると思うかって……そんなの」


 飛べないに決まっている。魔法でも使えば空ぐらいいけそうだが、今は多分、そういう話をしているわけではないだろう。


「だよね。私達人間には、空を飛ぶための翼なんてついてないし。空を飛べるのは、始めから飛ぶための方法を持って生まれたものだけ」


 言って、ミッタは紙に簡単な鳥の絵と人間の絵を描いた。空を飛ぶ鳥と、それを羨ましげに眺める人間。


「ちょっと極端な例になっちゃったけど、結局、ここで私が言いたいのは、どんな生き物も、生まれながらにして出来ることと出来ないことがあるってこと。タカヤも、これぐらいはわかるよね?」


「それは、まあ」


 隆也は頷いた。


 努力、なんて言葉が元の世界ではやたらと持て囃されていたが、結局、何事を成すにも才能は必要なのだ。


 『努力すれば何でもできる』と人前で堂々と宣うバカほど信用できない人間はいないと隆也は思っている。努力すれば、ある程度のところまでは出来るかもしれないが、人より一歩抜きんでるためには、やはり才能がものを言う。


 才能あっての努力だ。


「タカヤが今までどんな国に居て、どんなふうな教育を受けてきたのか、私は知らない。でも、これまで私が生きてきた世界では、何をやるにも持って生まれたモノ—―つまりは、素質スキルがないと何もできないってわけ」


 ミッタはさっきの人と鳥の絵の横に、再び簡単な絵を描き始めた。なにやら植物とか、花のように見える。それにコップを描き加えた。


 絵はお世辞にも上手いとは言えないが、彼女もそれを自覚しているのか、絵の方に簡潔に『薬草1』、『薬草2』、『調合用の瓶』と書いてあった。


「じゃあ、もう一問。ここにある二種類の薬草を使って、『回復薬3』を作ろうと思います。作り方は予めわかっていて、これを粉末状にして、そのまま水と一緒に混ぜ合わせればいいだけ。加熱してどうとか、作成過程で魔力を込めて、なんていう面倒臭いことはしません。さて、目的の薬はできるでしょうか? ちなみに作成者は、なんの素質も持たない人とする」


「レシピがわかってるなら……できますよね?」


 それぐらいなら出来るに決まっている、と思う。粉々にして、混ぜるだけなのだから、サルでも出来る。


 というわけで、隆也は、あまり深く考えることなく即答した。


「ふふふ~、ゴメンねタカヤ。それ、不正解」


 ミッタは答えの欄に『薬草1と薬草2を水で混ぜたものが出来るだけ』と書いた。


「……それが回復薬3なんじゃないんですか?」


「ううん、回復薬じゃないよ。間違いなくね。目的のモノにするには『調合』の素質スキルを持った人じゃないとできないよ。素質持ちの人を介して初めて、ただの『薬草』っていう『材料』から『回復薬』っていうアイテムに変化するんだよ」


「素質があって、初めて目的を達成することができる……なければ何もできない、と」


「そういうこと。どこの国でも常識だと思ったんだけどね~」


 何の疑念も持たずにそう言い放ったミッタを見るに、おそらくこの世界は『そういうふう』に出来ているのだろう。


 元の世界の理屈が一切通用しない場所に立っていることを、隆也は改めて実感した。


「ミッタさん……その、ちょっと訊きにくいことなんですけど」


「ん? なに? スリーサイズなら、真ん中だけだったら、教えてもいいよ。貧乏生活なのもあって、身体だけは細いからね」


「あ、そういうのはいいです」


 ミッタはおどけてそう言うが、それでも隆也よりはマシである。多分、力くらべでは彼女に敵わないだろう。


「乙女の秘密じゃないとしたら、何?」


「自殺するのにも素質が必要ですか?」


「え——」


 単刀直入に来た隆也の質問に、ミッタの動きが一瞬固まった。

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