第110話 魔剣 対 魔槍 1
「その槍……貴様、どうやってそれを」
「――ウチのお抱えだった鍛冶職人をわざわざ引き抜いたのに、なんでこの槍を用意できたのか、ってことッスか? なら、残念だったッスね。生憎、最高に腕のいいヒトを見つけましてね」
ムムルゥの魔力を浸透させた
見た目はほぼトライオブダルクと変わらない。持ち手の感触はいつも通りで、過去に振るっていたものとほぼ同じ。
だが、あふれ出す魔力量が桁違いに上がっている。
現在、彼女が槍に与えている魔力はそこまで多くはない。もし、槍を通さなければ周囲の手下にすらいとも簡単に弾かれるほどだろう。
だが、魔槍を介しただけで、百戦錬磨であるはずのライゴウを瞠目させるほどの、この威圧感。
これは、彼女が見てきた中で、間違いなく一番の槍だ。少なくとも、魔槍の中では一番。これをまともに創ろうとするならば、おそらくレベルⅧは最低でもいるだろう。
(なるほど、これは確かに三回で壊れるわ……)
驚愕しながらも、一切の隙は見せないライゴウの動きを見ながら、ムムルゥは心のなかでひとりごちる。
一定回数使用することで完全に壊れる、という『デメリット』を付与することで槍の性能を、一段階上に押し上げる——タカヤ少年の発想に、彼女は心の中で感心しっぱなしだった。
「確かにその槍の性能は認めよう。大したのものだ。だが、三回打ち合った時点で壊れるのであれば……やはり、我の勝利は揺るぎようもない」
ライゴウは、こちらの攻撃を三回防ぎきることに目的をシフトさせたようだ。
その判断は正しい。レミとヤミが細工したとおり、この槍は回数制限に達した時点で粉々に自壊するのだから、三回耐えきれば勝ち、耐えられなければ負けだ。
下手に攻撃を仕掛けようとすれば、間違いが起こる可能性もある。
「――全力で防げよ、斬魔鬼将。一回で終わってしまうだなんて、つまらないことこの上ないっスからね……!」
「抜かせ、出来損ないっ——!」
その言葉を合図に、ムムルゥが、一息に込められるありったけの魔力を注ぎ込んだ。彼女を中心にして放出される闇の魔力が、黒い霧となって辺りを包み込んだ。
直後、
「う、っ、りゃアアアあああッ——!」
「ぬっ、うううううううッ——」
攻撃魔法を放って牽制をするとか、目くらましをして一瞬の隙をついて、といったことは一切せず、ただ全力で敵を貫くことだけを考えたムムルゥの一撃。
攻撃は魔剣によって防がれていて、敵の心臓を貫くまでには至っていない。
だが、そんなことをお構いなしに、ムムルゥはさらに前への推進力を強めた。
ぴしんっ、というわずかな音とともに、魔槍に小さな亀裂が走る。
「っ……舐め、るなああッ——!」
「っ——!?」
ライゴウが発した咆哮とともに、ムムルゥの『一回目』の突貫が完全に受け流された。正面からきた彼女の勢いを徐々に他方向へと流し、弱まったところで、一気に威力を殺す。
攻撃をいなされたことによって、一気にがら空きとなったムムルゥの懐。反撃を入れる絶好の隙だが、受け流すことに全力だったライゴウもまた、そのための一歩を踏み出すことができなかった。
「はあっ……後、二回っ……!」
翼を羽ばたかせて上手く体勢を整えたムムルゥが、一旦距離をとって槍を構え直した。たった一撃の打ち合いだが、彼女はすでに肩で息をするほどに消耗している。
「……フンッ、こんなものか魅魔煌将。我の身体にはまだ傷一つ入っていないようだが? それで本当に我を殺すことができるのか?」
「うるさいッ、絶対、絶対……お前のどてっ腹に、デカい風穴を開けてやるっスから……」
一目でわかるほど消耗したムムルゥに、未だ健在のライゴウ。
一度はムムルゥの魔槍から放たれた圧倒的な迫力に気圧されたライゴウの手下たちだったが、対象的な二人の様子に、勢いを取り戻す。
殺せ、潰せ、全員もろとも、跡形もなく。
「一回で、わずかな亀裂のみ……さすが魔剣ってところっすね。でも――」
一見してもわかるほどの、不利な状況。
しかし、それでもムムルゥの戦意は欠片ほども衰えていなかった。
ほんの一瞬だけ、ムムルゥは視線をタカヤ少年へと向ける。
「――すべて、想定通りッス」
ただ小さく頷いた彼を見て安心したムムルゥは、再び、馬鹿の一つ覚えのように『二回目』を選択するのだった。
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