第308話 炸裂
改めて考えてみれば、そこまで不思議なことではなく、その可能性も十分あると隆也も思っていた。
島クジラが隆也たちの前に現れた時。そして、戦闘の最中に隆也をのみ込んだとき、島クジラは海底神殿や周囲のフィールドの一部を丸ごとその胃の中に吸い込んでいる。
海底神殿のある場所は、もともとアンブレイカブルのある海底火山にほど近いから、あの戦いの最中にその部分も飲まれることもあっただろう、と。
隆也が見つけたのは、すでに消化液によって半分以上原形をとどめていなかった海底神殿のそば。ちょうど消化液にだまりの中でぷかぷかと浮かんでいたのだ。
さらに幸運だったのが、島クジラの消化液について。
消化液は海底神殿やその他、石の素材のものを特に早く溶解させる性質を持っていることは隆也も気づいていたが、アンブレイカブルにもそれはもちろん適用されており、溶かされることはなかったものの、隆也の貧弱な腕力でも形を変えることができるようになっていたのだ。
採取・加工したクジラ火薬による火炎や衝撃波以外にも、なにかダメージを与えられる手段があるかどうかは考えていたので、取り掛かるのはすぐだった。
ここまで都合がいいと、なにかRPGのように予め用意されているようが気がして不安しかないが……しかし、脱出のためには使えるものはなんでも利用しなければならない。
消化液に浸して、加工可能な状態まで脆くし、その後セイウンなどで細かく削っては形をととのえて、という気の遠くなるような作業を繰り返した。というか、この作業のために時間を一か月に伸ばしたと言っても過言ではない。
だが、その作業のおかげもあって、威力は十分だ。爆弾の類にもう少し詳しければ改良の余地はあったろうが、今の隆也の知識だがある程度は仕方がない。
「行こう。今の内なら、多分胃の方はがら空きだ」
「っ、あ、ああ」
「これ本当に私たちがやったのかしら……」
想定以上の様相に戸惑う二人を連れて、隆也はすぐさま第一の胃を後にする。
もう戻ることはないだろう――すでに半分になった海底神殿にちらりと目をやって、隆也は第三の胃の出口へと急いだ。
「最後の爆発と黒い礫のおかげでなんとかなったけど……もし守りのほうがまだ第三の胃に残っていた時はどうする? 一匹二匹ならともかく、それ以上だとさすがに逃げきれないぞ」
大半を爆砕したとはいえ、おそらく全てを送りだしたわけではないだろう。デコの心配する通り、数匹、しかも隆也達で相手するには少々キツイ相手が残されている可能性が高い。
「大丈夫です。そっちのほうも、ちゃんと対策してるので。……多分、問題なく通り抜けることができると思います」
消化液にはなるべく触れないよう注意しながら、隆也たちは第三の胃へ。今回は釣りをするわけではないので、命綱なしで、三人で降りていく。
「やっぱり残ってたか……」
途中で全て落下しないよう、慎重に突起と触手を掴みつつ下まで辿りつくと、出口を塞ぐようにして、四~五匹ほどのダークジャークが静かに、隆也たち侵入者を待ち受けていた。
これまで戦ってきた個体と較べても大型で、三人で正面を切って戦うには武器も道具も足りない状況――だが、隆也はそれにもかかわらず、出口にむかってずかずかと歩き始めたのだ。
「!? ちょっと、タカヤ――」
「大丈夫ですよ。さっき邪魔だったから爆破した奴らもそうでしたけど、こいつらももうまともに動ける状態じゃない」
「え――」
二人の制止を無視して、そのまま隆也はダークジャークのそばへ行き、そして、何事もなかったように、そのまま横を通り抜けて――。
「……あ、あれ?」
「攻撃してこない、というか……」
ダークジャークは身じろぎ一つしない。隆也に気づいている様子すらないのだ。
そう、ここに残ったダークジャークは、静かに待っていたのではなく、ただ単にもう動くことができないほどに衰弱していただけだったのだ。
【G、G……】
「ん? なんだ、お腹が空いたのか? なら、いつも通り食べさせてあげるよ。……俺のポーションを再加工して作った毒入りであれば」
そう言って、隆也は、苦しそうに口を開けて頭をかろうじて隆也のほうへ向けるダークジャークに丸い団子のようなものを投げつけた。
「それ……私たちがクジラ火薬を釣りあげていたときに投げ入れた撒き餌――」
「ええ。二人に釣りに行ってもらう時に持たせてた餌に、俺の残りのポーションから抽出して、さらにそこから再加工して毒素を強くしたものを餌に混ぜ込んでいたんです」
隆也がこの作戦のためにやっていたことは三つ。
作戦につかうための爆薬の作成、爆破の際にさらに威力を高めるためのアンブレイカブルの散弾の加工、そして第三の胃を守るダークジャークたちを弱らせるための毒の作成だった。
隆也の目的は、島クジラの体内をスタボロにしていじめることではなく、あくまで体内からの脱出――なので、第三の胃にいる外敵処分のためのダークジャークの脅威をどうやって取り除くかだった。
大半は爆破でなんとかなるのだが、逆流してきた分を倒すだけで、材料のほうはほぼ使い切らないといけない。
では残った分をどうするか――そのヒントになったのが、釣りに使ったときの餌だた。
「こいつら、食べれるものなら何でも食べてましたからね。だからきっと毒を混ぜても気づかないだろうなと思ったら、案の定でした」
頑丈な鱗で外からの攻撃に強くても、内臓まではそうはいかない。
これまでのうっとうしさもあって、隆也も遠慮なく凶悪なものを用意したのだ。
ということで、これで、胃部の攻略は成功である。
「おそらく感覚のほとんどを毒でやられているはずなので……さあ、二人とも早く。ここからが本当の勝負になるんだから」
「……あ、ああ」
「優しそうな顔して、意外に危ないのね……」
心外なことを呟かれた隆也だった。
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