第284話 青い火花


 海中を猛然と進むラルフのおかげもあり、そこから数分ほどで海底部分へとたどり着いた。


 足裏にごつごつとした感触。


 暗闇なのでどんな姿をしているかはわからないものの、それが目的の素材であることは肌で感じることができる。


「ラルフ、お願い」


「おう」


 持参していたポーションの一本を飲ませて、ラルフに周囲を照らしてもらう。


 現在のような危険がある中で自らの場所を晒すリスクはあるものの、暗闇の状態だと、アンブレイカブルに限らず採取は難しい。隆也のすぐ後ろで、背中合わせになって周囲に目を光らせているラルフに今は全て委ねよう。


(ここは今は活動してないみたいだな……死んでるわけじゃない、みたいだけど)


 かつて噴き出したマグマが異世界の環境でアンブレイカブルへと変質したのか、はたまたこの付近のマグマがアンブレイカブルなのかはわからないが、ともかく周辺一帯がそれであることは『鑑定』スキルからも明らかだった。


 火口付近のはずだが、ラルフに確認してもらっても、それと思しき隙間はない……おそらく、かつての噴火の際にアンブレイカブルによって蓋でもされたか。


 ともかく、いきなり突発的な噴火に巻き込まれる心配はなさそうだ。


 では、噴火による生態系の変化でなければ、なぜ深海の様子が騒がしくなっているのだろう。


(……とにかく、今は採取に集中しよう)


 地面にはりついて、指先に意識を集中させる。地表のどこを集中して攻めれば砕けるかを探し当てる作業だが、地上として海中なので、やはり勝手が違う。いつもより疲労の蓄積が早くなりそうだ。

 

「どうだ?」


「……ごめん、まだ」


 ラクシャから借りたセイウンを使って細かく調査していくが、結合の脆い場所がどこにも存在しない。細かい隙間ぐらいは存在するだろうと思っていたが、やはりそこまで順調には行かせてくれないらしい。


 アンブレイカブルが使われた装備も、この異世界で一応は存在する。だが、それも海底火山の噴火でたまたま装備に使える形状のものを盾などにしているだけで、鎧や兜、または剣などの武具へ加工された例は、人間界、魔界ともに未だ確認されていない。


 さすがは最硬の素材といったところか。品質は言う間でもなく最高クラス。


(場所を移動するか……? いや、でも、これを採取できれば最高の素材になりえるし……)


 やはり妥協はできない。アンブレイカブル以外にも優秀な素材は海底にいくつも存在するが、妥協は初代であるシロガネにも失礼だろう。


「ラルフ、今の体の調子で、ほぼ完全な状態のアンブレイカブルにヒビを入れる自信はある?」


「……地上でなら。それでもアルエーテルとか、セルフィアとか、仲間あいつらからの補助ががっつりないと無理だろうけど」


「じゃあ、お願いしないほうがよさそうだね」


 ということは、今の時点では困難だろう。空気の層を維持しつつ、また、時折襲ってくる海の魔獣から隆也のことを守り、その上でアンブレイカブルにむかって全力の一撃を放つ……その直後に魔力操作を誤って隆也が水圧にやられたらかなわない。


「とにかく、もう少し脆そうなところを探してみよう。少し周辺を探索してみて、それでもダメなら作戦を練り直すということで――ん?」


「? どした?」


「あ、いや、今なんか遠くの方で青い光が瞬いたような気がして――」


 火口付近から、さらに奥深く潜って最適な採掘ポイントの捜索を再開した瞬間、ふと、隆也の視界の先で、パチン、と青い火花が弾けたような光が、ほんの一瞬だが迸ったのだ。


「――いや、何もないみたいだけどな」


 ラルフが隆也の指さした先に意識を集中させるものの、なんの気配もないようでただ首を傾げている。 


 彼が敵を察知できないことはほぼありえないので、可能性としては、慣れない海中での作業で疲労した隆也の気のせいと考えるのが自然だろうが、なんだか気持ちが悪い。


 冷たいものが、隆也の首筋を流れる。


「タカヤ、大丈夫か?


「それは……ねえラルフ、やっぱり探索はやめていったん海上に――」


 と、隆也がラルフに呼びかけようとした瞬間、



【――……―・―・・・―――】



「「っ……!?」」



 隆也たちのすぐ真横に、彼らを見つめる巨大な眼球……ではなく、深海の暗闇と同化するような黒いウロコをもった巨大な海蛇のような生物が現れたのである。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る