第132話 隆也の仕事 1
群れの主の登場によって混乱を見せている他の冒険者たちを尻目に、隆也たち四人はこっそりと行動を開始した。
ムムルゥにお願いをしたのは、時間稼ぎ、つまり、できるだけ他の冒険者たちが親玉のナガツノを倒すのをできるだけ遅らせることだった。
「こいつ、さっきの攻撃でついたのはずの傷口が塞がってやがる!」
「再生の能力なんてナガツノにあったか?!」
「魔法だ、炎の魔法を撃て! ヤツを近づかせるな!」
隊を組んで攻撃にかかる同業者たちの言葉にもあるように、姿を隠したムムルゥは、今、冒険者側ではなく、ナガツノ側のほうを重点的に支援をしている。標的が隆也達から他の冒険者たちに移ったのは、彼女がかけているだろう幻惑の呪いだ。
傷が塞がっているのは、隆也の手によって解毒された支給品の回復薬をかけただけで、もちろんナガツノに再生能力などは備わっていない。
「……よし、他のチームがあっちにはりつけになっている間に、俺達も狩りを始めよう。まだ、一頭も倒している扱いになってないからね」
ムムルゥの手によって一体は倒していたが、それはすべて、四人の装備品にその姿を変えている。なので、今、シーラットの獲得額はゼロ。一銭たりとも稼いでいないのである。
「! 見つけた。結構大きい個体だが、動きがやけに不自然……手負いだな」
野伏役のロアーが指さした方向に、足を引きずりながら森の奥へと逃げようとするナガツノを見つける。数は一匹。多分、他ギルドが狩り漏らしたのだろう。
「ロアー、ここから弓でアイツを狙って。矢にはさっきの痺れ薬を塗ってるから、上手くやれば楽に狩れると思うけど」
「残念だが、この距離じゃちょっとばかり遠いな。弓を使えるといったって、副社長がやってるのを見様見真似で覚えただけだからな。風の魔法も使えんし」
隆也の指示に、ロアーは首を振った。話によると、彼の弓術の素質は、大体Ⅲ~Ⅳ。あまり遠くの標的を狙撃はできないようだ。距離が離れれば離れるほど、精度と威力が落ちる。
しかし、それでも隆也はロアーに要求した。
「それなら大丈夫、俺を信じてやってみて。今のうちのロアーなら、多分、急所に打ち込めると思うから」
「今のうちの……? まあ、とりあえず試してはみるが」
隆也の言葉に首を傾げながらも、ロアーは草むらに隠れて弓を引き絞った。
見様見真似、と本人は言うが、その姿は、魔界で魔族やドラゴンゾンビ相手に大活躍を見せた副社長とそっくりである。
「ん、なんだこの感じ……?」
と、矢を今にも放とうとしたところで、ロアーの顔に困惑の色が浮かんだ。
どうやら、自身の体に起こったとある『変化』に戸惑いを見せているらしい。
「どうしたと、ロアー? やっぱり難しか?」
「いや、その逆だ。なんでかはわからないが、この矢は絶対に急所を貫く。今までにないぐらいに力が入ってる気がするし、視界もばっちりだ。なんだこれ、まるで自分が一段上のレベルにあがったみたいな……」
ロアーの口から出た言葉を聞いて、隆也は口元に笑みを浮かべる。
「そりゃそうだよ。だって、そろそろお昼に俺がつくったご飯が消化され始めてきたところだからね」
腹ごしらえだ、と言って少し早めの昼食をとった隆也達だったが、それは、なにもただ休憩のためにわざわざ時間を割いたわけではない。
「料理スキルが高いと、作った料理によって特定の
隆也は、昼食に、メンバーそれぞれ違う料理を用意していた。隆也はあり合わせで作った簡単なものだが、他の四人には、その役割に応じて強化が発動できるよう、予め考えていたのである。
効果が出始めるのに時間がかかるという欠点はあるが、一度効果が発動してしまえば、食べたものが完全に消化されて体外に排出されるまでは効果が残るので、魔法よりも効率が良かったりする。
もちろん、食材の組み合わせによっては強化効果の重複も可能だ。
「だからロアー、撃って。今の君なら、きっとやれるから」
「わかったよタカヤ。お前に、乗せられてやる!」
言って、ロアーは、強化された腕力によって十二分に力の込められた弦から一本の矢を放った。
「――フゴッ!??」
ビシュン、と空気を鋭く切り裂いて迫る矢になんとか気付く獲物。
しかし、そのことに気付き、振り向いた瞬間、小さな螺旋を描くように唸る鏃が、その大きな目玉のど真ん中に深々と突き刺さったのだった。
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