第135話 真夜中の逆襲 1


「ああ……この黒髪美人さん、タカヤの先輩さんやったとね。また誰か襲ってきたんかと思ってビックリしちゃった」


「はい、あの、えっと……わたくしアカネ、といいます。み、皆さん、で、出来の悪い弟弟子が、と、とても世話になってでして……」


「アカネさん、落ち着いてください。そんなに怖い人達じゃないですから」


 調合した疲労回復薬を全員に飲ませた後、改めて隆也はアカネを三人に紹介する。ギルド自体にはアカネも顔出ししていたものの、こうやってきちんと顔合わせをするのは初めてのはずだ。


「あなたのことはよくわかった。だが、交代については問題ないのか? 確か、今回の参加メンバー、ウチは控えに誰の名前も入れてなかったはずだが」


「……師匠が『知り合い』に言って、強引に名前を付けくわえてもらったようです。タカヤの応援に行くぞ、と言われて無理矢理連れてこられたのですが……なぜかこのようなことに……」


「「「「ああ……」」」」


 妙に納得してしまう隆也以下四人である。


 あの人ならやりかねない、そんな共通認識がシーラットにはあった。


「アカネさんが助けに来てくれたのはありがたいです。でも、もうあらかた狩りは終わっちゃってますし、それに、せっかくの稼ぎも、今しがた全部とられちゃいましたから」


 百体を超えるナガツノの群れも、各ギルドの奮闘によって、ほぼすべてが退治された状態で、後はボスの討伐を残すのみ。それも、シーサーペントの面々を中心にしたパーティが、もうじきに果たすことになる。


 報酬額ゼロというなんとも情けない醜態を、おそらくシーラットは晒すことになるだろう。


 想定外のこととはいえ、社長や副社長に申し訳が立たない。


「タカヤ、お前は本当にそれでいいのか?」


「え?」


「疲弊していたところを狙われ、有り金含めてすべてを奪われてしまったことは仕方ない。大人しく要求を飲んだのも。だか、本当にそれで終わりでいいのか? やり返さなくてもいいのか?」


「やり返すって……まさかあいつらから奪い返すつもりですか?」


「するかしないかは、四人の判断に任せるが」


 隆也の問いに、アカネは口元に小さく笑みを作った。


「周辺で怪しい動きを見せていた集団は、今、使い魔のイカルガに尾行をさせている。じき、アジトも割れる」


 と、いうことはやろうと思えば、野盗でもに一泡吹かせることもできるということだ。一仕事を終えて、油断しているところを逆襲する。そろそろムムルゥも戻ってくる頃合いなので、二人の協力があれば、取り返すことも可能だろう。


 もちろん危険も伴うが、成功すれば、決定戦のトップに再び返り咲くことができる。


「……やろうよ、タカヤ」


「ああ、やろう」


 どうするか確認する前に、メイリールとロアーは即答した。


「メイリールさん、いいんですか? ロアーも」


「当たり前よ。やられっぱなしは私の性に合わん。やられたらやり返す、それこそ冒険者よ。ね? ダイク、ロアー」


「コイツの言う通りだ。このままタダ働きなんて、まっぴらゴメンだからな」


「余裕ぶっこいてる野盗どもの鼻、今こそあかしてやろうぜ……って、俺は参加できないけど」


 逆転の道筋が見えたことで、一度は折れかけた三人の瞳にもやる気が戻りつつある。


 三人がやるというのなら、隆也にも、もう反対する理由はない。


「……決まりだな」


「ええ……俺のほうも、今になってふつふつと怒りが沸いてきたきた頃合いですから」


 隆也はもう一方的に奪われるだけの弱い人間ではない。能力があり、仲間があり、そして勇気も少しずつだが、身についてきた。


 そのことを、隆也はこれから証明してやろうと思っている。敵でもなく、味方でもない、自分自身に対して。


 逆襲の夜は、未だ、始まったばかりである。

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