第48話 本領発揮 1


「ここが僕の……」


 ギルドに新たに作られた工房を目の当たりにした瞬間、隆也は、自分の胸が想像以上に高鳴っているのを感じていた。


 彼とて、初めからだったわけではない。鍛冶、調合を始めとした生産、加工系統のスキルに秀でているからといって、それが隆也の本当にやりたいことではなかったのである。


 だが、エヴァーのもとで修業を重ねていくうち、隆也はどんどんと、自身のスキルを極めることにのめりこんでいった。


 元々の状態では役に立たないものが、自身のスキルによって有用なものに姿形を変えていく。ただの石ころを道具に、または、単体では何の効能もない植物を薬へ。


 この世界に、役に立たないものなど存在しない。


 そのことを教えてくれた自身の潜在能力に、隆也は感謝しかなかった。


「あの……ルドラさん、フェイリアさん。俺なんかのために、本当にありがとうございます」


「構わないよ。もしタカヤが本当にそう思ってくれているなら、それを仕事で返してくれればいい」


「そういうこったな。借金が返せなきゃ、俺達全員路頭に迷っちまうことになるが……まあ、そうなっても全員で力合わせりゃなんとかなるだろ」


 部下の反応を満足そうに笑う二人を見ると、本当にこの人たちに拾われてよかったと、隆也は思う。シーラットのメンバーにも、改めて感謝しかない。


 名上隆也という人間を見捨てないでくれた異世界の人達と、そして何より自分自身に感謝を意をあらわすために。


 まずは、ムムルゥからの依頼を完遂させなければならない。


 隆也は両手で自身の顔を張って、気合を入れ直した。


「アカネさん、天空石を一度全部溶かしてしまいます。炉の準備をお願いできますか?」


「構わないが……何をするつもりだ?」


「俺は『調合』の作業に入ります。使うのは、コレです」


 隆也が取り出したのは、回復薬の調合にも使ったレンサゴケ。


「……どうやら考えがあるらしいな。わかった、準備しよう」

 

 隆也の指示に従って、アカネが手際よく火種を炉の中へ放り込んでいく。いつでも隆也が作業に取り掛かれるよう、炉の中には予め木炭が入っていた。


「ねえ、ごしゅじんさま。ミケは?」


「ミケは見張りをお願い。作業に集中したいから、俺の邪魔をしてくる人がいないようにして」


「わかった」


 言って、すぐに狼姿へと変化したミケは、隆也の傍についてギラリと監視の目を光らせる。別にこの中に悪さをする人などいないのだが、『何もしなくていい』だと、今度はミケが不満顔になるので、なるべく何らかの指示を与えるようにしている。


 これが、賢者の館の住人による、いつものスタイル。


「ふむ……いい面構えになっているな。さすがは我が弟子たち」


 遠巻きに二人と一匹の様子を眺めるエヴァーも、大きく頷いていた。


「ムムルゥさん。槍を」


「は、はいっス」


 壊れた状態の魔槍トライオブダルクを、作業台の上へ。


 やはり、ものの見事に折れている。だが、隆也は、その折れた断面に言いようのない違和感も、同時に感じていた。

 

 数千年以上にわたって力を発揮し続けているから、確かに、度重なる無茶や経年劣化によって折れることはあるかもしれない。ムムルゥのメンテナンスがいい加減というの事実。


 だが、折れたのではなく、何者かの手によって折られた可能性も、隆也は感じていた。折れたことがわからないよう上手くやっている節はあるが、それでも、才能を覚醒させ始めている隆也の目はごまかせない。


 それは、これからの実験で明らかに出来るはずだ。


 経年劣化ならただの寿命だが、折られたのであれば、魔槍はまだ生きている。


 生きているのなら、まだ『復活』することができる。


「タカヤ様、先程『くっつける』とおっしゃいましたが、具体的にはどういう……?」


 レティの問いに、隆也がさも当然のように答えた。


「はい。えっと、これから天空石の一部を接着剤に【調合】して、それをつかって折れた部分を繋ぎ止めようと思います」


 それは、隆也にしかできない、いや、隆也だからこそできる芸当。


 彼の本領が、今、本当の意味で発揮されようとしていた。

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