第122話 買い物デート 1
ムムルゥのおかげもあって格安で新居を借りることが出来た隆也は、その後、すぐに引っ越しの準備に取り掛かった。
といっても、元々着の身着のままでこちらの世界に来たので、それほど持っていくような荷物はない。ミケやムムルゥも似たようなものだ。
だが、テーブルやベッドなどといった家具はそういうわけにはいかない。ベッドは少なくとも後二人分はいるし、テーブルや食器、その他の生活に必要になってくるものもあるだろう。
と、いうわけで。
隆也は、とある人を誘い、休みの日に買い物に出かけることにした。
「……服、これでおかしくないかな」
ギルドの建物裏口にあるいつもの待ち合わせ場所で、隆也は、強制的に付き添いとなっているミケとともに、その人の到着を待っていた。
服はエヴァーから見繕ってもらったいくつかのうち、もっとも綺麗なものを選んできている。外見上は普通だが、実は彼女の手によってびっしりと防御魔法の術式が施されていて、ちょっとした刃物なら通さないほど頑丈らしい。
「――お待たせ、タカヤ。ごめん、ちょっと遅くなったやろ?」
「大丈夫ですよ、メイリールさん。俺も、さっき来たばかりですし」
「そう? メイリールくるまで、ミケとごしゅじんさま、けっこうまった——うみゅ」
「ミケ? 余計なことは言わなくていいんだよ?」
ダイクやロアーからもそれとなくお願いしてもらって、ようやく『OK』をもらったメイリールとの久々の外出。なので、実はだいたい約束の一時間ぐらい前には、準備を終えて、ミケとともに彼女のことを待ち構えていたのだった。
「ふふっ、やっぱりタカヤは相変わらずやね……ところで、ムムルゥちゃんはおらんと? いつもなら仕事中でもなんでも、タカヤにべったりやったやん」
「ムムルゥは休日出勤で、ミッタさんに受付の仕事を教えてもらっています」
のみこみが早く、あっという間に仕事を覚えてシーラットの看板娘筆頭となったレティに較べると、ムムルゥはそういった事務系の仕事は大の苦手らしく四苦八苦しているようだ。
だが、そのおかげもあって、二人でじっくりと話ができそうだ。間にミケというクッションもあるので、会話が変に途切れて気まずくなることもないだろう。
「あの、ところでメイリールさん」
「ん? どうしかした?」
「いえ……今日の服、いつもと雰囲気違って、その、すごくいいと思います。綺麗、というか、なんというか」
隆也もそうだが、待ち合わせ時間よりすこしだけ遅れてきたメイリールも、休日なので、いつもの仕事着とは違って私服である。ちょっとした柄の入った上衣に、同じ色合いの膝丈ほどのスカート。スレンダーな体型だけあって、基本、彼女は何を着ても似合う。
「そ、そうやろ~? 仕事での役割は専ら殴り専門やけど、私だって、ちゃんと女の子なんやけん、たまにはタカヤにもそういうところ見せていかんと」
顔を合わせたらまず真っ先に服装を褒めろ—―ダイクから事前に助言をもらっていたおかげで、ひとまずは、メイリールの機嫌をよくさせることに成功する。
今日は新居で使う雑貨などの買い出しと、それから、今後買う予定の、ソファやベッドなどの大きい家具の下見も兼ねている。もちろん、途中で食事をとることもあるだろう。
なので、隆也にとって、これは実質デートみたいなものである。
少し前に、明人達に途中で邪魔されてしまった分のリベンジも兼ねて。
「……そうよ、私だって、女の子……タカヤにちゃんと振り向いてもらうために、ここでしっかりとお姉さんの余裕を……」
「メイリールさん、ミケがお腹がすいたみたいなので先に食事を……って、どうかしましたかメイリールさん? すごく思いつめたような顔して……どこか具合が悪いのなら、しばらく会社のなかで休みます?」
「えっ? ああ、ううん! 私はこの通りピンピンしとるけん、なんでもなかよ。さっ、タカヤもミケちゃんも、早くご飯食べにいこ。おいしいところ、私最近見つけたけんさ」
ミケと隆也の手をとり、メイリールがいつもの元気を取り戻してぐいぐいと引っ張っていく。
「……」
「ごしゅじんさま、なんだか、うれしそう?」
「いや……やっぱりメイリールさんはこうじゃないとな、って思っただけ」
そう言って、隆也は、この日のために作った『あるもの』が入った小さな袋を、上着のポケットにこっそりと忍ばせたのだった。
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