第123話 買い物デート 2
お腹がすいたというミケのために早めの昼食を済ませてから、隆也は、メイリールの案内によって、一番街にある雑貨屋の立ち並ぶ通りを歩いていた。
「うわっと……休日だからか、すごい人通りですね」
メイリールによれば、ここに来れば生活雑貨のほぼ全てが揃うとのことらしい。そのため、狭い通りながらも、すでに多くの人でごった返していた。
「うう、ミケ、ここちょっとイヤかも……」
「ごめんね、ミケ。でもちょっとだけ辛抱してて。ほら、手かして」
言って、隆也は、途中でもはぐれたりすることのないよう、ミケの手をとってしっかりと握った。
ミケは基本的に寂しがり屋で、主人である隆也かアカネ、もしくはエヴァーのうちの誰か一人がそばにいてやらないと不安になってしまい、すぐ狼の姿に戻って彼らを探してしまうという癖がある。メイリールにも慣れ始めてはいるので彼女までなら何とかなるが、ムムルゥや社長、副社長その他メンバーはまだまだだ。
ギルド内で変化するのは問題ないが、ここはベイロードの、しかも中心とも言っていい一番街である。こんなところではぐれて狼の姿を晒してしまったら、それこそ大騒ぎどころの話ではない。
「ねえ、メイリール」
「ん、どしたとミケちゃん?」
「て。メイリールもつなぐ」
「あ、うん。そうやね」
言って、メイリールが何気なく反対のほうの手を握ると。
「あ……」
と、ここで急に何かに気付いた彼女の頬がほんのりと朱に染まった。
「ねえ、タカヤ」
「え?」
「あのさ、こうして私達の間に小さいミケちゃんがいると、なんかさ、その、その……」
ミケの手を握ったまま、ちらりと隆也を見やった彼女が、ぽつりと、
「親子みたいって、思ったりせん? ミケちゃんが子供で、私達は、その……」
「……そうですかね? 俺達まだそんな歳じゃないし、せいぜい兄弟ぐらいなんじゃないですか?」
「…………」
「痛いッ!?」
何の前触れもなく、隆也はメイリールにお尻を軽く蹴られてしまった。見ると、さきほどまで上機嫌だったはずの彼女が、またいつぞやのように頬をぷっくりと膨らませている。
「もう知らない、タカヤのスカタン! ほらミケちゃん、タカヤなんて放っておいて二人で一緒にいこ。あそこに屋台がでとうけん、好きなモノ食べていいよ。おごったげる」
「ほんと? じゃあいく!」
「あ、ちょっと二人とも待って……!」
おいしそうな食べ物の匂いにつられてあっさりと隆也の手を離したミケと、その手を引くメイリールを、隆也はヒリヒリする尻を抑えながら追っていくのだった。
×
その後、理不尽な思いを抱きながらも、隆也はなんとかメイリールに許してもらい、本来の目的である買い物に付き合ってもらった。
新しい食器類については、多めに買い込んだ。立派な部屋なので、隆也達三人以外も、度々来客することになるだろう。少なくとも、速攻で新居に目印を付けたエヴァーはほぼ確定である。
館からソファぐらいは持ってこさせようと強く決意した隆也だった。
部屋に荷物を置いてから、隆也は、今日のお礼も兼ねて、メイリールをレストランへ連れて行った。といっても、ギルドの皆もたまに利用らしく、お財布には優しい。育ち盛りのミケもいるので、隆也としては助かる。
食事が一段落してから、隆也は、もう一つの目的のために、話を切り出した。
「メイリールさん、その、今日は付き合ってもらってありがとうございました。ミケにも色々買ってくれたみたいで。ほら、ミケもちゃんとお礼言って」
「メイリール、きょうはありがとう。やたいのにく、おいしかった」
「にひひ、どういたしまして~」
隆也の教え通りに頭を下げたミケの頭を、メイリールはくしゃくしゃと撫でる。
隆也の次に信頼をしているアカネですら嫌がる頭撫でだが、完全にメイリールに懐いてしまったのか、隆也がするのと同じようにして、気持ちよさそうに目を細めている。彼女がそれだけ『心やさしい人』だからこそ、ミケは心を開いたのである。
彼女に拾われて、見つけてもらって、その手をとってもらって、本当によかったと、隆也はつぐづく思う。その感謝は、多分、一生かかっても忘れることはないだろう。
「めっ、メイリールさんっ!」
意を決して、隆也は、ポケットから取り出した小さな袋を、メイリールへ差し出した。若干声が裏返ってしまってどうにも格好悪いが、やり直しもできない。
「えっと、これ……私にくれると?」
「は、はい。今日の分と、これまでの分も合わせてお礼を、と思いまして……」
「あ、ありがと……って、え? こ、これってまさか」
触った感触でなんとなく何をプレゼントされたか察しをつけたメイリールが、袋の中身を取り出すと。
「指輪だ……しかも、すごくキレイ……」
そこには、隆也が今持っている加工スキルと、入手できる素材をつぎ込んで制作したリングだった。
レベルⅦに到達したことによって加工可能となった天空石のごく小さな欠片を銀でメッキしたリング本体に埋め込み、シロガネを使って宝石っぽい形に削り出している。
まだ慣れていないので形は少し悪いが、水晶ぐらいの煌きにはなっているはずである。
「あの……俺にとって、メイリールさんっていう存在は特別なんです!」
「と、とくべっ……ふええっ!?」
指輪のプレゼントとともに飛び出した隆也の言葉に、メイリールは、周囲に人がいるのもそっちのけで狼狽し、驚きの声を上げる。
傍から見ればとんでもないことを口走っている隆也だが、当の本人、実は、緊張のあまり、その意味をあまり考えていなかった。
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