第313話 一からの手がかり探し
そこからさらに、十日ほどが過ぎた。
相変わらず隆也は拠点で寝転がっていることがほどんどだったが、無気力に日々を過ごすことはなくなっていた。
デコとミラが寝静まったころを見計らって、隆也はむくりと起きて外に出た。
日中に二人に加わってもいいのだが、素直に謝るのが照れくさくて、とりあえず一人で探索をしようと思ったのだ。
「真夜中……といっても、中は暗いままなんだけど」
今日の調査は時間帯による違いがあるかどうか。
おかしな構造をしているとはいえ、一応、島クジラも生物だ。
食事のほうは数年、数十年に一度でも、寝て起きて、泳いでという活動はしているはずで、内臓内も、二十四時間同じ動きをしているとは限らない。
これで都合よく出口が出現するなんてことはありえないだろうが、一応、情報としては入れておくべきだろう。
「……また新しいヤツが生まれているな。処理しておくか」
第三の胃では、おそらく胃壁のどこかに卵が産みつけられていたようで、ダークジャークの幼体が生まれている。そうやって、また何かあった時のために新しい門番を育てているのだ。
まあ、これは見つけた先から処理するわけだが、なぜそこまでしてこの先の迷路を守ろうとする構造なのかは疑問である。
内部構造は長く入り組んではいるが、かといって隆也たちのような侵入者を排除するようなシステムがあるわけでもない。
迷路の一番奥にあるのは、ただ、通常なら排泄物となって外部に排出されるもののみであるはずなのに。
どうにもちぐはぐな印象を受ける。
「やっぱり、アレは脱出に必要なのか?」
迷路はやはり腸のような役割を果たしているようで、消化されて液体上になったものが、腸壁によって吸収され、そして、栄養のほとんどなくなったものが、迷路の一番突きあたりに運ばれ、絶えず貯蓄されているようだ。
なので、わりと燃料のために持ち出しても、しばらくすれば、また元の量にもどっている。言ってしまえば取り放題なのだ。
ひとまず、しばらく分の生活のための燃料と、爆薬の作成に必要な分量を袋の中につめて、一旦外へ。
この時間は胃の活動も大人しく、消化液の分泌が少ないので移動が楽でいい。
三番目の胃は突起物が消化液まみれでローションのようにぬるぬるになっていることもあり、手や足を滑らせることがあるのだ。まあ、落下しても胃壁がクッションの役割になってくれるので、大した怪我はない。
これまでの恨みを晴らすこと半分でダークジャークを爆砕したのだが、それが何気にいい方向に働いている。
「……ん?」
そうして、第三の胃から第二の胃へ戻る途中。
「スライム……」
ふと足元に暖かいものを感じたので見ると、隆也の足にすり寄るようについてくる小型のスライムがいるのを発見する。
ちょうど迷宮内で不定期に発生しているスライムを小型にしたような形――以前隆也の顔面を溶かそうと襲ってきたものにそっくりだ。
「上のほうから降ってきたのか――?」
とりあえずこの分の個体は速やかに処理し、隆也が上部に向けて魔石燈を照らすと、ちょうど傷ついた胃壁を守るようにして、同型のスライムが大量に張り付いているのが見えた。
今まではただ単に隆也たちの嫌がらせするためにしか思わなかったスライムだが、どうやら時間帯によっては彼らなりに役割を与えられているらしい。
恥ずかしながら、ここにきて初めての発見である。
「タカヤ」
「! デコ、それにミラ」
スライムの動きをしばらく観察していると、二人に声をかけられる。
装備もきっちりしているので、どうやら隆也のことを探しに出て来てくれたらしい。
「急に部屋からいなくなったから、心配したよ。言ってくれれば俺たちも付き合ったのに」
「いや……今日はただちょっと夜中に目が覚めたから、気が向いただけだよ。ちょっとした散歩かな」
「の割にはがっつり探索したように見えるけど?」
「…………二人が日中は頑張ってるから、俺もたまにはやらないとね。働かざる者食うべからず。俺の故郷の言葉」
「……まあ、やってくれるのはありがたいけど。でも、これから夜中に探索するときは言ってくれよ。なんていうか、その……やっぱり隆也と一緒のほうが、僕たちも助かるんだから」
迷惑ばかりかけてきたはずなのに、それでもこう言ってくれることを、隆也は素直に嬉しく思った。
やはり、素直に謝るべきだろう。こんなところで変に気を遣ってもしょうがない。
元々三人は一蓮托生なのだ。
「ごめんデコ、それにミラ。二人のおかげで、ちょっとだけ目が覚めた。迷惑じゃなければ、俺も二人のこと、もう一度手伝わせてほしい」
「もちろん。……ようやく戻ってきてくれて、嬉しいよ」
隆也はそれぞれと握手をして、もう一度二人に協力することを誓い合う。
もう一度、全てやり直しだ。
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