第108話 激突 3


 ムムルゥに全てを託した後、隆也はゆっくりと後ずさって、レティとフェイリア、二人の仲間のところへと戻った。


「……タカヤ様は、時々突拍子もないことをなさいますよね」


 後ろに下がった隆也を抱きとめたレティが言う。


 彼女にも、もちろん、ここまでの移動中の間に、このことは全て打ち明けている。しかし、彼女には『ムムルゥに対しては何らかの方法でこっそりと伝える』とだけしか言っていなかったので、わざわざキスまでしてしまった彼の行動に驚いているようだった。


「ごめん……でも、俺もあれぐらいしか思いつかなくて」


「別れを惜しむだけなら、お嬢様を抱きしめるだけでも良かったのではないですか? キスで口が塞がっていたら、喋れないでしょうに」


「う……」


 レティに指摘され、隆也は今更ながらに恥ずかしさがこみ上げてくる。


 隆也としては、敵側が『四天王とニンゲンが深い関係にある』と勘違いしていると思っていたので、不自然にとられないようにと考え、とっさにあのような行動に移したのだが、余計な行動だったかもしれない。


「でもまあ、そのおかげでお嬢様も過去に類を見ないほどにやる気に満ち溢れておりますし……結果的には功を奏したのかもしれません。レミ、ヤミ、あなた達もそうは思いませんか?」


 そう言って、レティは、それまで二人組のほうへと目をやった。


「……まさか気付かれていたとは」


「いつから、私達が斬魔鬼将側と繋がっていたことを?」


 レミとヤミの二人は、隆也が先程行動を起こしたと同時に、フェイリアの弓技によって拘束されている状態だった。『影縛り』という技で、対象の人物の影に弓を楔のように打ち込むことによって、身動きを取れなくするという高難度の技能を必要とする技らしい。


「種火を手に入れて、一番最初にトライオブダルクを打ち直した時のことですよ。あれがなければ、俺は最後まであなた達のことを仲間だと信用していたところでした」


「あの時点で……?」


「たったそれだけで……」


「いえ。たった、じゃないですよ。決定的な情報でした。それによって、それまでずっと疑問に思っていたことが、点と線で繋がったんですから」


 レミとヤミ、二人を見るライゴウの顔が怒りに歪み、なにやら魔界語で口汚く罵っている。


 それを見るに、やはり、隆也の推測は最初から最後まで概ね間違いはなかったようだ。


「説明します。まず俺がおかしいと思ったのは、最初に魔槍を打ち直した時のことです。二人に白状しますが、俺は、元々魔界に来るまでは鍛冶レベルは『Ⅵ』しかなかったんです。『Ⅸ』じゃない。つまり、あの時点で魔槍を設計図レシピ通りにやっても、できるはずがないんです。それなのに——」


 レシピがあっても、必要レベルにまで到達していなければ、目的のものは創れない。それは、武器だろうが、薬だろうがなんだろうが、すべて同じ摂理が働く。


 なので、あの時点で隆也が魔槍をうっても、それは『魔槍に似た何か』であって『魔槍』そのものが出来上がらないはずなのだ。


「――俺も最初はびっくりして咄嗟に炉に放り込んじゃったんですけど、あれは、間違いなく『魔槍』でした。レティと副社長は、そうじゃないと思い込んでいたみたいですけど」


 レベルが『Ⅵ』しかないのに、『Ⅶ』のレベルが必要な魔槍が一発で仕上がる。ということは、つまり、五人の中で、隆也以上の鍛冶レベルを持っている者がいたということに他ならない。


 フェイリアはもとより、レティの『木』についても、入社時に確認しているので、鍛冶レベルがからっきしなのは把握している。


 ということは、レミとヤミのどちらが、もしくはその両方が、鍛冶レベルⅦ以上を有していると判断できるのだ。本人たちは隠していたようだが、摂理が絶対である以上、もう言い訳はできない。

 

 そして、Ⅶ以上の鍛冶レベルを有しているのならば——。


「レミさん、ヤミさん……ムムルゥさんの自宅で保管されていたトライオブダルクに細工を施して、壊れるように仕向けたのは、あなた達二人の仕業ですよね?」


「「っ……!!」」


 魔槍を意図的に壊すことも、また、可能というわけである。

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