第300話 共闘
「どうして、その名前を――」
ラルフの名前を出した瞬間、デコとミラが戸惑いを見せる。
ラルフという名前自体は、この世界でもわりとありふれている。だが、二人に対してこのタイミングでその名前を出すということは。
「――彼と俺は親友なんです。仕事がきっかけで付き合うようになって……彼は今冒険者として名を馳せている。子供のからずっと夢見ていた『世界一』の冒険者として」
「「っ……」」
ここまでくれば、彼らも隆也の言う『ラルフ』が、彼らの幼馴染であることはわかってくれるだろう。
彼らの反応を待っている暇はない。こうしている間もダークジャークは隆也に襲い掛かり、辺りに電流を、そして毒液をまき散らしている。
今はまだ逃げられているが、隆也の体力は仲間たちのように無尽蔵とはいかない。
このままでは、いずれ捕まえられてしまう。
「つい直前まで、俺はラルフと一緒にいました。でも、島クジラの妨害にあって俺だけのみ込まれたんです。……お願いです、助けてくれませんか?」
「……」
「デコ……どうするの?」
隆也の頼みに、二人の心は揺れているようだった。
三人で力を合わせたとして、この状況を覆してダークジャークを撃退できるかどうかはわからない。
自分たちの安全のみを考えるなら、やはりここは隆也を見捨てる一択だろう。隆也はやられるだろうが、少なくとも自分たちは助かる。
後は、彼らがどれだけお人よしであるかを祈るのみ――。
「タカヤといったか……さっきの話、信じていいんだな?」
「ええ。俺が知っている範囲でいくらでも続きを話しますよ」
「……約束は守ってもらうぞ」
そう言って、デコは背中の弓を構えて、ダークジャークへと狙いを定めた。
「ミラ、あの少年を助ける」
「ええ」
隆也の悪運は、まだ完全に尽きてはいなかったようだ。
「俺の方でなんとか急所を狙うので、二人はそれまで注意を引き付けてくれれば」
「わかったわ……けど、私たちもそう長い間はもたないからね」
デコの放った矢によってダークジャークの意識がそちらへ向いた瞬間、隆也はミラと入れ替わるようにして身を隠した。
【G……】
ダークジャークは、放電器官などの発達を引き換えに、蛇が本来持っているような感覚器官が弱い。なので、獲物の探知は基本的に視覚に頼ることになる。外見は蛇だが、中身は蛇とは大きく異なっている。
瞳を狙ったデコの矢は躱した。だがその隙に、獲物である隆也に隠れられてしまい、見失ってしまったわけだ。
アイツはどこにいった――そう言わんばかりに首をひねり、行方を必死に探すダークジャークだったが、
「そんなにあの子のことが大好きなのね……でも、本当にそんなよそ見していて、大丈夫なのかしら?」
【UG――!?】
そんなミラの声がした瞬間、ダークジャークの眼前で炎が炸裂した。
「魔法が使えないと思って油断してた? 残念、私のこれはちょっと違うのよ」
ミラが指をパチンと鳴らすと、わずかだが火花が迸った。魔法が使えない云々については後で話を聞くことになるだろうが、ということは、今のが彼女の『異能』ということになるのだろう。
そして、爆発の燃料となったのは、ミラがポケットから取り出した黒色の石のような物体。ミラの能力によって点火された数秒後に、炎と反応した物質が、激しい燃焼反応を起こしたのだ。
素材の鑑定が必要だが……場合によっては、隆也の脱出の大きな助けになるかもしれない。
【UUGG――!】
硬い鱗もあって爆発による外傷はほぼないが、激しい光を直接瞳に受けてしまったことにより、ダークジャークが呻き声を上げる。
危険から身を守るため、周囲の植物が焼けこげるほどの放電を断続的に繰り返すが、ミラのほうはすでに安全な間合いにまで離れている。
「ほら、こっちだ黒いの!」
追い打ちをかけるように、デコからの追撃の矢が敵を襲う。矢の速さはロアー以下だが、恐ろしいほどの狙いが正確で、常にダークジャークの眼球のど真ん中へと向かっている。
彼らも彼らで、この環境を生き抜くため、色々と努力を重ねたということだ。
【GGG……!】
間合いの外から立て続けに放たれる射撃にいい加減業を煮やしたのか、ダークジャークの注意が初めてデコのほうへと向く。
なぜか頑なに隆也ばかりを狙っていた敵の注意が、一瞬、隆也からデコへと入れ替わった――その瞬間を、木の上に身を隠していた隆也は見逃さない。
「タカヤくん――!」
「はい!」
ちょうどダークジャークが隆也の真下あたりに来たところ。ミラの合図とともに、隆也は意を決して跳躍した。
構えたセイウンの切っ先が狙うのは、ダークジャークの額にある放電器官。
【!? UGGRR――!】
「行くぞセイウン! 今からアイツを『締める』!」
ダークジャークの視界が隆也のことを捉えたと同時。
青く煌めいた刀身が硬い鱗を豆腐のように切り裂き、頭部にある放電器官ごと、神経を断ち切ったのだった。
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