第256話 復活 3
※
「うっ……!?」
「! おい、大丈夫かよ」
「……問題ない、ちょっと変な感じがしたから驚いただけ」
何かが体内の奥深くに入り込んだような感覚に、隆也は思わず声をあげてしまった。
ただ、嫌な感じはしない。依然目を閉じたまま精神を集中し、こわばっていたロアーの腕の力が和らいでいる。
おそらく、うまくやりとげたのだろう。
「まさか、そんな方法で壁を突破するなんて……すごいよ、ロアー。さすが、俺たちのリーダーだ」
そう呟き、隆也はロアーの度胸を素直に称賛する。
どこまでできるのかは不明だが、素質を作り変えることは、おそらく可能である。それは、隆也が最初にそれを試みたときに感じていたことだ。
だが、どうやらそれはこの世界にとってはダメなことだったのかもしれない。正体不明の警告と攻撃を受けて、隆也は一時撤退を余儀なくされた。
隆也の能力を元通りにする、もしくは新たなものを作り上げるために、越えなければならない障壁。
それを正攻法で突破するのではなく、『壁をどうこうする』という過程を省略するメイリールの異能を真似して、障壁をすり抜けるというやり方。
それこそ、ロアーが考えた『一か八か』のすべて。
隆也はゆっくりと深呼吸し、体の痛みや異変、何かが起こっていないかもう一度探ってみる。
問題ない。隆也も、そしてロアーのほうも。
現在、四人の守りは盾の姿となったエヴァーが一手に引き受けている。思わず身震いするほどの夥しい魔獣たちの大群だが、彼女が展開した防衛線を一ミリたりとも越えることができてない。
思わず苦笑してしまうほど、この場には明らかにそぐわないオーバースペックの時間稼ぎだが、エヴァーがこの場所にいるということは、詩折もじきこの場所に降りてくるということだ。
隆也の能力を奪ったことによってさらに歪で凶悪な存在になった詩折の能力は計り知れない。
絶対防御のエヴァーの盾も、場合によっては抜かれてしまうかも――なので、その前までには
「――ああ、もう。本当に、この役立たずどもが」
そんな声とともに、炎や氷、雷など様々な属性を纏った無数の魔力光が、降り注いだ。
「o――」
「g――」
躱す隙間なく、敵味方関係なく浴びせされる魔力光線によって、まともに悲鳴をあげることすら許されず、その場の魔獣たちが一瞬のうちに燃え尽きていく。
隆也たちは、上から覆いかぶさるように展開されたエヴァーの防護壁によって被害は避けられたが、やはり尋常でない威力なのか、それまで無傷だったエヴァーの本体が一部焼損する。
やはり、万全の状態で迎え撃つというわけには――。
「せっかく私がチャンスを与えたやったのにさぁ、……まったく、炭になっても邪魔ね」
魔力光によって真っ黒な物体となった虫や魔獣たちが、詩折の蹴りによって完全なる灰となって周囲に飛散する。
能力で操っていただけでとはいえ、それまで詩折の命令を忠実に守っていたはずの味方に対して、足蹴にしたりに踏みつぶしたり。
確信した。
やはり、彼女は自分以外のことを『自分の目的を満たすために存在するだけの道具』としか見ていない。
今は執着されているが、もし詩折が隆也に飽きてしまえば、まるでいらなくなった玩具を捨てるようにして、隆也に対しても同じことをするだろう。
「うふふ。こんにちは、名上クン? ご機嫌いかが?」
「……最悪だよ。もちろん、君のおかげでね」
「あら、なんて反抗的。……ああでも、そのほうがやりがいがあるか……うふふふふ、たのしみ」
邪悪な笑みを湛えたまま、詩折は見下すような視線を隆也へと向ける。
これからどうやって隆也のことを虐めて、いたぶって楽しんでやろうか――頬を赤らめて体を悶えさせる彼女は、どうせそんなことを考えているのだろう。
「ねえ、水上さん。俺がここで『参った』って言ったら、どうする?」
「もうダメ。時間切れ。私、これでも結構怒っているの。だからここにいるお邪魔虫は全員やっつけちゃうし、名上クンも、ご主人様にかみついた罰として、絶対に死なせないよう、細心の注意を払ったうえで――」
瞬間、詩折の指先に魔力が収束する。
「そしていたぶってやるんだからッ――!」
『むっ……!』
詩折の指先から一直線に伸びたオメガレイを、エヴァーは三枚の盾で受け止めた。
盾の形状をたくみに変更させ、真正面から受けることのないよう、ギリギリのところで受け流す。
「あはは……! ほら、次、次次次!! がんばって、森の賢者ぁっ。がんばらないと、後ろの大事な大事な『あるじ様の代替品』に、風穴が開いちゃうよお? もう寂しさを紛らせなくなっちゃう!」
『貴様……ぶっ殺す』
「ダメよ。こんな簡単な、安い挑発に乗っちゃ。でないと――」
――【
二つの異能を行使した詩折の魔法攻撃がさらに激化していき、
「――みんなみんな、消えちゃうかも」
全身から迸る魔力が詩折の両手に集中、その瞬間、容赦なく放たれる。
「エクスレイ」
穴の中、いや、山全体すらまるごと飲み込んでしまおうかというほどの極光に辺りが包まれる。
『うっ……く……!』
「ふふッ! さあさ、いつまで耐えられるかしら? 十秒? それとも二十秒? せいぜい壊れないように頑張って、ね!」
ドン、という衝撃とともにエヴァーの防御壁が徐々に押し返されていく。
十センチ、五十センチ――全てを塵にする詩折の魔法が、四人のもうすぐそばに迫っている。
ビシ、と音を立てて、エヴァーの盾にヒビが入る。貫通しているわけではないが、このままヒビが大きくなれば、そこから瓦解していく。
「いーち、にーい、さーん……あら、このままじゃあ十数えるまでもなく――」
そこで詩折の眉がぴくりと動いた。
『ふふ……どうした? 数は、数えなくていいのか?』
「死にかけのくせして、ならお望み通り――」
だが、そこで詩折は気づく。
砕ける寸前まで来ていたはずの『盾』のヒビが徐々に小さくなっていることを。
隆也に及ぶ影響のことを考え、出力はまだセーブしている状態だが、それでもエヴァーを破壊するぐらいなら十分な魔力量のはず。
だが、後少しというところで粘られる。いや、むしろ押し返されている。
出力を上げてみる。再びこちらが優勢になるが、だが、寸前のところで踏みとどまられている。
どういうことだ。
「! まさか、いやでも……!」
瞳を凝らしてエヴァーを見る。
そして気づく。
このような絶望的ともいえる状況にも拘わらず、なぜか自信に満ち溢れた顔で、エヴァーを支える四人の人間たち。
その中心にいるのは、やはり、隆也だった。
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