第2話 転移


 隆也を含む三十八人の少年少女達全員が、得体の知れない世界へ飛ばされたのは、修学旅行中のバス事故が原因だった。


 スキー合宿の名目で、山奥のゲレンデへと進んでいる最中、バスを運転していた運転主が心臓発作を起こし気絶。操作を失ったバスは暴走し、そのままガードレールを突き破って崖を転落していったのだ。


 右へ左へ、上へ下へと、バスという鉄の箱の中で、思い切りシェイクされるように谷底へと落下していったところまでが、隆也の記憶に残っている部分である。


 どう考えても助かりようのない事故。


 しかし、彼やその他三十七人のクラスメイト達は、なぜか全員目を覚ますことができた。引率の教師や、バスの乗務員たちの姿はない。


 あるのは、太い蔦のようなものに幾重にも巻き付かれたバスの残骸だったのである。


 そこから、隆也や明人、そしてクラスメイト達のサバイバルが幕を開けたのだ。


 × × ×


「――すまない、名上。こんなことになって」


 話し合いという名の学級裁判を終え、隆也が自身の荷物を纏めていると、取り巻き連中の話の輪から抜けた明人が話しかけてきた。


「いや、別に……仕方ないよ。パーティの中で唯一役立たずだってのは、俺も十分に自覚してたし」


 事故に遭ってから一カ月ほど経つが、その間、訳も分からずただ生き抜くしかない彼らを襲ったのは、実に苛酷なものだった。


 見たこともない異形の生物と遭遇したり、意味不明な言語を口走る野盗どもに昼夜問わず襲撃を受けたりと、ただでさえパニック状態に陥りそうな状況で、これまで犠牲者が一人もでなかったのが不思議なほどである。


 なぜ、彼らが今もなお生きながらえることが出来たのか。


 それを可能としたのは、命の危機にさらされる度、クラスメイト達に発現した、数々のスキルだったのである。


「春川君。今、どんなスキルを使えるようになった?」


「? ああ、えっと……武器の扱いは、飛ばされた当初の時よりは出来ていると思う。狩りの時間もどんどん短縮出来てるし、ここら辺にいる魔獣たちの類なら、今はもう一対一で戦えるしね。後は……最近、手から電撃が出せるようになったよ」


 言ってから、明人が掌に意識を集中させると、パチッ、という何かが弾けるような音とともに、青白い電撃のようなものが小さく閃いた。


「魔法、ね。さすがは委員長だ」


「大したもんじゃないよ。魔法だけなら、もっとすごいのを使えるヤツもちらほらいるしね」


 集団のほうへ目をやると、彼らはすでに朝食の準備を始めていた。


 クラスメイトの一人に死刑宣告とも言うべき仕打ちをしておきながら、もう隆也の存在など完全に消し去って雑談し笑っている。


 あいつらは、本当に同じ人間なのだろうか。


「……どうしてアイツらには出来て、俺には出来ないんだろう」


 言って、隆也は自身の手を見、何度も念じてみた。しかし、やはり明人の電撃とは違って、何も起こることはない。


 ほぼ全員が『魔法』や『武芸』といった生き残るために必要な『力』を獲得するなか、隆也だけが、未だ、これといった能力をもっていなかったのである。

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