第18話 大樹の根
通用口から外にでた面々は、フェイリアの指示のもと、すぐに測定の準備に取り掛かった。
「う~ん、久しぶりにこの大きさのヤツ見たばってん、やっぱ大きかね~」
ギルド敷地内にあるちょっとした庭のスペースいっぱいに広がったツリーペーパーを眺めたメイリールが感慨深げに言う。口ぶりから彼女もこれを使ったことがあるようだ。
そういえば、彼女やダイクがどんな素質を持っているのか、隆也は未だに知らない。
格好から考えればメイリールが癒しの力に長けていて、ダイクが剣や体術などの近接戦闘に優れていると思うが、どうにも引っかかるところがある。ロアーは……多分普通なので割とどうでもいい。癖のありそうな二人をして『リーダー』と言われるわけだから、優秀であることに疑いはなさそうなのだが。
「――我々生きとし生けるものには、産まれ出た時より『素質』が存在する。出来ること、出来ないこと。それを、神より与えられし寿命の中で経験し、学び、そして成長していく。だが、誰しもが自身に眠る『素質』を完璧に見定めることができなかった。種族、家柄、生まれた土地、家族や友人、それに恋人……諸々の要因でな」
隆也の隣に立ったフェイリアがそんなこと言う。
彼女の考えは間違っていない。そう、隆也は思う。というか、元の世界ではほとんどがそうだろう。毎日毎日やりたくもない勉学に励んで進学をし、そこを卒業をした後は、皆一様に似たような一張羅を着込み、同じ電車にのり、日々の生活のため、やりたくもない『仕事』に毎日耐え忍んでいる。
もちろん、自身の才能をいち早く見つけ、開花させ、場合によっては巨万の富を得る者もいる。だが、それが出来るのは運のよかったほんの一握りの連中だけだ。
もし、世界に誇れるような『素質』をもった人間でも、選択を誤れば、それはただの宝の持ち腐れになってしまう。
素質や才能なんてものを作っておきながら、それを等しく開花させない。
そんなふうにできている『世界』とは、まったく、なんて不親切なのだろう。
「だから、我々の祖先は考えた。どのような素質があるのかを予め知ることで、できるだけその『選択』を誤らないようにできないか、と」
「それで出来たのがこのツリーペーパー、ということですか?」
「うむ。といっても、これも結構な貴重品で、この世界全てに広く出回っているわけではないからな。タカヤ、妾も知らないであろう、お前のいた
もし、現代版のツリーペーパーがあれば、どんなに楽だろうと思う。あちらの世界で強く生き抜くような素質が隆也にあるとは到底思えないが、少なくとも、無駄な努力をすることだけは回避できるのだから。
「副社長、準備はこれでいいですかね?」
「ああ、すまんな」
作業を終えたロアーにフェイリアが応じると、彼女はそのまま隆也の背中を、自身の小さな手で、ぐい、と押し出した。
「タカヤ、先程と同じ要領だ。あの円の中に手をついて、しばらくじっとしていろ。紙が大きい分だけ生命エネルギーは多く吸収されるが、心配はない。一日休めば治る」
「それ、逆に一日休まなきゃならないほど体力奪われるとも言えませんかね……?」
「つべこべ言わずさっさと行かんか。妾は副社長だが、ここの一社員でもある。請け負った仕事もあるし、暇ではないのだぞ」
「わかりましたよ、もう……やります、やりますから」
急かされるまま紙の中心に押し出された隆也は、フェイリアの指示通り、やはり隆也には解読不能な文字で描画された円の中心に自身の手のひらを置く。
瞬間、熱された液体に触れたかのように、手のひらから熱い感触が襲った。
「っ――」
「手を離すな。針に刺されるのと同じだ、じきに慣れる」
注射なんかよりよっぽど痛いんですけど、と言い返そうとした隆也だったが、その言葉は、ツリーペーパーに起きた変化によって、喉の奥へと引っ込んでいった。
「え……なに、これ……?」
代わりに出てきたのは、そんな言葉。
「うおっ……!?」
「マジかよ、コイツ……!」
「タカヤ……!」
「ふむ……やはり、妾の見立て通り、いや、それ以上かこれは……」
他の四人も、反応は様々だが、そろって驚愕を顔に張り付けているのは間違いない。
「あの、フェイリアさん。俺、これ……どんな素質があるっていうんです?」
戸惑う隆也の視線に広がっているのは、大きな紙の下半分をびっしりと埋め尽くすように描かれた、幾重にも枝分かれをした大樹の根っこのみの絵。
「タカヤ、これは……お前の中に眠っている『素質』は……」
フェイリアは、口調を僅かに震わせつつも、続けた。
「生産・加工系統の、所謂『根っこ』系……その全てを、おそらく、タカヤ、お主は極めることが出来るぞ」
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