第317話 その時を待つ仲間たち
※※
一方、腹を決めて眠りについた隆也から離れ、港街のベイロード。
一日を終えた真夜中、ようやく街の人々が眠りにつこうといったところ。
夜の帳がおり、暗闇に包まれたベイロードの道を、銀の毛並みを輝かせながら疾走する一匹の狼があった。
「――ただいま」
「お帰りなさい、ミケちゃん。どうだった?」
「ここらへんを飛び回っている動物たちに訊いてみたけど、今日も特におかしいところはなかったって」
人の姿に戻ったミケを、メイリールが出迎える。
ほとんどの店や家屋が明かりを落とすなか、ここ、シーラットに限っては二十四時間体制で店を開けていた。
数か月前、新しい自分の相棒を作るため、ラルフとともに深海へと赴いた隆也が、島クジラなる巨大生物に飲み込まれ、行方不明となってからずっと。
「エヴァー殿……タカヤの安否はまだわからないんですか?」
「残念ながらな。おそらくエルニカが使ったような魔法の妨害術式かなにかで、ペンダントを通して繋がっていた回線が切れてしまったのだろう」
エヴァーですら、隆也が生きているのか死んでいるのかすらわからない。
傷だらけでなんとかシーラットに帰還してきたラルフは死んでないと必死に言っているが、状況から言うとかなり厳しい状態であることは間違いない。
「――ただいま戻ったっスけど……魔王様たちのほうも手出しは出来ないみたいっス」
魔界へ情報収集に行っていたムムルゥが帰還してきた。
ちなみにラルフとともに島クジラや、隆也の救助を妨害してきたという謎の少年とも戦ったモルルも、左目が潰されたラルフ同様、かなりの怪我を負ったままで、もうしばらく治療に時間がかかるという。
また、本来であれば頼りになるはずの海の賢者も、境界付近の海域で姿を消して以来行方知れず。
世界でも指折りの剣の実力を持つラルフと、魔界で急速に力をつけてきたモルルが手も足も出ずボロボロにやられた挙句、犯人の素性すら掴めていない。魔界、そして雲の賢者が率いる雷雲船のメンバー、さらに、シーラットのメンバー全員が総力をあげているにもかかわらず、だ。
「……俺のせいだ。俺がもっとちゃんとやっていれば、こんなことには……」
隆也の仕事場である地下の工房の隅っこに腰を下ろしていたラルフが呟く。
戦いで負った左目の怪我は未だ治らず、定期的に包帯を変えなければならない状態で、回復魔法や解呪魔法も効果がない。
「お前の気持ちはわかるが、こうなった以上は我が弟子のことを信じるしかないだろう。そのために私たちが出来ることは、とにかく機を待つことだ。強力な妨害によってこちら側から行動をとれない以上な」
もちろん、隆也が島クジラなる巨大魔獣の体内に取り込まれたという報せが飛び込んできた時点で、ほぼ全員が即座に海域へと集結したものの、いつの間にか島クジラは転移魔法によって姿をどこかへくらまし、ラルフとモルルの傷つけた少年とやらも行方知れず。
ラルフの話によれば、妨害者は島クジラの行動をサポートする魔法使いらしき存在と、それから戦闘担当の少年のたった二人。
そのたった二人に、おそらく世界最強の集団といっていい隆也の仲間たちがいいように遊ばれているのである。
ラルフにとっても、エヴァーにとっても、そして魔界側にとっても、この事実は屈辱以上の何物でもなかった。
「お邪魔します――うちのバカは……ああ、まだそんなトコにいるの? いい加減帰ってきなさいよ。一応、みんなも心配してんだけど」
「リファイブか……俺の仕事はまだ終わってねえぞ」
「終わりよ。目的のものの採取が出来なかったうえ、依頼主を守ることもできなかった。仕事は大失敗」
冷静な口調で、リファイブはラルフを見下ろして事実を告げた。
すでにこの案件はラルフ一人でどうこうできる次元ではない。
それは彼も理解できているはずだが。
「っ……大切な
拳を握りしめて、ラルフは思いきり壁を殴りつけた。
彼の過去に何があったのかはこの場にいるほとんどの人間にはわからないが、手のひらから血がにじむほど強く握りしめているから、彼も彼でまた辛い過去があるのだろう。
そのこともあって、シーラットの面々がラルフを責めるようなことは一切しなかった。
「……で、なんの用事だ? まさか、今さらコイツのことを引き取りに来ただけというワケでもあるまい」
「まあね。……ディーネが見つかったわ」
「!」
その報告に、部屋全体の空気に緊張が走った。
「マジか……で、無事だったのかよ?」
「何とかね。まあ、わりと危なかったけど……ギリギリ破壊されてなかったから大丈夫。今はウチの船で面倒見てるわ」
リファイブの話によると、ディーネは、境界からもっとも近い無人島の砂浜に流れ着いたところを、ちょうど付近を探索していたアルエーテルたちによって発見されたようだ。
ディーネは元々『鎧』として作られており、防御性能に関しては六賢者の中で最も高いという。そのおかげで難を逃れた可能性が高いという。
「……とにかく、ディーネさえいればほぼ全ての海の探索が可能になるから、そうすれば島クジラの位置がつかめるかもしれない」
「ということは、」
「ええ。こちら側からは多分まだ何もできないけど、状況が動けばすぐに対応できる」
彼らが動けない理由としての一つとして、もちろん島クジラの居場所が特定できないというのもあるが、もし島クジラを特定できたとしても、おいそれと攻撃を仕掛けられないからだ。
島クジラの体内には、おそらく隆也がまだ残っている。そんな状態で派手に攻撃を仕掛け、もし隆也に何かあったとしたら、それは本末転倒でしかない。
だが、しかし、状況が動いて、もし隆也が自力で島クジラから脱出し、その身柄を確保することができれば。
反撃に出るとすれば、そのタイミングしかない。
「ねえ、エヴァー……久しぶりに、『アレ』使ってみない?」
「『アレ』か……まあ、島一つ吹き飛ばそうっていうんなら、あれほど適した代物はないが……修理は出来ているのか?」
エヴァーの問いに、リファイブはニヤリと笑って頷いた。
「ついさっき、ね。ここの社員のロアー君に無理言って……ありがと、ロアー君」
「――依頼料は言い値ですからそのつもりで」
リファイブの後から、フラフラの状態となったロアーが現れる。どうやら、先程までずっと彼女の元で仕事をしていたらしい。
「……なんか話が見えねえけど、もしかして『神雷砲』のことか?」
「そだよ。『炎』と『光』の核が壊れちゃったから最大出力とはいかないけど、それでも十分な威力が期待できる――我ら六賢者の創造主であるマスターが作った雷雲船に搭載された、唯一で最強の
そう、彼らとて全ての希望が潰えたわけではない。
彼らもまた、来るべき『その時』――隆也の救出が叶った時のことを信じて、しっかりと牙を研いでいる最中だったのだ。
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