第117話 創魔人将タカヤ


「……あの~、刀崎さん、今、なんと?」


 新しい。四天王。

 

 光哉から告げられた言葉に、隆也は訊き返した。


 訳が分からない。なぜ、自分が魔界の、しかも、魔王直属とも言っていい四天王にならなければならないのだろうか。


「いや、だってさ。斬魔鬼将死んだじゃん? んで、誰か新しいヤツをそこに座らせなきゃじゃん? 誰が適任かってなるじゃん? 斬魔鬼将をブッ倒したのはお前じゃん? 倒したやつが後釜に座るのが自然じゃん? だから」


「戦ったのはムムルゥさんで、俺はただ後ろで見守ってただけなんだけど」


「でも、そのムムルゥに作戦やらなにやらを全部授けたのはお前だろ? アイツ自身も『タカヤ様の作戦のおかげだ』って、めっちゃ嬉しそうに語ってやがったし」


 確かに、魔槍を創り、魔剣の情報を伝え、そして転移魔法の発動する手紙を渡したのは、全て隆也である。なので、見方によっては、隆也がムムルゥを使ってライゴウを倒したのだ考えることは間違っていない。少なくとも、ムムルゥはそう思っているわけだ。


「でも、俺、ヒトだよ? 光哉みたいにティルチナさんの眷属になってるわけでもない。そんなの、他の四天王が認めるの?」


「認めさせるさ。なんせ、俺は魔王代理だから。チナちゃんも、別にいいだろ?」


「うん、いいよ。タカヤくん、やさしそうだし」


「ほら、本物の魔王からもオッケーが出たぞ」


「か、軽いなあ……」

 

 やさしそう、という随分とゆるい理由で採用された隆也だったが、それでもこの話を受けるわけにはいかない。


 隆也にはすでに帰るべき家があり、迎えてくれる人達も大勢いる。四天王を倒すことになったのも事の成り行き上、仕方なくなのだ。


「そこらへんは俺がちゃんと考えてるから。ほれ、さっさと行くぞ」


「あ、ちょ、光哉ってば——!」


 半ば強引に連行される隆也である。彼自身も、そうはさせじとささやかな抵抗はしたが、すでに人間を辞めている光哉の力に勝てるはずもなく、引きずられるようにして、隆也は現四天王の待つ部屋へと連行されてしまうのだった。


 ×


「――よう、待たせたな」


 光哉、ティルチナ、隆也の順で入室すると、一斉に、現四天王たちの視線が、魔王であるティルチナと、その全権代理である光哉へと向けられた。


 隆也達以外で、部屋に集まっているのは、四人と一匹。


 まずは、ニコリと微笑んで隆也のほうへ軽く手を振ってくる『魅魔煌将』ムムルゥ。その隣に母親のアザーシャ。この二人はすでに顔見知りなので問題はない。


 ということで残り二人と一匹である。


「あらぁ、コウヤちゃんお久ぁ~。相変わらず元気そぉねえ~」


「ようゼゼ、お前も調子よさそうで何よりだ」


「えぇ、ようやく魔界の瘴気にもなれてきたところぉ~。今なら、に居た時と同等の力が出せると思うわぁ~」


 まず光哉に話しかけたのは、白と黒の翼を背中に生やした金髪の女性だった。アザーシャに匹敵しようかというほどの体型と、胸元を大きく開けた派手な純白のドレスに、隆也は思わず目を逸らしてしまう。


「隆也、アイツは『降魔天将ごうまてんしょう』ゼゼキエル。堕天使族だ」


「ふふ、どんな顔をしてるかと思ったら、コウヤちゃんに負けず劣らずおいしそうなコねぇ。ねぇ、そこにいるガキンチョなんかやめて、こっちに鞍替えしなぁい?」


「あの、えっと……」


 碧と金、色の違う瞳を持つゼゼキエルが、興味津々と言った様子で隆也に近づこうとするも、彼女の伸ばした雪のように白い手が隆也の頬に触れる寸前、横から伸びてきた褐色の手によって阻止された。


「あらぁ? どうしたのぉガキンチョさぁん? 子供はもうオネンネの時間じゃなぁいぃ?」


【……D<9、HCF”F”#】


【##!?? ”zB_X!!】


 魔界語でのやり取りの後、ムムルゥとゼゼキエルの二人が、取っ組み合いを始める。多分、口汚い言葉で罵り合ったのだろう。子供が何だと言っていたから、多分年齢のことでムムルゥが痛いところを突いてしまったのかもしれない。


「――二人とも、その辺にしておかないか! 魔王様の御前ぞ!」


 ヒトの言葉でいがみ合う二人を一喝したのは、全身を黒い鱗で包んだ龍だった。龍というとドラゴンゾンビのように巨大なイメージがあるが、こちらはそれと比較すると小さい。ワイバーンくらいだろうか。


「うっさいのよぉ、トカゲェ~。この『星杖』で、アンタを先にすり潰してやろうかしらぁ~?」


「喧嘩ならこの後でいくらでも買ってやる。だが、今はコウヤ様、ティルチナ様のお話が先だ。魅魔煌将、お前も少しは抑えろ」


 杖から迸る得体のしれない魔力をもった降魔天将にも、黒龍は一切怯むことがない。その黄色に輝く瞳をまっすぐ二人に向けている。


「……ちっ、わかったわよぉ~」


龍魔閻将りゅうまえんしょう……すまんっス」


 一呼吸した後、少しだけ冷静さを取り戻した二人が、すごすごとそれぞれの席へと戻っていく。


 そして、そんな二人を黙ったまま見つめる、もう一人の四天王。


「おっきい虫……わたし、あの人、ちょっと苦手」


「あいつは、綺魔蟲将きまちゅうしょうのノブドだ。あんまり喋る奴じゃないからチナちゃんも敬遠気味にしてるが……命令には忠実だ」


 人型ではあるが、どちらかというと、彼女(もしくは彼)は、虫のようにも見える。ハエを模したような頭部、透明な羽。体は頑強そうな殻で覆われていた。

 

 魅魔煌将、降魔天将、龍魔閻将、綺魔蟲将に、そして魔王。


 死んだ斬魔鬼将を除いた現在の魔界の頂点が、今、この部屋に集結している。そして、


「――さて、と。静かになったところで改めて紹介するぜ。こいつはタカヤ。ライゴウの替わりとして、新たに四天王となる『創魔人将そうまじんしょう』だ」


「あの、えっと……よろしくお願い、します……?」


 ご丁寧に新たな称号まで魔王から賜ってしまった隆也が、なぜだか加わってしまったのだった。

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