第304話 探索開始
島クジラの体内に入っておおよそ二日が過ぎた。
デコとミラに助けられたことにより、ひとまずの拠点が出来たところまでは良かったが、問題がいくつか。
思うように睡眠がとれず、疲労が取れていない。生物の体内という特殊な空間なので仕方がないことだが、常に真っ暗なため体内時計が狂ってしまうのだ。
時計のほうはあり、できるだけのその時間に合わせて就寝をするのだが、疲れていても、1、2時間ほどですぐに目を覚ましてしまうのだ。
中途半端な睡眠と覚醒を繰り返すことで、常に体の中に疲労感が残る。
デコとミラは『いずれは慣れる』と言っていてはいたものの、慣れると同時に、一生ここから出られないのではないかという不安も駆られる。
そして、相変わらずモルルやラルフ、もしくは仲間たちからの救援はない。
やはり、ここは一人で突破しなければならないか。
「――起きたかい? じゃあ、そろそろ出発しようか」
「はい」
起きて食べ物をお腹に入れたところで、隆也はデコとミラ、二人とともに拠点から出発した。
今回は、二番目の胃の中の探索である。
最終的な目標はもちろん島クジラからの脱出だが、現在の隆也のもつ装備や道具でははっきり言って足りない。
ラクシャから借りたセイウン
事前に調合した回復薬(残りあと2本)
ダークジャークの発電・放電器官
プラスチックの切れ端
以上の四つ。特に回復薬に関しては足りない。もちろん魔力錬成による素材自体の創造という裏技はあるが、魔力錬成によって素材を生み出しても、
【魔力錬成によって削れた体力その他を回復させるための回復薬の量>調合できる回復力の量】
となるため、備えを増やすと言う意味でははっきり言ってあまりやる意味はない。
なので、そのための素材探しと、後はその他、脱出に使えるものがあるかどうかの探索だ。本来の目標を達成するための、準備段階。
「――ここの入口はまだ大きいけど、一応、消化物に足をとられないように気を付けて。流砂みたいに動けば動くほど体が沈んじゃって身動きがとれなくなるから……こっちよ」
第二の胃へ、消化液によって泥状になったものが、非常にゆっくりとした動きで流れていく。一応布で鼻を覆ってはいるが、色々なものがまじりあっているのか、ものすごい異臭がする。
第二の胃の内部は、ところどころ消化されていなかったり、または消化前に固まってしまった未消化物を足場にして進んでいく。
ミラが使用していたあの可燃物や薬に使えそうな素材など、めぼしいものは何一つないが、奥へ奥へ行く分にはそれほど難しいことはない。
「なんだ簡単だな、って顔してるね。でも安心していいよ。タカヤ君もすぐ僕たちの言っている意味がわかると思うから。
「はあ……」
それから時折休憩をはさみつつ、隆也たち三人はついに第三の胃への入口へ。
こちらは先ほどと較べてかなり入口は小さい……といっても数人が通れるほどはあるが。
「……なるほど、確かにこれはちょっときついかも」
第三の胃は、第二の胃からぶら下がるような形で繋がっていて、これまでのように前へ行くのではなく、下に降りなければならないような構造となっている。
まともな足場は、胃壁から生えている謎の突起物と、それから胃の上部からいくつか垂れ下がっている蔦状の何かである。突起物を足にかけつつ、蔦に捕まって、降りるタイプのようだ。一番下に降り切ると、次の道へと続く穴が待っているのだが、
「!! デコさん、ミラさん……嫌な予感がするんですけど、あの下部の消化液だまりの中をいっぱい泳いでる黒いのって、まさか――」
「……ああ、この前僕たちがダークジャークの大群だよ」
胃部の最後の番人と言わんばかりに、大量の黒蛇が、隆也の足元のちょうど真下で蠢いている。まだ隆也たちに気づいた様子はないが、もしここで手か足を滑らせ、大群のど真ん中に落下しようものなら、それはもう一巻の終わりだ。
もしここに飲みこまれたのがラルフであれば、おそらく一撃で殲滅出来ただろうが、隆也ももちろん、デコやミラはまだその域にはまったく及ばない。
なるほど、確かにここは難関だ。
しかし、同時に、隆也にとってそこは魅力的な場所でもあった。
例の爆発物が、液だまりの中にいくつか浮いていたのだ。目を凝らすと特に第三の胃の出口付近に多めに浮いているのがわかる。
出口付近はすでに完全な液体となっていて、絶えずその先へ送り出す動きをしているが……もしかして、その際に何かのはずみで逆流しているのだろうか。
「ん、待てよ、逆流……」
ここで、隆也はあることに気づく。
「デコさん、俺が飲まれる少し前に、多分胃の内部が逆流してませんでしたか?」
「? あ、ああ……未消化分が多すぎる場合は、たまに第二第三の胃から内容物が逆流してくることはあるよ。今回はやけにその量が多くて不思議に思ったけど……」
「なるほど……」
隆也は、この場所に来る直前の、深海での戦闘のことを思い出していた。
島クジラの口から出てきた大量のダークジャーク。あれは、おそらく第三の胃で生息している個体を吐き出して援軍に送ったものだ。
対峙した相手を敵と判定した時、胃の内容物を逆流させて敵を迎撃する――そんなシステムをとっているのかもしれない。
「ということは、もしそのシステムをうまく誤作動できれば――」
「タカヤ君……聞きたくないけど、なんか危ないこと考えてない?」
「……冒険に危険はつきものですから」
デコの問いにそう答えて、タカヤはいったんこの場を引くことにした。
材料集めの次の目標が決まった――あの難関をなんとかして突破しなければ。
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