第322話 二人からの招待
「そんな……」
信用していたはずの二人のあまりにも予想外の正体に、隆也は呆然とするしかない。
これまで数か月、寝食をともにし、時には心の折れかかった隆也を支えてくれた彼らが、まさかの『本当の敵』だったとは。
確かに、彼らがどこかで隆也のことを監視しているとは思っていた。彼らには、この世界の人々と一線を画す能力があり、その何らかの方法であの『ゲーム』の行方を楽しんでいたと。
だが、まさか、隆也のことをそんなにも近くで観察していただなんて。
「ということは、島クジラの中にいたとき俺のことを助けたのも、精神的に辛い時に励ましてくれた時の言葉も……」
「うん、心からの言葉っていうわけじゃないかな。あのゲームにおいて、私――いえ、『ミラ』はアナタのゲーム進行をほんの少し簡単にするためのお助けキャラだから。もちろん『デコ』も」
「まったく、あんな紋切り型の励ましに心動かされちゃって……名上隆也、お前は本当に救いようのない愚か者だな。もうちょっと『疑う』ってことに脳みそを使えよ。そんなんだからお前はあのイカレた副委員長さんにすら遅れをとったんだ。僕ならあんなヤツ瞬殺なのに」
「! どうしてお前、水上さんのことを……」
少女のほうはわからないが、少年のほうはどこかで見覚えがあるような――詩折のことを知っているということは、元クラスメイトの一人ということか。しかし、記憶にない。
「こらこらゼンヤ。タカヤ君も能力を使い切って疲れてるんだし、そもそも私たちだってバレないように変装はしてたわけだから、そこまで言うのはかわいそうでしょ」
「! おい、僕の名前――」
「っと、これはこれは、つい口が滑っちゃった。ごめんね、ゼンヤくん」
「ああそう、わかったよ。ナユタ」
「ふふっ、お返しってわけかい? まあ、私のほうは元から自己紹介はするつもりだったからいいけどさ」
ゼンヤにナユタ。それが彼らの名前ということか。
そして、おそらくは隆也や光哉と同じく転移者ということになる。
「ごめんね、タカヤ君。うちのゼンヤ君が言い過ぎちゃって。でも、彼が言うように私たちの存在が出来過ぎているっていうのには気づいて欲しかったな。島クジラの体内、確かに過酷ではあったけど、色々とご都合主義がひどかったわけだから」
絶妙ともいえるタイミングで出てきた二人、そしておあつらえ向きにミラに備わっていた『着火』の異能――言われてみればそうかもしれないが、しかし、まともな助けもない危機的状況でそこまで考えている暇はなかった。
「キミらが化けていたってことは、本当のデコとミラはもう――」
「うん。生きてはいたみたいだけど、キミが飲み込まれる少し前に……ね。私たちはその情報をもとに魔法で変装しただけだよ。うまくバレずにやり過ごせたら面白かったんだけど……さすがにそこの彼の目までは誤魔化せなかったみたいだ」
「……当たり前だろ。テメエらみてえな下種が俺の友達を騙ってんじゃねえよ」
そう言って、ラルフは剣の切っ先を二人へ向ける。
ゼンヤとナユタ、二人の体はラルフの攻撃を受けて全身が血で真っ赤に染まっているが、話している限りではまるでダメージを受けている感じは見受けられない。
「おいおい金髪ヘッド。キミも懲りないヤツだな。そうやってバカの一つ覚えみたいに剣を振り回しても勝てないことは、この前僕がその身に刻みつけて教えつけたやったばかりじゃないか。その左目、まだ完治してないだろ? まあ、僕がいる限り絶対に治らないんだけどさ」
「っ……やっぱりテメエの仕業か。何をした?」
「だから、言うわけないじゃん。これだから異世界人ってヤツは――」
「っと、ダメだよゼンヤ君」
ゼンヤがラルフに向かって手をかざそうとしたところを、ナユタが静止した。
「さっきも言ったけど、今日の目的はあくまで隆也くんを招待すること。こんな完全アウェーでドンパチするのは私が許さないよ」
「随分ビビってるじゃないか。さすがに君でもこの戦力差はきついってか?」
「まっさか~、余裕だよ。そんなことしたらせっかくの楽しみがなくなるからってだけ。せっかく見つけたんだから、もうちょっと味がなくなるまでしゃぶりつくさないと、ね」
「そ。つくづく悪趣味な女だ」
「悪趣味ぐらいがちょうどいいのに……そんなんじゃ女の子にモテないよ」
この世界でも屈指の実力者たちが集結しているこの場にいても、彼らは一切臆することなく、むしろ余裕の表情さえ浮かべている。
実際、彼らがその正体を現した瞬間から、隆也含めた全員が、見えない糸で縫い付けられたように動けないでいる。
ラルフ、ミケ、エヴァーといった実力者、さらに同じ転移者である光哉でさえ。
それだけ、今の彼らには言いようのない謎の迫力があった。
「まあ、それはさておき。ひとまずはゲームクリアおめでとうタカヤ君。私たちのサポートがあったとはいえ、ほぼ自分一人の力でここまで出来たのは称賛に値するよ。それでこそ、私たちの仲間に相応しい」
「仲、間……?」
「うん。さっきも言ったでしょ、今日は君を招待するためにここにいるんだって」
不敵に笑って、ナユタは隆也へ向けてまっすぐに手を差し出し。
「名上隆也君。私たちと友達になってよ」
無邪気な少女の笑顔で、隆也へそう告げたのだった。
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