第254話 復活 1



「――って、感じなわけだけど……わかってくれる?」


 全てを仲間たちに委ねることにした隆也は、ウォルスであったこと、素質について、隆也の知る限りのことをロアーに打ち明ける。


 メイリールとダイクの二人にも聞いて欲しかったところだが、魔獣たちから隆也とロアーを守るための壁となっているため、それどころではない。


「……」


 話している最中も、また、話終わった後も、ロアーは変わらず同じ表情で黙ったままである。


 隆也ですら全貌をつかみきれず、また、謎の多い『素質』についての話だから、その情報を初めて聞かされたロアーの立場なら、なおさら訳のわからない話になるだろう。


 だが、隆也を本当に『元通り』にするのであれば避けては通れない道で、乗り越えなければならない壁もある。


 大変なのは隆也とて百も承知だが、理解してもらうしかない。

 

「ロアー、大丈夫?」


「ああ。だが、少しだけ待ってくれ。……今、考えているから」


 額にじんわりと汗を浮かべ、ロアーは、うつぶせになった隆也の背中に触れる。


 以前、シャムシールの弟子であるレグダの素質改変実験を行ったときは、どこをどう改変するかのイメージを掴みやすくするために、ツリーペーパーが用意されていた。いわば設計図のようなものだが、もちろん、そんな親切な道具など、今の隆也たちの手元になどあるはずもない。


 頼りになるのは、ロアーの頭の片隅にまだ残っているであろう記憶のみ。


「ロアー、まだ!?」


「いい加減、こっちも押し返せなくなってきたぜ……!」


「ああ、わかっている! 頼む、もう少しだけ耐えてくれ」


 これから素質の再生を試みるのであれば、ロアーにはその作業だけに集中してもらう時間がいる。


 これまで見てきた能力や素質なら真似できる異能に目覚めたロアーでも、さすがに複数人分の能力を同時に行使することはできない。


 もう少しだけ、魔獣たちの侵攻を食い止められる何かがあれば。



 ――すまん、待たせたな。お前たち。



「えっ、えっ?」


「うおぅ!? な、なんだこりゃ……」


 メイリールとダイクの頑張りもそろそろ限界に近付いてきたところで、聞き馴染みのある声とともに、空の上から、四人の前に急降下する物体が現れる。


 緑色に発光する、三枚のひし形の金属片のようなもの。


 それが一枚ずつ、メイリール、ダイク、そして、隆也とロアーをそれぞれ守護するようにして魔法壁を展開していた。


『ご苦労だった。あとは、私にまかせろ』


「その声……まさか、師匠?」


『その通りだ。というか、これが私の本当の姿なんだがな』


「本当の、ですか?」


『まあ、その話は後だ。とにかく、私が来たからには、お前らには指一本触れさせん。森の賢者こと『盾』のエヴァー……主からもらった大切な名にかけて』


 ――オートガード。


 エヴァーの声が響き渡った瞬間、三枚に分かれた金属板状の『盾』が、縦横無尽に動き回って魔獣たちのあらゆる攻撃をシャットダウンする。


 遠くから放たれる氷の礫や、虫たちから吐きかけられる酸。そして、牙をむいて迫る魔獣たちそのものの脅威の全てを引き受け、流し、時には拒絶するかのように風の塊を放って彼方へと突き飛ばす。


 ゆっくり、しかし確実に、夥しいほどの黒い影の侵攻を少しずつ押し返していた。


『二人とも、早く加勢にいけ。タカヤには、お前たちの力が必要なのだろう?』


「……はい!」


「なんかよくわかんねえですけど、一応、礼だけは言っておきますよ!」


 後のことをすべてエヴァーに任せ、メイリールとダイクが一目散に隆也とロアーのもとへ。


 一時的な身の安全が保障されたことで、集中力を取り戻したロアーはすでに異能を発動し、『隆也』になりきっている。


 事前にロアーに『素材』を渡している二人が隆也にしてやれることは少ないが、寄り添ってやることは出来る。


 うつぶせになり、苦しそうに喘ぐ隆也の両手を、メイリールとダイクはやさしく握った。


「タカヤ、大丈夫? 痛いとかあったら、すぐに私に言わんとダメよ?」


「へっぽこヒールぐらいなら、いつでもかけてやるぜ。一杯おごりだけどな」


「メイリールさん、ダイク……ありがとう」


 二人のぬくもりを確かめるようにして、隆也はそれぞれの手を握り返す。


「ロアー、続きを」


「ああ」


 メイリールとダイクが見守る中、ロアーは隆也の背中に手を置いて、ゆっくりと体重をかけ始める。


「少しずつ、慎重に……タカヤの体内に入り込むイメージで……!」


 隆也が教えてくれた方法で、ロアーは隆也の『素質』の再生に取り掛かった。

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