スイーツ

「親方、私はふと思ったんだ。」

「何をだぁ?」


ある日の休み時間。

私はふと疑問に思った事があったので親方に話しかける。


「親方ってめっちゃ料理上手いじゃん?」

「へへっ、よせやぃ。照れるじゃねぇか。俺を褒めたって料理くらいしか出て来ねぇぜぇ。」

「梅嶋って背が高くて料理が上手で運動も出来て頭も結構良いわよね。」

「沙耶!?いつの間に!?」


親方の料理の腕の話をしていると、どこから聞きつけたのか沙耶が話に混ざってくる。


「誉めたわよ、たくさん。」

「いや今すぐ出てくる訳じゃねぇぞぉ。」

「飯の為だけに適当言ってるだろ。」

「安心しなさい。嘘は言っていないわ。料理って中華鍋とか使ったら運動みたいだし、料理の知識が詰め込まれてるから頭も良いって事でしょ。」


『飯の為』の部分の否定はしないんだな。

なんて自分の欲望に正直な奴なんだ。


「まぁいいや。話を戻そう。親方の作った料理を食べた事はあるけど、デザート的な、スイーツ的なのは食べた事が無いからさ。」

「それもそうね。全くもってその通りだわ。という訳でさっき褒めたの料理はスイーツで頼むわよ。」

「そりゃスイーツは作った事があんまりねぇからなぁ。精々、調理実習の時くらいだぜぇ。」


そう、親方の作ったご飯を食べさせてもらった事は何回かあるけれど、親方の作ったスイーツを食べた事、どころか作ってる姿すら見た事が無いのだ。

本人もスイーツを作った経験は少ないと語っている。

調理実習くらいとなれば、スイーツに限定すれば私達と同程度の経験と言う事になるぞ。


「やっぱり普段は家の蕎麦屋の手伝いで調理してるから作らないのか?」

「そう言うこった。うちのメインメニューは蕎麦だからなぁ。丼物とかも作ったりはすっけど、デザートはねぇんだわ。」


親方の返した答えは、私の予想通りだった。

まぁパティシエとかになるならまだしも、実家の蕎麦屋を継ぐ予定ならスイーツ作りの腕を磨くよりも、蕎麦とか普通の料理の腕を磨く方が優先順位は高いだろうし、当然と言えば当然か。

しかしそれを聞いた沙耶は真面目な表情で親方に話しかける。


「梅嶋。」

「どぉしたぁ、入屋?神妙な顔しやがってよぉ。」

「あんた、将来は実家の蕎麦屋を継ぐのよね?」

「あぁ、いつかはそうしてぇって思ってるよぉ。」

「それなら未来の常連からアドバイスよ。」


『未来の』と言うが、今でも割と食べに行ってる方だと思うんだけど。

ともあれ真面目な表情だし、茶々は入れずに話を聞いてみるとしよう。


「確かにあんたの作る料理は美味しいわ。しかもこれでまだ発展途上、ここから更に腕を磨くって言うんだから楽しみで仕方がないくらいね。でもね、これから先、お店を発展させていきたいなら、今のままじゃダメなのよ。昨今、どんなお店でもメニューのバリエーションをしっかりと増やしているわ。新しい客層の獲得、これまでの常連客に新鮮さを与える事、これらによって常に生き残りの未来を模索しているのよ。飲食業界について詳しいわけでは無いけれど、ずっと現状維持の進歩が無いお店じゃ、よっぽどのファンでもない限り、いつか飽きられちゃうわ。」

「お、おぉ。な、なるほどなぁ。」

「凄い………沙耶がいつになく饒舌だ………。」


普段はクールと言うか、そんなに口数多く喋る方ではない、人によってはドライと捉えられてもおかしくはない、あの沙耶がここまで熱心に語るとは………

長年幼馴染をやってきたが、こんな姿、滅多に見れないぞ。


「で、つまり結論は?」

「梅嶋もスイーツを作れるようになって、デザートメニューを増やすべきよ。幸い、まだ学生なんだから時間はたっぷりあるでしょ。」

「うん、つまりは自分が食べたいからって事だろ。」

「良いじゃない。あんたも将来、梅嶋のお店に行った時にデザートがあったら嬉しいでしょ?」

「無いよりはあった方が良いかも知れないけど、別にそこまで熱心に………」

「ほら、敦もこう言ってるわよ。」


無いよりはあった方がとは言ったけど、別に無くても構わないんだけど。

仮にあったとしても毎回頼むとも限らないし。

作る側の負担もあるだろうし。

しかし食べ物が絡むと押しが強過ぎないか、この食欲魔人。


「あ、スイーツって言ってるけど、ケーキとかティラミスみたいな洋菓子じゃなくて大福や羊羹みたいな和菓子も良いわね。」

「もう完全に作ってもらう前提になってるし………。」


作る本人がやる気になってから想定、と言うか頼む事だよな、それ。


「まぁそうだなぁ。たまには気分転換に作ってみるってんなら、悪かぇねかも知れねぇなぁ。それこそ、気が向いた日限定でメニューに載せるような感じでよぉ。」

「良いじゃない。味見役なら任せなさい。」

「任されなくても押しかけそうな奴が何か言ってるぞ。」

「任されなかった場合はさっき褒めた分の権利を行使するわ。」

「わっはっはっは!そうだなぁ、そんときゃ頼らせてもらうとするよぉ。」


まぁ親方がそれで良いなら、私は素直に応援するとしよう。

元々この話を振ったのは私だし、それになんだかんだ言いつつ、親方の作ったスイーツには興味があるからな。

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