技術部の

「さて、今度は鐘ヶ崎さんにどんなサプライズをしようか。安達くんは何か良いアイデアは無いかな?」

「さも当然のように私を嫌がらせに巻き込むなよ。」

「嫌だなぁ、サプライズだよ。サプライズ。」

「サプライズって言えば良い感じに聞こえるってだけで言葉選んでるだろ。」


放課後の図書館。

長谷道は当然のように悪巧みをする。

何故この男は息をするように他人に迷惑を掛けようとするのか。


「そもそも、また鐘ヶ崎に怒られるぞ?」

「大丈夫大丈夫。むしろ彼女は真面目過ぎるからね。こういう機会に自分という物を出させてあげないと。」

「善意で言ってるっぽい雰囲気出してるけど、9割くらい面白そうだからって理由だろ。」

「はははは、さて何をしようかな。」


笑って誤魔化すな。

お前が何かしようとする時は善意よりも面白いかどうかで判断してるって、今までの経験から分かるんだよ。

そんな会話をしていると、長谷道の後ろに誰かが立ち止まる。


「…………。」

「ん?長谷道、後ろ、後ろ。」

「後ろ?おや、我が親友、尚江じゃないか!」

「作業着着てるけど、ウチの生徒……だよな?」

「そうだよ。私のクラスメイトであり、技術部に所属する親友さ!」


見た感じ、何らかの業者と言うには若そうだし、一体誰だろうかと思ったが、長谷道がよく語っていた技術部の友人だったか。

そんな事を思っていると、尚江と呼ばれた生徒はペコリとお辞儀をして手を差し出して来る。

私はその手を握り、簡単に自己紹介をする。


「あ、どうも。B組の安達だ。よろしく。」

「…………。」

「尚江は無口だからね。何かを伝えたそうにしているけど、何を言いたいのか分からなかったら私に聞くと良いよ。翻訳してあげよう。……痛っ、冗談だよ、冗談。」


長谷道が通訳になると語るが、それを聞いた尚江は長谷道の肩を引っ叩く。

そして何処からともなくノートとペンを取り出して何かを書き、こちらに見せる。


『無口ではあるけど、必要無い。これがある。』

「え?なんで紙に書いて伝えてるんだ?」

「尚江はシャイだからね。恥ずかしがって喋ろうとしな痛っ、冗談だよ、冗談。」


長谷道が余計な事を言って、またしても尚江に肩を引っ叩かれる。

相変わらず懲りない男だ。

そんな懲りない男は置いておくとして、先ほどから気になっていた事がある。


「ちなみに、結構失礼な事聞くけど、尚江って男子なのか?女子なのか?」


声は聞こえず、見た目は男子とも女子とも取れる、中世的な顔つきに、作業着で体格も分かりづらい。

男子と言われても納得出来るし、女子と言われても納得出来る見た目なのだ。

男子には『くん』付け、女子には『さん』付けで呼ぶ長谷道も名前を呼び捨てにしているから気になってしまった。


「さぁ?」

「さぁ?って………、親友を自称してるのに知らないのか?」

「だって尚江が男子だろうと、女子だろうと、私の親友に変わりは無いし。別に気にしなくても良いかなって。」

「雑だな、自称親友。」


そんなので親友を自称するなよ。

しかし………


『昔、色々あったから。長谷道は雑だけど、それくらいの姿勢の方が気楽。』


尚江にも色々あるみたいで、この扱いで、いや、この扱いが良いようだ。

まぁ今日初めて出会ったばかりで踏み込むのもどうかと思うし、これ以上は深く聞かないでおこう。


「ほら!この互いの事を理解している感。まさに親友と言って差し支えないだろう。」

『親、友………?』

「親友呼びしてる奴からも疑問を持たれてるぞ。」


尚江サイドは親友とは思ってなかったみたいだぞ。

まぁ長谷道は誰彼構わず親友を自称するからな。


「まぁ手先が器用で色々作ってくれるし、面白そうな雰囲気を感じたから仲良くし始めたって言うのもあるんだけどね!」

「めっちゃ自己中心的な本音が漏れてるぞ。」

『変な奴だけど、色々詮索してこないから何でもいい。』

「お………おう。そうなのか………。」


この僅かな時間の中で尚江も変な奴だと感じ、『お前も変な奴に分類されるのでは?』と言いそうになったが、口に出す前にギリギリ止まる。


『それに、長谷道は長谷道だから、誰かが様子を見てないと、とんでもない事をしそうだし。』「あぁ、なるほど。めっちゃ分かる。」

「なんで私の名前が形容詞になってるんだい?私はこんなにも真面目な常識人だと言うのに。」

『鏡って知ってる?』

「もちろんさ。」


結構鋭くツッコミを入れるあたり、なんだかんだ言いつつも、いや書きつつもか?尚江は長谷道と仲が良さそうだ。


「ところで、何か用事でもあったんじゃないのかな?」

『放課後、遊びに行く約束。』

「あぁ、そう言えばそうだったね。という訳で後は安達くん1人で課題と向き合ってもらうよ。」

「え?」

『がんば。』

「え?」


そう言い残して長谷道と尚江は図書室から出ていき、私は1人ポツンと残されてしまった。

常日頃、私の親友面して接してきているくせに、急に見捨てやがったぞ、この男。

まぁ親友として認めた覚えは一切無いし、結構塩対応した事もあるけど。


「えぇ………。竹塚も用事があるとかで手伝ってもらえないし、どうすれば良いんだよ………。」


それでも勝手に親友を自称するなら見捨てるなよ………。

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