気まぐれ

休日のある日、竹塚の家で課題をやっている時の事。

私はふとした思い付きを語る。


「シェフの気まぐれメニュー的なのあるじゃん。」

「そうですね。」

「アレって他の物にも当てはまったりするんじゃないかなって思ったんだ。他の職業とか。」

「主婦の気まぐれ買い物的な事ですか。」

「たぶんそうだと思うけど、単純に夕飯のメニューを決めてないだけでは?」

「シェフも適当に作ってるだけだと思うので大丈夫ですよ。」

「その認識は大丈夫じゃないと思うけどな。」


大分失礼だろ、その認識。

有り合わせで頑張ってるかも知れないし、気まぐれとか言ってるけど、もしかしたら前日とか、それ以前から考えてたメニューかも知れないだろ。

逆に本気で適当に作って美味しいサラダが出来てるんだったら、それはそれで凄いと思うけど。


「他にも大工の気まぐれ建築とか。」

「それは手抜き工事とか欠陥工事って言われるのでは?」

「作りたいものを作るんです。匠の技的なやつですよ。」

「余計な事するなって怒られそうだな。」

「まぁゲームで気まぐれ建築ならやってるので、そう考えれば僕たちも大工の気まぐれ建築をやった事があると考えられますが。」

「私は別に手抜き工事なんてしてないぞ。」


現実でそんな建築業者がいたら誰も依頼しないと思うんだけど。

あとゲームでも私は全力で地面を掘って居住スペースを作ったんだ。

住むことが出来れば良いんだし、洞穴でも立派な家だろう。


「医者の気まぐれ手術。」

「まかり間違っても気まぐれでする事じゃないですよね。」

「ほぼ確実に失敗しそうだぞ。」

「腫瘍を取り除いて代わりにビー玉とか埋め込みそうですね。」

「よく医師免許取れたな。」


なんでビー玉を埋め込むと言う発想が出て来るのか。

マイクロチップとか爆弾ならマンガやアニメに描かれる物語でも埋め込まれそうなのに、敢えてのビー玉。

だただた無意味、どころか邪魔。表皮に剥き出しだったらなんか綺麗かも知れないってくらいしか価値が無い。

そんな医者がいたとしたら、すぐに医師免許を返納してほしいな。

あとマンガやアニメにも登場してほしくない。


「警察の気まぐれ逮捕。」

「ただの横暴じゃん。基本的に誤認逮捕になるじゃん。」

「でも一昔前は結構あったらしいですよ。尋問と言う名の脅迫と拷問で嘘の供述をさせて逮捕とか。」

「マジで!?怖っ!」


目についたから犯人で良いやって発想なのか?

分からないから、とりあえずこいつが犯人って事にしておこうと言う発想なのか?

証拠が無ければ作れば良いって発想なのか?

なんだそのクリエーター魂、怖過ぎるだろ!

そんな世の中じゃ碌に外も歩けない。

現代に生まれて本当に良かった。


「政治家の気まぐれ政策。」

「賄賂で決定しそうですね。」

「警察に気まぐれに逮捕されて欲しい。」

「そもそも気まぐれでマニュフェストを策定している時点で当選すら厳しそうですが。」

「まにゅ………なんて?」

「要するに政治家のこれやるぞって言う主張的なやつですね。」

「なるほど!」


良く分からないけど分かった!

まにゅなんとかを知った事で、また1つ賢くなったぞ。

今後使う機会があるかどうかや、そもそも覚えていられるかどうかは別として。


「アルバイトの気まぐれサラバ。」

「サラバってなんだ?響き的にはサラダっぽいけど、サラダバーって事か?」

「ただのバックレですね。」

「普通に質が悪いだけじゃん。」

「語感は良いんですけどね。」


責任感皆無なだけだろ、それ。

辞めるにしても勝手にいなくなるんじゃなくて、ちゃんと言ってから辞めるべきだろ。

まぁ何も言わずに逃げ出したくなるほど、バイト先が地獄のような環境だった可能性もあるだろうけど。


「サラリーマンの気まぐれ契約。」

「気まぐれで契約って双方にめちゃくちゃ迷惑かけていきますね。」

「なんとなくハンコを押して握手をしたんだろうな。」

「安達も利用規約とか契約内容はしっかり確認するんですよ。じゃないと詐欺に引っかかりかねませんからね。」

「し、してるに決まってるだろ。当たり前。うん、当たり前だぞ。」


斜め読みで。

全部は読む気になれないぞ。

だってめっちゃ長いし、書いてある事が難しくて頭が痛くなるから。

なんか竹塚が凄く疑わしいと言いたげな目で見ているが、そんな目で私を見るんじゃない。

嘘はついていないからな。噓は。

目を逸らしていると竹塚は普通の表情に戻り、口を開く。


「さて、休憩はここまでにして課題を進めましょうか。」

「私の気まぐれ課題。」

「そんな安達には僕が気まぐれドリンクを差し入れして下ますよ。ごま油っていい香りがしますよね。あと生クリームってパフェっぽくて良いですよね。」

「さて、気まぐれは止めて真面目に課題を終わらせるとするか!」


もう少し楽をしようと思ったら、とんでもない物を飲まされそうになったので急いでペンを手に取る。

なんでごま油と生クリームを合わせて出そうとするんだよ。

何とも無い表情で地獄を作ろうとするんじゃない。

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